ラピュータ会談④
継承システム。
ヴィルはウルトラCな考えを思い出した。
継承システムだ。
継承システムはよく相続税と例えられる。
別に継承する際に何らかの税金がかかって国に財産を横取りされる訳ではないが。
放棄をすることはなんとなく似ている。
継承、つまり相続をする。
相続をするかどうかは相続先の者に判断を委ねられる。
継承、相続する者を甲とし継承、相続される者を乙とする。
甲が継承の権利を行使するが乙が継承を拒否した場合、甲の継承は不成立となり甲の継承の権利を永久に放棄する。
つまり一度、継承をしようと言っても結果が成功だろうが失敗だろうが関係なく、甲の継承の権利は一度使えば無くなる。
そして継承したかった財産やデータなどは国庫に渡るのではなくそのまま消える。
実質的にデータの破棄ができる。
すみれのMADボムは兵器という物ではない。データは数字である。
つまり処分する諸々のめんどくさい事は考えなくてよく、簡単にデータ破棄ができる。
しかし、問題は継承システムがあるかどうかだ。
もしなければデータ破棄などは出来ない。
ヴィルはそのことを探らなければならないと思った。
「…………大量広域破壊爆弾を他者又は他国に『譲渡』する事は可能でしょうか?」
「……譲渡?何言ってるんだい。すみれを譲渡するなんて。
あのねぇ、すみれはペットじゃないんだよ。
人間なんだよ。
もの扱いはやめてほしいな」
「…………もの扱いではなく、そもそも彼女は14歳の女子中学生です。
生産年齢ではありません。扶養すべきの年齢です。
そんな女子中学生を魔法少女として働かせるのは違法であり、止めさすべきです」
ちなみに戦時中の沖縄の鉄血勤皇隊は志願民兵部隊鉄血勤皇隊として14歳の若者を兵隊として扱っていた。
14歳は一応徴兵は出来ないとなっているが。
戦時中の沖縄みたいにもうそこが戦場となって、年齢もへったくれもあるかという場合には上限も下限も拡げていた。
「論点をすり替えるなよ。
大量広域破壊爆弾の話だろ」
「…………その大量広域破壊爆弾を信用のある第三者へ譲渡して貰いたい。
そして、彼女を普通の女子中学生に戻させるべきです」
「フッ。信用のある第三者って誰だよ」
マキャファートは鼻で笑った。
現在すみれの支配者はマキャファートである。
支配者、言ってしまえば親である。
親が子供を管理する。
普通のことだ。
子供が大学に行きたいと親に言うが、親がいい答えを出してくれない。
都会はいろんな人がいて物騒だから。
独り暮らしさせるとしっかりとした生活がおくらなくなるから。
お金がとてもかかるから。
実家から近い大学に出来ないか?
子供の選択肢を狭める親がいる。
それぞれの家庭の事情があるから、家庭の中までは部外者が入れないから。
そんな免罪符を持って、教師は友人はその子にあまり大学進学のことや将来のことを話さない。
かかわればめんどくさい事に絡まれるから。
よそ様の家庭に絡まれたくない。
そういう思いがあって、本当にその子を考えてくれる人間がいない。
相手がその子を支配してる親だろうと戦わない友人や教師。
仮に戦えば八つ当たりでその子に返ってくるかもしれない。
しかしそれでも戦ってくれる人間はこの世の中に一体何人いるだろうか。
真にその子のことを考えてくれる人間は……
「…………ハッキリと申しますがあなたはすみれさんを支配できない」
「……何だい?」
「…………ちゃんとしかるべき所ですみれさんを保護するのがよろしいかと思われます」
「本当にそう思いで?」
「…………ええ、そうです。
では訊きますがすみれさんが大量広域破壊爆弾であるとわかったあとあなたはどんな対応をとりましたか?」
「……余りにも特殊な事案だから、現在も慎重に思案を重ねて、しっかりと保全しているさ」
「…………ではその思案に一つ私から意を出しましょう」
「……一応訊くが、何だ?」
「…………大量広域破壊爆弾の継承者です」
「話にならない。行くよ、すみれ」
「ええ!?マキャファート?」
マキャファートは一方的に会談を打ち切り部屋からすみれを連れて出ようとした。が、
「……退けよ」
「それは出来ません。まだ会談の終了時刻ではありません」
髭の黒服がマキャファートの行く手を遮った。
「終了時刻の延長はよくあるのに、打ち切りは許されないは、通らないだろ。普通」
「まだ、会談の終了時刻ではありません」
髭の黒服は先程言った事を復唱した。
そこには絶対に逃がさないぞという強い意思がある。
「……」
「……」
マキャファートと髭の黒服には無言の圧力があった。
他の黒服は壁と一体化したように沈黙し、マキャファートたちを見据えている。
居並ぶ黒服たちの目はガンを飛ばすなんて生易しいものじゃなかった。
殺気が込められている。
視線だけで相手を殺すつもりなのか目つきの鋭い痩せた黒服はコメカミに血管が浮き出るほど目つきに力を込めていた。
異様な光景で、いつ襲いかかってくるとも知れぬ黒服たちに無言で取り囲まれていた。
こんなんで交渉続けるつもりか。いやできようか。
その無言のさなか眼鏡をかけた黒服がドアの前に移動し、立ちはだかった。
まるで、マキャファートたちを監禁するように。
「……」
「……」
腹の探りあいがマキャファートと髭の黒服の間で行われる。
「……もういいだろ」
先に口を開いたのはマキャファートだった。
「ご託はいい。ほら、そっちのカードをテーブルに並べろよ」
マキャファートの口調が無関心で飄々した様子から変わり、凄みを利かせた。
マキャファートが一歩踏み込み、張り詰めた空気が場の雰囲気を打ち破る。
突然──
パリンと部屋内にガラスが割れる強烈な音が響く。
目つきの鋭い黒服が近くにあった花瓶を取り上げ、おもむろに床へと叩きつけた。
床一面には、細かいガラスの破片が飛び散った。
その花瓶は元々割られるために存在した。
目つきの鋭い黒服は無言だったが殺気を感じ取れる。
言葉だけで恫喝してくるチンピラとは訳が違う。
そして目つきの鋭い黒服に呼応するように、今しがたまで石のように黙っていたまわりの黒服たちは口々に暴言を喚き始めた。
まわりを取り囲む黒服たちがいかに凄もうと大して威圧は感じない。いや、すみれは全員の威圧は感じているが。
しかし、目の前の髭の黒服、目つきの鋭い黒服、ドアの前に立っている眼鏡の黒服は違った。
瞬時にむき出しの殺気をぶつけてきた。こいつたちは戦いの基本を心得ている。
「……」
髭の黒服は無言の圧力を出す。他の黒服とは頭一つぬけてる。
「……」
マキャファートはすみれを見る。
あまりの恐怖で身体が震えている。
「……すみれ、座ろ」
マキャファートがそう言った瞬間、目の前の髭の黒服が手を真横に払う。するとまわりの黒服たちが一気に静まった。
「お座りです」
一言、髭の黒服はまわりの黒服たちへ口にする。
黒服たちは再び壁に居並ばった。
しかし眼鏡の黒服は依然としてドアの前に立っていた。
「…………それでは会談を続けましょう」
ヴィルは淡々と言った。




