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レベル255の魔法少女  作者: パラドックス
第二章 第一版世界
63/93

台風の学校⑧


「……お願い。出て」


 志穂が祈るように連絡を取る。先程の土石流に巻き込まれてないか心配している。

 3コールしたあと、


「もしもし。志穂か?」


「もしもし。千代子、あなたは大丈夫?」


「ああ、大丈夫。なんとか、助かった。それと美春も無事やき」


「そう、よかった。美春に代わってくれる」


「ああ」


「もしもし。しーちゃん」


「美春、大丈夫?」


「うん。私は大丈夫です。でもちよちよが……」


「いや、大丈夫やき。なんちゃあない」


「えっ、どういうこと?」


「ちょっと頭を怪我したばあやき。全然大丈夫。心配せんといて」


「そう、でもよかった。二人は今はどこ?」


「あたしんくらは今、第一部室棟の5階におる。志穂は?」


「私と莉音と会長の三人で今、体育館にいる」


「そうやったら、あたしらがそっちへ行くか」


「大丈夫なの」


「ああ、まかしちょき。体育館へ集合な」


「うん。気をつけてね」


 プツッと電話が切れる。


「二人はこっちに来るそうです」


「そう。じゃあ莉音さん、二階へと降りれる?」


「えっはい。なんとか動けます」


「莉音、あんまり無理しないでね」


「うん。もう大丈夫。少し休んだから、平気」


 志穂は莉音の肩を持ち上げゆっくりと二階へと降りる。三階の観客席は管理棟とつなぐ渡り廊下以外に二階へとつづく階段がある。そこは体育館のステージの正反対にある。


「二階の体育館にはベンチがある。そこに休ませましょう」


「はい。わかりました」


 志穂は衣咲の言葉通り二階の体育館に降りた入り口の近くに長ベンチがありそこに莉音を座らせた。板の床に寝かせるよりはましだろうと思った。


「大丈夫。莉音?」


「うん。だから大丈夫だってば」


「そう。じゃあ私、すみれにも電話するから」


「うん。わかった」


 志穂は莉音から少し離れスマホからすみれへと電話をかける。

 このとき志穂は少し安心していた。美春も千代子も無事だった。だから、すみれも無事だろうと。そんな安全神話が志穂にもあった。









「…………そこまでだ。ネズミ」


 ヴィルが食堂に到着した。


「……一体どうしたんだい?こんな豪雨のときに」


「…………」


 ヴィルは戦闘体勢にはいる。

 白い電子的な粒子がヴィルの右手から放たれる。するとヴィルの手首から先が剣に変わる。


「……いろいろと君は改造能力があるみたいだね」


(…………あの時のことをネズミには話していないのか)


「あ、あの」


 目の前で戦闘が始まろうとしている状況にすみれは混乱していた。自分も戦うべきか。しかしすみれの魔法は大量広域破壊爆弾である。効果は大爆発を起こすことである。そして爆心地にいるとグラウンドゼロという一撃必殺の能力で相手は死ぬ。


「すみれ、『変身』だ。戦闘が始まる」


 マキャファートは無慈悲にもすみれに魔法少女に変身を指示した。

 すみれの魔法のMADボムの2回目の威力は12万500平方キロメートルの範囲を焼き尽くす。これは日本の国土面積の1/3であり学校もろとも焦土と化す。


「……すみれ?」


「ああ、うんわかったよ」


 すみれはマキャファートの言う通りにしスマホから魔法少女アプリの変身アプリを押しレッドの魔法少女に変身した。


「…………どうするつもりだネズミ」


「見てわからないのかい?」


 その意はすみれには戦闘が始まったという意味で捉え、ヴィルにはいつでもMADボムのスイッチを押せるぞという脅しに捉えた。

 

