黒板のジャングル③
「会長は…………」
「もう会長ではないわ」
志穂は衣咲をつかまえ不良たちに見つからない場所で話を切り出した。
「では、なんて呼べば……」
「衣咲でいいわ。さんもいらない」
「では、衣咲。衣咲はどう思う。莉音はもう回復魔法を使ってはいけないと思う」
「……程度にもよる」
「やはり、広域的なのはダメ?」
「ええ。先の天災でめちゃめちゃになってもなるべく人の手で直した方がいい」
「…………例えば、戦災とかで焼け野原になっても莉音の回復魔法には頼らない方がいい?」
「……志穂さん、戦争をする気なの?」
「……例えばの話です」
「……現在、マキャファートさんの国は戦争中だけど、仮にここで何かあれば莉音さんの回復魔法に頼った方がいいけど」
「けど……?」
「……けどそれをすると、本当に世界は混沌とする」
「そう。やっぱりダメね」
「……もしかして、戦争をしようと考えている?」
「……なぜそのようなことを?」
「……そうね、もし自衛隊が国防軍になったらどうなると思う?」
「……軍になれば、軍事力という矛を持てば、周辺国に緊張が走るわね」
「ええ。志穂さんの言う通り、緊張が走る。自衛隊とは違う。こいつは殺る気だなと周辺国に思わせることになる」
「軍より自衛隊の方が安全が秩序が保たれるということね」
「そう、そして今の戦闘がチラついている状況が今のところ安全で秩序が保たれるのよ。そして私はそれでいいと思っている」
「……本当にそうですか?結構、危険なことを潜り抜けたのだけど」
「それは、あなたたちが魔法少女だからでしょ。主に一般人にはこれといった被害は出てない」
「すみれは亡くなりました」
「たしか、相手も二人亡くなったのでは?それにすみれさんは災害でしょ」
「………………」
「とにかく、下手に大事にしてはいけない。広域の回復魔法も、戦争も」
「…………いつまでこの状況が続くかもわからない。永遠に続くかもと思っていてもある日終わりが来るかもしれない」
それは40年間週刊少年ジャンプで連載を続けていた『こち亀』が最終回を迎えるように。
「……今のこぜり合いのようなところからこれ以上ひどくしてはいけない」
「ではこれ以上よくすることは?」
「それは無理よ。戦争中だから。戦力を壊滅的にしなければ終戦もならない」
「終戦が無理なら、休戦や撤退は?」
「それもまた難しいでしょうね」
「では一体どうすればいいのですか?私はこれ以上、誰が死ぬのは……見たくはない」
「…………方法としては上が何らかの講和条約をする必要がある」
「サンフランシスコ講和条約では日本に在日米軍を残すかわりに日本の主権を復活させるというのだけれど、マキャファートの国はどうなると思います?」
「……お金でしょうね」
「やはり、戦争賠償ね」
「もし、講和条約が締結できるならその方法が考え付く」
「では、衣咲。もし講和に必要な額ってどの位かしら」
「……超越通貨でいうと、上級金貨レベルだと思う。その位ではないといろいろと立て直させないだろう」
「立て直せないということはそれほど経済的に圧迫しているのね」
「戦争は兵器から魔法に変わった。魔法を作るというのは安いことではない」
「なるほど、交戦国どちらも経済的に困っているのね」
「……志穂さん?」
「はい」
「なんだか、あなたが考えていることはまるで戦争ビジネスをするみたいだわ」
「魔法に変わって戦争ビジネスは儲けれるんですか?」
「なぜそのことを」
「一応です。まぁ好奇心からも」
「はっきり言って、儲かる。事実儲かった事例もある」
「っ!?それはどういう内容ですか」
「……あまりいい話ではないのよ」
「それでもお願いします」
「……すみれさんのようなMADボムを売り込んだわ。それも上級金貨レベルの額で」
「なっ!?」
「……いいこと、志穂さん。変なことは考えないで。戦争ビジネスなんて儲かっても嬉しくないわよ」
「畜生ッ!!」
ガッとマキャファートは尻尾で物に当たる。
マキャファートはどこぞと知れず、誰にもわからぬ場所にいた。
「すみれのMADボムは、僕が継承するはずだったのに」
マキャファートは怒りに満ちていた。普段はこんな顔なんてしないのに。
「まさか、志穂が一枚噛んでいたとは。いや、志穂ならただですみれに渡そうとはしないだろうとなんとなく考えていたのだが。まさか、どうやって。素人の癖に何も知らないはずなのに」
マキャファートは継承システムの遺言状という方法は志穂にはたどり着かないだろうと考えていた。だが、その自分の浅はかさに悔いていた。
「まずい、すみれどころかMADボムを失うなんて。莉音の回復魔法、防御魔法、世界改変だけでは潜り抜けない。……MADボムがあればこの戦争になんとか優位に進めれるのに」
マキャファートは最初、莉音を魔法少女にするとき感じ取った。あまりにも多すぎるMP、そして回復魔法。これは必ず、ご都合が起きると確信していた。
そう、マキャファートは最初から莉音が回復魔法の副作用で世界改変を起こすことは知っていたのだ。
「……このままだと、莉音の世界改変に頼るしかなくなる。でもそれは破壊と再生を繰り返さなければならなくなる。すみれを失った今、大量破壊なんてできるだろうか」
マキャファートはこれからの魔法少女たちのことを考える。そして、
「……いわゆるテコ入れかな。大きなことを起こさないと……破壊できないし回復ない。そして世界改変もない」
「……そんなっ!!」
アイラは感情を露にし机をおもいっきり叩いた。それは部下を失った悲しみではない。もちろん部下を失った悲しみはちゃんとあるのだが、それよりも大きなことが起こった。
「世界が、オーバーライドしただと!?」
オーバーライド、つまり上書き保存みたいなものである。
前の世界から今の世界に上書きされ、世界は改変したのである。
「まさか、莉音殿がこのような能力を隠し持っていたとは……」
それはアイラの誤算だった。アイラは莉音なんてただのチームのヒーラーだと思っていた。MPもチート的ではあるが、ただの回復チートだと思っていた。しかし、
「本当にチート能力だったのは、世界改変の方だったのか……。おのれ、私は大バカ者だ。なぜ気づかんかった」
アイラは自分で自分を恥じた。しっかりと莉音について考えればもしかしたら、気付いたかもしれない。
「……仕方ない、動かなければならない」
アイラは決意する。
「私が魔法少女たちと戦わねば」




