黒板のジャングル⑦
「大丈夫か?美春!」
「あっ、ちよちよ。私は大丈夫です」
「そうか、よかった」
千代子は空き地に着き、美春の無事を確認するとホッと胸を撫で下ろした。
「それより、千代子さんは何故ここに?」
「ああ、美春が心配になってな」
「ちよちよ!」
美春が千代子に抱きつく。とてもうれしいのだ。
「そぅ。でも少し遅かったわね」
「はぁ?」
「いえ、何でもない。こちらの話よ」
「……で、あんたは何故ここに?美春は近道として使っちゅうがやけんど」
「……そんなこと、どうでもいいでしょ」
「そうか。わかった」
千代子がそれ以上踏み込まないと察した。その時、
〈ウーウーウーウーカンカンカンウーウーウー〉
消防車がサイレンを鳴らして走ってきた。
「消防車です……」
「カンカンと鳴りゆうことは火事か」
「っ!?美春さん、千代子さん、学校の方に消防車が……」
「えっ!」
「行きましょう。何か学校にあったのかもしれない」
「はいっ」
美春と千代子と衣咲は何か嫌な予感をしながら学校へと向かう。
「あっああぁ、やべーぞ」
〈ウーウーウーウーカンカンカンウーウーウー〉
不良どもは焦っていた。ラーメンをささっと食い終わり学校に戻ろうかとしてたら消防車が学校にやって来る。
「ど、どうする」
もはや呑気に学校に戻ろうとは思えなかった。
「ほっとくのも地獄。戻るのも地獄」
「ほっとこうぜ」
「でも、ほっといたらマッポにパクられるんじゃね」
「それ、マジやべーよ」
「どうすんべ」
「このままどこかに逃げようぜ」
「無理だ」
「無理だろ」
「無理じゃね」
「無理ならば」
「無理れば」
「じゃあ、どーすんだよ」
「……捏造すっか」
「どういうこと?」
「全員で見たことにしよう。犯人を」
「犯人が学校に火をつけたところを見た、と」
「でも、それ疑われるんじゃね」
「じゃあ、どーすんだよ」
「このままじゃ、タバコを吸ってたところを誰かに見られたりしてたら」
「バカっありえねーよ」
「落ち着け、とりあえず捏造に反対のヤツ」
「………………」
「いないな、じゃあ決定だ」
「うっす」
「あっ、待って志穂ちゃん」
「えっ、何?どうしたの」
「私たち魔法少女の格好じゃん」
「あっそうだったわね」
「解除しよ」
「でも、途中で敵が来たら……」
「その時はすぐさま変身すればいいんだよ」
「そっ、そうね」
二人はスマホから魔法少女アプリの変身アプリを押し変身を解除した。
「よし、これで制服に戻った。行こう、志穂ちゃん」
「うん」
タッタッタと二人は学校へと駆け戻る。するとそこは、
〈ウーウーウーウーカンカンカンウーウーウー〉
「危ないからさがってください!」
「ホースが足りない。消防の応援を頼め」
「第二部室棟の火が第一部室棟に燃え移った。早くしろ」
「現在、生徒を校庭に避難させています」
「至急、第一第二部室棟に生徒、教員、事務員がいないか確認しろ」
「おいっ、この学校のプールはどこだッ!」
「第一部室棟の屋内プールです」
「屋外プールはないのか」
「体育館棟が新校舎として建てるときに廃止したそうです」
「くそったれがッ!」
「おいっ、第一第二部室棟には防火扉やシャッターはないのか!?」
「現在、確認中です」
「早くしろッ!」
現場は修羅場と化していた。
「何よ、これ……」
志穂は茫然自失となっていた。
「学校が燃えている」
莉音はガクッと膝をついた。
「はぁはぁ、なっ…………」
千代子が学校に到着したとたん、言葉を失った。
「はぁはぁ、そんな…………」
美春は愕然とした。
「……………………」
衣咲だけは冷静に見てた。
〈ゴオオオゴオオオ〉
火が燃え盛るなか鎮火に8時間を要した。
「あ~疲れた。毎当務、毎当務、火事やら交通事故やら水難事故やらでしんどい」
「俺なんか夜中の3時まで訓練で一睡もしてないんだぞ」
「俺は脱水症状になりかけで放水する筒先から水を飲んでいたんだぞ」
「お前らはいいよ。俺は休憩中にミネラルウォーターを飲みながらタバコを一腹したら、みっともないってどやされたんだぞ」
「それはお前が悪い。消防隊は市民の信用と協力がなくてはならない仕事だ」
「すっすいません」
「どっちのことを言っている」
「申し訳ないです。もう現場で休憩中にタバコは吸いません」
時刻は夕方になり、第二部室棟は全焼、第一部室棟は半焼となりもう部室棟は使えない状態になっていた。
幸いにも怪我をした人物はいないというそうだ。火事になった時刻が朝の始業で誰も部室棟にいなかったことがよかった。
「それで、火元なんですが……タバコの吸い殻が見られましてですね…………」
学校には消防隊のほかには警察が到着していた。不審火の疑いがあるからだ。しかし原因はタバコの吸い殻と警察は断定した。つまり、タバコの不始末ということになった。
「教員や用務員などにタバコを吸われる方で朝方に部室棟に近づいた人物は知りませんか」
「いやぁ、大体の男性教員は吸いますから。それにその時間帯に部室棟にいることはあまりないかと、朝の職員会議もあるし。用務員さんも不必要に行くとは思えません」
80年代の学校はまだ校内禁煙ではなかった。2002年から健康増進法により始め2005年には全国的に学校は校内禁煙となった。それでもこっそりと吸ってるヘビースモーカー教師はいるのだが。
