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レベル255の魔法少女  作者: パラドックス
第二章 第一版世界
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台風の学校⑩

「…………ハァア」


「まったく、改造能力は厄介だよ」


 ヴィルは右腕の剣をさらに刃渡りを伸ばした。

 これで攻撃範囲を広めるつもりだ。

 そして、ヴィルとマキャファートがいる場所は体育館の一階の正面玄関で奥にある剣道場や柔道場は扉で閉められている。それほど広くはない玄関のほかには二階へと続く階段があるだけだった。

 ヴィルにとって足場の悪い広い外より狭い体育館にマキャファートが逃げたのは好都合だった。

 そんな狭いなかで刃渡りの長い剣を振り回せればどういうことかわかるだろう。


「…………ハァ!」


 ヴィルが逆袈裟斬りでマキャファートを斬ろうとするがマキャファートはそれを跳び避ける。するとヴィルの剣は下駄箱を切り裂き中の上履きや体育館シューズなどが飛び散った。


「…………しつこいネズミめ」


 ヴィルが次の構えをするとき、どたばたと激しく階段を駆け下りる足音が聞こえた。


「あっ!!」


「…………着たか……」


 莉音と美春と千代子の魔法少女三人が駆けつけに着た。

 そして三人は目の前の光景を見るとすぐさま戦闘体勢に移る。

 接近戦は遊撃の千代子が、遠距離は妨害の美春が、サポートは回復と防御の莉音が担当する。


「やぁああ」


 まず初めに美春が電撃をヴィルに喰らわそうとする。手始めに相手を麻痺させて動きを封じるつもりだが。


「…………」


 ヴィルはそれを剣で防ぐ。美春の電撃はヴィルの剣によって飛び散った。


「はぁあ」


 すかさず千代子が殴りにかかる。


「…………っ」


 それにヴィルは反応し腕先から無数の剣弾を打ち出す。まるでペガサス流星拳のように。


「──っは!」


 千代子は玄関の石畳に波紋を残し、ヴィルの剣弾を躱し跳ぶ。

 そして、一跳一瞬の一撃をヴィルの脳天に叩き込む。


「んんっ!」


 ヴィルは激痛に苦しむが、すぐさま攻撃に転じヴィルの大太刀が千代子を天井に吹き飛ばした。


「かはっ」


 千代子は背中を強く打ち口から血を吐く。千代子のHPが3700から3620へと減る。


「っは!」


 莉音が掌を前に出し回復魔法を行う。するとみるみると千代子の背中の痛みがなくなりHPも3700へと全回復した。


「…………」


 ヴィルはそれを横目で見、莉音を潰そうと莉音に向い突進する。


「っぐ!」


 莉音は吹き飛ばされ身体を階段に打ち付けられる。体育館はコンクリート製で壁だけではなく階段もコンクリートで硬い。莉音は全身に激痛が走る。


「っかはぁはぁ」


 莉音は激痛に苦しむ。内臓が胃が吐き気を催す。喉まで吐瀉物が上がって来そうで、全身に寒気が、まるで病魔と大怪我が一緒にやって来た感覚に陥った。

 莉音は自分自身で回復は出来ない。仲間の魔法少女を防御や回復は出来るが。

 それ故にヴィルの突進の一撃は有効だった。莉音さえ動けなくしたら仲間の回復はない。永久機関にはならない。出来ない。


「やぁああ!」


 莉音を吹き飛ばしたあと、ヴィルは美春の電撃を喰らった。


「…………っつ」


 ヴィルは美春の電撃により麻痺状態になった。身体が痺れ思うように動かない。


「美春、一度莉音を上に引き上げて」


「はっはい」


 美春はマキャファートの指示で莉音の肩を持ち上げ二階へと避難させる。一応二階からでも莉音の回復魔法は届くが、実際にどのような戦闘が起きているかはわからない。


「はぁあ」


 千代子は麻痺状態のヴィルに再び拳を打ちかます。


「ぐぅぅ」


 ヴィルは土石流に飲み込まれて体力が減りさらに美春の電撃で麻痺状態になりそこからさらに千代子の拳を貰いもう瀕死に近い状態であった。


──その時


〈ザザザザザザザザザザザザザザザザ〉


 壊れたガラス扉から体育館の玄関に大量の水が押し寄せた。


「千代子!君も二階へ行け」


 そう言ってマキャファートはぴょんぴょんと階段を駆け上った。


「まさか、初音川か」


 千代子の言う通り、初音川の決壊により大量の水が学校敷地に押し寄せた。土石流の土石や木々により体育館近くの元食堂は大量の土石の山が積み、川の水がそれを避けるように体育館の方へと流れた。泥水が濁流が体育館の一階を飲み込もうとしていた。