「…………命令はネズミ殺すこと」


 ヴィルはそう呟き、弾丸のように飛び出した。

 だが、


「!」


 突進するヴィルの眼前で赤黒い粉が突如舞う。

 マキャファートが近くのテーブルに置いていた七味とうがらしをヴィルの顔面に尻尾で投げつけたのだ。


「っ!」


 ヴィルの目に七味とうがらしが入り今まで感じたことのない痛みと刺激に苦しむ。

 ヴィルの手首から先は剣になっていて、絶対に離すことはない。そして両刃であり剣を掴み止めることもできない。故にヴィルは接近をしなければならない。

 しかし、マキャファートはそれを瞬時に判断した。マキャファートは掴むこともできないし剣を叩き落とすこともできない。ヴィルの右半身ごと吹っ飛ばすような粗雑な方法もとれない。

 ならば、視覚である目を潰せればいい。目を潰せば簡単に接近はできない。むやみやたらに突進することは愚策であり、マキャファートにとって勝機でもある。


「ッ!」


 気合いと舌打ち一声、ヴィルは視界が見えにくくとも前に跳ぶ。ヴィルの剣がおそらく目の前にいるであろうマキャファートへと横薙ぎの一振りで斬った。


「闇雲に突っ込むなよ」


 マキャファートは後ろへと跳び躱した。

 ヴィルの剣は食堂にあったイスやテーブルや調味料などを斬り飛ばした。


「あっあ」


 すみれは戦闘が始まったのを感じてはいるが身体がなかなか動かず呆然と立ち尽くす。今までは仲間たちが戦闘をしていたのだ。

 莉音のロールは回復だが、志穂のロールは近接、美春のロールは妨害、千代子のロールは遊撃と莉音以外の三人は戦闘できる魔法少女だ。それに対してすみれのロールは戦略で戦闘向きではない魔法少女だ。戦闘と戦略は違う。畑違いのことをやれと言われても実際には何もできず役立たずというレッテルが貼られる。

 だから──


「っ!」


 すみれは食堂の掃除入れから逆T字型の自由ほうきを持ち構えた。

 すみれは今、魔法少女である。魔法少女にもかかわらず魔法ではなく物理を使って戦うつもりだ。たしかにすみれのMPは数量ではなく個数で限られている。しかもそれは日本の1/3を焦土と化す代物だ。さいわいすみれのHPは1961万1030と四人の魔法少女の中でも一番多い。案外タフなのだ。


「すみれ、あんまり変なことはしない方がいいと思うよ」


 マキャファートがそう忠告するとヴィルがその声のする方向へと刺突してきた。今度は左へとマキャファートは躱した。

 ヴィルの突進により次々と食堂の備品が壊れる。


(この食堂って他の校舎とは違って独立してるのか。ヤツが入ってきた正面扉しか退路はないのか)


 マキャファートはこの食堂の退路を確認する。こうもヴィルに食堂の備品を壊されまくっては床は残骸や破片でいっぱいになる。マキャファートは床や壁を蹴って跳び避けているが、いずれ足場が破片だらけでは容易に跳び避けれない。


(僕もすみれも戦闘タイプではないし)


 マキャファートは魔法少女を産み出す能力を持っているがそれ以外に攻撃の能力なんて持ち合わせてはない。耳のアンテナは敵の魔力などに察知するものだし、電磁フィールドも地域に効果があるもので攻撃性などはない。