「となりますと、生徒になりますね。普段タバコを吸っている生徒はいますか?」
「えーと、そうですね。そんな生徒がいたら見つけしだい鉄拳制裁でやめさすんですけどねぇ」
教頭はなんとも歯切れの悪い回答をする。
そりゃそうだ。未成年がタバコを吸ってるなんて警察に知られたら、学校の信頼も損なわれ、PTAや教育委員会などにうるさく言われる。
「私、麻宮さんがタバコを吸ってるのを見かけました」
そんなことを吐くのは不良どもの姐さんだった。それに続き取り巻きの不良どもが嘘を吐き続ける。
「私も見かけました」
「私も」
「ってか、麻宮さんって朝、部室棟近くでタバコ吸ってるよね」
「あーね。私も見たことある。誰もいない時間帯らしいから吸ってるみたいよね」
「えーと、ちょっと待ってくれるかな。麻宮さんって誰かな」
警察が不良どもに訊いてくる。
「二年生の『麻宮千代子』さんです」
「……教頭先生、麻宮さんという生徒はどういう感じの生徒ですか」
「……言ってしまえば、不良です。スケバンと言うんでしょうか、あまり授業に出ない、学校を無断で休む、平然と遅刻をする、校内をフラフラとし教師が注意しては舌打ちをし無視する。あまり良くない生徒です」
それに追い討ちをかけるように不良どもはどんどんと付け足す。
「麻宮さんには鉄仮面伝説と言われる伝説があるんですよ」
「そうそう、なんかヨーヨーで先生を殴ったりしてたし」
「なんか、いつもチェーンを持ち歩いていたし」
「それと、ケンカもしてたよ。顔はやめなボディにしなって」
「ってか、私かつあげされたことあるー。なんかここを通りたければ通行料を払えって。昇降口近くの階段でだよ。私怖くて払うしかなかったもん~」
「それに優等生の女子を拉致してヤクザたちに輪姦したそうよ」
「それだけじゃ飽きたらず新任の女の先生まで拉致して輪姦されたらしいよ。あの先生、私に泣きながら打ち明けてくれて、そのあと学校を辞めちゃったしさ」
「あーちょっと待って君たち。あまり憶測で言わないでくれる」
「憶測じゃないですぅ」
「教頭先生、他の先生方は?」
「体育教師は言っても言うことを聞かなくて大変手を焼いていました。女性の先生方は本当に困っていて、あの生徒が睨み付けるようでして……」
「……あまり、教師からも生徒からも良くない印象だと」
「……はい」
「ってか、麻宮さんは根性焼きを男子の腕にやったんだよ。誰だっけ?根性君?」
「近藤君だよ。毎日コンドームを持ち歩いてる」
「ああ、そう近藤君を」
「……教頭先生、その麻宮千代子という生徒は」
「はっ、たしか教員が珍しく見かけたと言っておりました」
「まだ、学校にいますか」
「念のため校門や裏門を封鎖していますのでおそらくはまだ学校にいると思います」
「連れてきて下さい」
「はいっ」
「どういうことちや」
「放火の可能性もあるみたいね、部室棟には家庭科室なんてないんだし」
千代子と志穂が燃え尽きた部室棟の方角を見て言った。
「…………」
依然として莉音と美春は口を閉ざしていた。学校が燃えたということがショックだったのた。
「衣咲、あなたは大丈夫?」
「ええ。幸い、生徒会長ではなくなってたから助かったわ。おそらく私はあの時間帯なら朝の業務で生徒会室に居残ってたと思う」
衣咲は第一版の世界では生徒会長だったが、夏休みに莉音の回復魔法の世界改変によって第二版の世界になってからはいじめられっ子になっていたのだ。
「そう」
志穂がそう言い会話を終えると。
「麻宮ーッ!」
千代子を呼ぶ怒鳴り声がした。
声の主は体育教師だった。体育教師を先頭に教頭や男性教員らがずらずらと並んでやって来た。
たかが一人の女子中学生のために、大人げない。
「あぁ」
千代子はそれに不機嫌そうに答える。
「お前がタバコを吸って校舎に火をつけたんだろおぉ」
「はっ、してないし」
その千代子の反抗的な態度に体育教師はキレそうになり千代子に凄む。
「嘘をつけッ!お前がタバコ吸ってるのを見たというやつがいるんだッ!お前以外にありえんッ!」
「あぁ!」
千代子はその謂われのない無実の罪を着せられ体育教師に睨み付ける。
「ちょっとちょっと。先生、千代子がやった証拠があるんですか?」
志穂が割り込むが。
「こいつがタバコを吸っていたのを見たというやつがいるんだよッ!」
「それは、証拠ではなく証言です。その人が嘘をついてる可能性があります」
「黙れッ!!」
「きゃあっ」
体育教師が志穂の頬をぶった。それを見た千代子が激昂する。
「おいっ!何しょうらーッ!おんしゃあッ!!」
「ぐっ」
千代子も反撃として体育教師の顔を殴る。
「きさまー」
「待って先生、警察もいますので手荒なことはやめて下さい。おい、抑えてくれ」
数人の男性教員は千代子を押さえ込み無理やり警察のところに連れていこうとする。
「おいっ!あんたらぁ揃いも揃って。くっ」
長身の千代子ではあるが相手は大の大人数人であり力のある男たちだ。千代子は無残にも男どもに押さえつけられ連れていかれる。
「くっ、はなせッ!!」
「うるさいッ!黙れッ!!」
バシッと千代子なの頬を体育教師が殴る。千代子の頬は赤く腫れ上がった。
「ちよちよッ!」
「美春」
美春が千代子の名を叫ぶも男どもは千代子を押さえながら連れていこうとする。
「ちよちよーーッ!!」
「美春ーーーーッ!!」