「…………逃げるのか」


「避難だ」


 千代子はそう言って階段前にいるヴィルを乗り越えるのをやめ、千代子の特異性である『力』を振り絞っておもいっきりジャンプし、玄関のコンクリート製の天井を突き破った。

 コンクリートが粉々に砕けパラパラと玄関に落ちる。それを見てヴィルは言った。


「…………仮面ライダーかよ」


 ヴィルも麻痺状態ながらも一階の状況に危機を感じ二階に避難した。









「大丈夫!?莉音!」


「うっう」


「志穂さん、見た限り莉音さんは全身を強く打ってますがいずれ時間がたてば治ってくるでしょう」


 志穂と衣咲は美春によって運び込まれた莉音の看病していた。

 莉音の怪我はそれほど酷くはなく病院に行くほどでもなくいずれ自然治癒でなんとかなる程度の怪我だった。

 しかしヴィルにとって、この戦闘の間は動けない方が都合がいい。


「っ!?マキャファート」


 美春が二階から階段を見張っているとマキャファートがやって来た。


「大変だ。川の水が一階に押し寄せてきた」


「えっじゃあ、もしかして体育館は危ないんですか」


「まぁ、沈むかもしれないけど、つぶれるかもしれないけど。でも、莉音の回復魔法ならすべて元通りだよ」


「それはダメだっ!!」


 衣咲がマキャファートに遮るように言う。その激昂に皆は驚く。


「あまりにも不思議な超常現象を起こすと一般人が変に…………」


「でもこのままじゃあ、皆死ぬよ。確かにここまで大事に莉音の回復魔法でやったら感づかれるだろうけど、やらないと体育館に潰れるよ」


「……………………」


 衣咲は何も言い返せなかった。


「さっさと、ヴィルを殺さないと何も始まらないんだけどね」


 マキャファートが言い終えたその時、


〈バコォオオ〉


 コンクリートが砕ける音がした。千代子が一階の天井を打ち破って二階の床の一部が崩落した。


「……どんな登場の仕方をしてるんだい。千代子」


 マキャファートが飽きれ気味に千代子に言う。


「あぁ、ちょっと。急やったもんで」


「……千代子、ヴィルはどうなの?」


 志穂が千代子に訊く。


「おそらく、虫の息やろう」


「そう」


 志穂は小さく呟いた。


「とりあえず今はヴィルを何とかして、そのあと莉音の回復魔法ですべてを回復しよう。そうすれば皆助かるし元通りだ」


 マキャファートはヴィルを殺せと皆に促した。

 現在、台風により水害が酷い。なんとかしなくてはと皆思った。


「待て、」


 衣咲が異を唱えようとするがすかさずマキャファートは反論した。


「すみれの『遺体』を回収しなくちゃ」


 その言葉に皆、恐怖に震える。やはりすみれは死んだのか。

 すみれはおそらく、土石流に飲み込まれその土石の何処かにあるのだろう。


(蘇生魔法さえあれば…………)


 志穂は決心する。すみれの遺体を回収し、霊安室でもホルマリン浸けでもなんとしてでもすみれの遺体をきれいに保存し蘇生魔法を手に入れるまで絶対にすみれを『生かそう』と思った。



「…………はぁはぁ」


 ヴィルが虫の息ながらも二階に上がってきた。

 それにすぐさま美春と千代子が反応し戦闘体勢にはいるが、


「待って」


 志穂が美春と千代子を制止した。

 そして志穂はスマホから魔法少女アプリの変身アプリを押しブルーの魔法少女に変身した。


「そいつは死なない。改造能力によって死ねないの」


 志穂はヴィルの前へと出る。


「…………覚えていたのか」


「でも、そうじゃない。死のシステムには条件がある。それに従えば、死ぬ」


 それはヴィルに言っているのか、すみれに言っているのかはわからない。


「…………死は生に先行するか」


 厳粛に生きるための厳粛な死が与えられてない。

 死は生きることの前提。


(どんなに楽しく生きても、死に様は無様よ)