 マキャファートがこのまま避け続けるのには限界があった。


「とりあえず、話し合いをしよう」


「…………問答無用だ」


 マキャファートが提案した話し合いをヴィルは拒否した。ラピュータ会談のこともあるだろうがマキャファートと話し合いなんてできない。

 このネズミが『話せばわかる』なんて思ってはないだろう。『話せばこじれる』ならまだしも。


「ッ!」


 ヴィルはマキャファートのする声に向かって今度は袈裟斬りで斬りつけたが。


「っ!!」


 またしてもマキャファートに躱され、足下にある自分が切り刻んだテーブルの残骸に足をとられ前へと回転しながら転んだ。


「バカが言ったのに」


 マキャファートはヴィルにそう吐き捨てるとすみれに近づきこの状況の打破を話す。


「すみれ、継承システムは持ってるかい」


「えっ、うん。今持ってるよ」


 マキャファートに言われてすみれは継承システムをコスチュームのスカートのポケットから取り出した。継承システムは八面体の形をしていた。


「うん。継承システムを使うんだ。」


「えっ、どうやって?」


「継承システムを手に握り胸に心臓に持ってくる」


「こ、こう?」


「そう。それでアクセプトと唱える」


「アクセプトッ!」


 すみれが唱えるとみるみると継承システムはすみれの身体に入る。


「わっ何!」


「うん、それで完了だよ。それで……」


「…………ハァァ!」


 ヴィルはマキャファートとすみれの会話声に反応し突進する。


「きゃっ」


 マキャファートとすみれはすぐさま離れるように避ける。


「まったく、君の視界はどうなってるんだい。いや聴力かな。気持ち悪いよ」


「…………黙れネズミ」


 ヴィルが次の攻撃に移ろうとしたその時、



〈ガガガガガガガガガガガガ〉


 地震が起きた。いや地なりが起きた。

 マキャファートたちは何事かと戦闘を一時中断して事態を把握しようとしていた。

 迫り来る何が来るのはなんとなく感じていた。


「何?」


「地鳴りだけじゃない。何か流れるような音がする」


「…………そう言えば、この豪雨。近くに山があったはず……まさか」


 ヴィルの言葉に戦慄が走る。

 おそらくそのまさかであろう。


「すみれっ!逃げるんだッ!!」


 マキャファートがすみれに向かい叫ぶ。マキャファートは人間のような生物ではない。仮に生き埋めになったとしてもマキャファートには呼吸は必要ないので助かるのだがすみれは違う。

 すみれは今は魔法少女であるが別に死なないということではない。HPが0になってもそれはただの戦闘不能だ。死ではない。死の条件はもっと別のことである。そしてすみれは呼吸を必要とする人間という生き物だ。仮に生き埋めになれば取り返しのつかないことになるだろう。


「う、うん」


「退け!邪魔だ!!」


 マキャファートはヴィルに吠える。食堂の退路は正面のガラス扉しかないのだ。

 すみれとマキャファートは床がテーブルやイスなどの残骸で走りにくい状況だったがそれもお構いなしに走る。逃げる。



〈ガガガガガガガガドドドドドドドド〉


 無情にも土石流は渡り廊下と飲み込んだあと、さらに食堂を飲み込んだ。

 土石が食堂の窓ガラスを破り入り散乱した食堂の床をさらに混沌とする。

 土石流の水圧に負け食堂の壁や天井は折り曲げられ破り、穴から濁流が流れ込み食堂内の空気を外へと押し出す。

 岩石、石、砂、泥、水と密度いっぱいに食堂を潰す。


 圧、圧、圧、圧、圧、圧、圧


 渡り廊下の瓦礫が食堂にぶつかりさらに食堂の形を壊した。

 山津波が人を建物を襲い、殺す。


 殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、


 そして土石流は完全に食堂を飲み込みさらに下へと流れる。

 すみれの姿は見えない。

 マキャファートの姿も見えない。

 ヴィルの姿も見えない。

 そこにさっきまであった事象はすべて土石流に塗り替えられた。


 土、土、土、土、土、土、土、土


 すみれとマキャファートとヴィルは生きたまま土葬された。


 それから少しのことである。

 魔法少女に与えられたスマートフォンは頑丈にできていて土石流の中でも壊れずに機能していた。

 

 すみれのスマホの着信音が流れた。

 『カチューシャ』だった。

 すみれの好きなソ連の曲である。


 しかし、鳴り続けるだけで誰もすみれのスマホを取ろうとしない。

 誰もいないのだ。

 すみれのスマホを取ってくれる人は。




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