黒板のジャングル⑧
「はなせッ」
「こら、暴れるな!」
千代子は無理やり男性教員らによって警官の所へ連れて来られた。
「麻宮千代子さん、だね」
「ああ」
千代子は警官相手でも凄む。
「少し話がしたい。署まで同行願うよ」
「断るッ!」
「麻宮ッ!!」
体育教師が拘束されて身動きできない千代子の頭を殴る。ボコッと鈍い音がする。
「ああッ!」
千代子は殴ってきた体育教師を睨み付ける。
「まぁまぁ、先生もそこまでにして」
「は、はぁ」
警官が体育教師をなだめると、千代子にだけ聞こえるように小さな声で言った。
「パトカーの中まででいいから」
「はっ?」
「取って食いはしませんから。ほらパトカーには運転手はいないから」
「…………」
署まで同行をっと言ったのならそれは断ることができる。強制ならそんなことは訊かないからだ。だけど中には断れば公務執行妨害でと、脅してくる者もいる。
千代子はパトカーに目をやる。たしかに運転手はいない。周りに警官もいない。仮にパトカーの後部座席に乗車しても警官が運転席に移る間にすぐに降りればいい。
「……わかった」
千代子は警官の言うことに従い、男性教員らによって乱暴にパトカーの中に入れられる。
「さて──」
警官は千代子がパトカーに乗車して話を切り出す。
「被疑者としての証拠はない」
「はっ?」
「まぁ、職務質問ということで」
「……どういうことちや」
「君は普段、学校に来ている?」
「……あまり」
「生徒や先生からの自分の印象は?」
「……あまり」
「タバコは吸う?」
「吸わん」
「今朝はどうしてた?」
「友人を待ちよった」
「どこで?」
「昇降口」
「何時から何時までわかる?」
「始業ギリギリまで待ちよってて、そのあと通学路を戻りよったところに消防が学校の方へ行きよったのを見て、あたしも学校に戻んたら学校が燃えよった」
「どうして通学路を戻ったの?」
「事故に遇っちゅうかもしれんき」
「なるほど、じゃ女子生徒5、6人に最近何かあった?」
「はっ?」
「くるぶし丈のスカートにソバージュにピアスに真っ赤なルージュをした女子生徒たち。一人なんだかリーダー格の人間がいる集団」
「あー、なんだか昨日女子トイレにいちょったな。なんかリンチしよったみたいやから止めさせたけんど」
「おそらくそれが気に入らなかったんだろうね」
「ん?」
「その女子の集団はタバコを吸っていた?」
「いやぁ、あまり覚えちょらぁせんけど、その時は吸っちゃあせんかったような」
「そう。じゃあリンチされていた子は覚えてる?」
「ああ。それは覚えちゅう。衣咲という女子」
「その衣咲という女子生徒は何年生?」
「三年」
「ちょっと待てね」
警官は話を切り上げパトカーから出て、同僚の警官に話を告げ、そのことを同僚の警官が了承をすると衣咲を探しに行き、千代子を尋問していた警官がパトカーに戻ってきた。
「……ちなみにその衣咲という女子生徒と君の関係は?」
「知りあい」
「そうかい。もしその女子生徒が昨日のことを覚えているのなら、疑いは君から5、6人の女子生徒集団になるね」
「あっそ」
「まぁ、どうせ恨みでも持たれたんだろ。君の容疑は大したことない。だけどその衣咲という女子生徒が来るまで待ってね」
「ああ」
千代子はプイッと窓の外を見た。そこには教師どもがこちらをちらっちらっと見ていて、千代子にはとても不愉快だった。
「ちよちよ」
「大丈夫よ美春。絶対に千代子じゃない。あなたならそのことを知ってるでしょ」
「……うん」
美春は顔をうつむかせて言った。元気のない返事だ。
「ちょっといいかな、君が衣咲さん?」
同僚の警官が美春たちのところにやって来て衣咲に訊いた。
「ええ、そうですけど」
「麻宮さんの件で話があるからちょっと車まで来てもらっていいかな」
「はい。わかりました」
「ちょっと待って、なんで衣咲が!?」
「……くわしくは言えないけど麻宮さんの裏付けが取れるかどうかのためだ」
「……なるほど、あいつらね」
衣咲は火元となった人物が頭に浮かんだ。
「志穂さん、美春さん、大丈夫です。千代子さんはきっと戻って来る。信じて」
「衣咲」
「衣咲先輩」
衣咲はみんなにそう言い残し同僚の警官にパトカーまで連れられた。
「あれっ、莉音?」
志穂は周りを見渡した。いつの間にか莉音がいなくなったのである。
「莉音?」
志穂が莉音を呼ぶが返事はこない。
第一第二部室棟は燃え、もう使うことはない。そして部室棟から体育館棟まで規制がかかっており入ることはできない。
だが教室棟はすんなりと入れた。生徒が校庭に避難する際に扉を開け放したからである。取り残された生徒がいるかもしれないからだ。しかし逆に言えばいつでも無事の教室棟なら入ることができるということだ。
その教室棟を下駄箱から入り、近くの階段から一番上の空き教室の階に着くと、屋上に続く階段がある。普段の屋上の扉は鍵を閉められている。その鍵は管理棟の職員室にある。その鍵を得るには職員室に入り教員の許可をとってでないと無理だ。普段は。
しかし今回のような火事の場合は教室棟も管理棟も人はすべて出払う。言うなれば、火事場泥棒ができる。そう、莉音は火事場泥棒をしたのだ。
誰もいない職員室に堂々と入り、そこから色んな鍵がかけられているボックスから平然と屋上の扉の鍵を盗む。
そこから管理棟から教室棟へと移り、階段を屋上まで登り、屋上の扉の鍵を開ける。
ガチャンと鍵の開く音がすると莉音は屋上の扉を開く。
ぶわぁと一陣の生ぬるい風が莉音を包む。莉音は不快感を感じながらも一面に広がる屋上を見渡す。
「汚い」
校舎は白く、屋上も白なんだが台風の爪痕や何年も掃除をしてないのか屋上は汚かった。白の靴下で歩いたら足の底が黒く汚れる。
「ふぅ」
莉音はスカートのポケットからスマホを取り出す。すかさず電源を入れスマホから魔法少女アプリの変身アプリを押す。ぱあっと電子的な粒子が莉音を包みピンクの魔法少女に変身する。
まだマキャファートの展開した電磁フィールドが閉じてはいなかったのだ。
「部室棟が直れば、世界改変が起こり、千代子は無実になる」
莉音は暴走していた。千代子を信じきれずにいた。千代子を無実にするにはまず火事を何とかすればいい。そう思い、莉音は手を天にかざす。
「はああぁぁぁああ」
莉音は世界改変するぐらい広く大きく回復魔法を行った。
その時、バチバチっと音がし周りの景色が白い粒子がに包まれ、まるでゲームがバグを起こしたように景色が建物がありえないくらいに歪み、折れ、出現し、混沌としていた。
「はああぁぁぁああ!!」
そして、世界はオーバーライドした。