「──必殺」


 志穂は居合いの構えをする。

 必殺技の構えだ。



「源始の一撃ッ!!」



 志穂は居合い抜き、その一閃──


「ッ!!」


 ヴィルの身体は真っ二つに切り裂かれ、絶命した。その最期は呆気ない。




「ふぅ」


 志穂は刀を鞘に納めた。いつもの連撃ではない。ただの一撃。

 すみれから与えられた必殺。

 志穂の刀にはヴィルの血がついた。

 それはまるですみれの愛したソビエトレッドの血だった。

 遺愛のソ連の色のように。



「………………………………」


 皆は黙っていた。それもそのはず目の前の非情な様を見て皆は凍りついていた。

 本当に目の前の人は志穂なのだろうか。そう思っていた。

 人を殺すことは凶悪で残虐だ。

 どれだけ素晴らしい生き方をしても、簡単に非道の鬼畜と見られるだろう。

 しかし、殺らねばならぬ時だった。

 イルヴァの時はすみれが、ヴィルの時は志穂が殺ったのだ。

 殺さなければ終わらない。

 戦争の最前線はそういうものだろう。



「さて、莉音大丈夫かい?」


 この空気の中から先に口を開いたのはマキャファートだった。


「え、あっうん。なんとか、回復してきたよ」


 莉音は全身を打ち吐き気を催したが次第に治癒してきた。


「一階は水が迫ってる。莉音の回復魔法でなんとかしなければみんな体育館に潰れる。それにとても広範囲にすれぱ、川も決壊する前に、山も土砂崩れが起こす前に戻れる」


「うっうん」


「もとに戻ればすみれの遺体を回収できる」


「………………」


「……さすがに、莉音の魔法は回復で蘇生は無理だ。でも大丈夫だよ……ね」


 マキャファートは志穂に向かって言う。


「ええ、そうね。すみれを生き返せる方法はある」


「っ!?」


 莉音はその言葉に反応する。


「待って!!やめて!お願い莉音さん回復魔法は……」


「莉音っ!」


 衣咲が止めようするもののマキャファートが莉音に一喝をする。

 莉音がどちらを選ぶのは明白だった。


「うん。わかったよ」


 莉音はすくっと立ち、手を天高く上げた。


「はああぁぁぁああああ!!!」


 莉音は最大級の回復魔法を行う。

 すると、ビデオテープを巻き戻してるかのように何もかも回復していく。


 体育館も。食堂も。渡り廊下も。

 土砂も。山も。初音川も。堤防も。

 その範囲は学校だけではなく、千原町も栄原町も天月町も、台風13号の被害にあったすべてを回復していく。


 そして、すべてが回復し終えると、皆すぐさま体育館を出た。衣咲は以外は。





「はぁはぁ、あっあった!」


 莉音がすみれの遺体を見つける。

 食堂からわずか十数メートルの位置に居た。

 すみれの死に顔はとても穏やかで綺麗な顔をしていた。


「っうぐ、スミー」


 最初に泣いたのは美春だった。

 もっと、遊びたかった。そんな後悔が死後になってようやくわかる。


「ひっぐ、っぅぐ」


 次に泣いたのは莉音だった。

 莉音は死線を潜り抜けてきたが、目の前の本当の死に直面して、ようやく死を感じた。


「…………ひやい……っく」


 千代子は涙を一筋流した。

 冷たくなったすみれを触り、もう生きてはいない。死んだんだと悟った。


「…………大丈夫だからね。すみれ」


 志穂は泣かなかった。

 絶対に生き返らせてやる。その強い信念があり涙は流さなかった。


「……………………」


 マキャファートは沈黙していた。

 いずれ皆死ぬ。それがわかるマキャファートにはこんなの通過儀礼だと思った。





「私がすみれの遺体を預かるから」


 志穂は自分の最高の施設で絶対にすみれをきれいに保存しようとしていた。


「……だから、葬儀とかは行わないでくれる」


「………………」


 みんなは言葉を発しなかったが肯定をした。


「私が、絶対にすみれを生き返らせてみせるから」







 衣咲は一人体育館でぽつんと突っ立っていた。


「……こんな、広範囲に回復魔法をしたら……」


 衣咲は諦めの声を出す。


「世界が混沌とする」




 ここで物語はまた分水嶺に入る。




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