国家的な少女
ひこうき雲一つある澄んだ空、これから夕方に入ろうかというほど少しネズミ色を混ぜた青空があった。
その空の下、マキャファートから説明を受けた莉音と志穂は佇んでいた。何をしたのかいいのかわからないからだ。
ピンク髪のピンクのコスチュームの莉音。藍色味がかった黒髪のブルーのコスチュームの志穂。1980年代の女子中学生には異質の二人だった。
そのことを客観視できたのか、志穂は顔を少し赤らめた。
「ってか、私たちはどうすればいいのよ?」
「えっと、それは……」
マキャファートが継ぎの言葉を探している最中、ピクッとマキャファートの躯がビクついだ。
蕾のような円錐状態だった黒い耳が花開いた。その姿はまるでパラポラアンテナのような姿だった。というよりパラポラアンテナそのものだった。
そのアンテナの反射板は黒で受信機は黄色だった。そのアンテナが何かをキャッチしたのか弧を描くように動いていた。すると、マキャファートから張りつめた空気が漂ってた。
「ヤツラが来た」
ゴオーとまるで飛行機が近づいて来るような音がした。その音はどんどん近づき視認できるまで近づいて、ズシン、と勢い持って落下してきた。
そこには、艶やかでさらさらと風になびいている濡れ鴉色の長い髪、真っ白でしゃきっとしたワイシャツ、前を全開にした漆黒の外套、髪とは対照に鉄壁でピクリとも動かないプリーツスカート、白い脚にピタッと吸い付き縛るかのような黒いニーソックス、長い靴下の半分を覆うかのような茶色いブーツ。
見た目は少女。十代後半だろうか。
きれいとは言えぬ着地であったが白い電子的な粉を舞い咲かせて屹立した。
圧倒的で高圧的で淑女的な存在感だった。
凛々しい、と表現できる顔をしていた。
莉音と 志穂の二人はこれ以上ないって位に印象的な登場だった。
少女は、莉音と志穂をギロッと睨み朗々と口を開いた。
「貴公達は、魔法少女か?」
「「えっ?」」
二人は呆気に取られていた。
すると、少女は同じ言葉を繰り返した。
「貴公達は、魔法少女か?」
「えっあっはい」
答えたのは莉音だった。
「そうか」
少女は少し顔に影を落とした。
「あ、あのう」
「ネズミ!やっと追い付いたぞ」
少女は莉音の声を無視してマキャファートに向かって言った。
「莉音、志穂!戦闘が始まる」
マキャファートも少女の声を無視して二人に言い放った。
すると、マキャファートの躯から電子的な粒子が舞った。
その粒子が空に向かって、土に向かって、空間いっぱいに散っていった。
散っていった粒子が電気を帯びて一つ一つの粒子が電気で繋がってた。
電磁フィールドだ。
電磁フィールドが一瞬にして視界を覆った。どこまでも続くような広さだった。
この電磁フィールド下では魔法が使える。回復魔法も、防御魔法も、攻撃魔法も。
電磁フィールドが完成したや否やマキャファートは後ろに勢いよく跳んだ。
「莉音!志穂!戦うんだ。こいつが僕が言ってた悪いやつだ!」
そうマキャファートが叫ぶと二人は、少し戸惑いながら戦闘状態に入った。
志穂は咄嗟に抜刀する構えをした。すると手を構えた空間から抜き身の刀がしっかりと志穂の手に握られながら現れた。
志穂は刀を落とさぬように両手でしっかり握り締め、大きく振りかぶる。
そして、初撃をしっかりと当てるように振り下ろしたが……
キーン
金属と金属がぶつかる音がした。
志穂の目の前には自分の刀と別の刀が十字にぶつかり、鍔迫り合いとなっていた。
「っ!?あんたも刀!?」
少女は志穂が刀を抜き振り下ろす瞬間に自分も刀を抜いた。
少女は片手一本で志穂もろとも薙ぎ払った。
志穂は横薙ぎの斬撃をもろに受け、勢いのまま体を九十度回し、背中を路面に激突させた。
「っんあ、ああぁぁあ」
志穂は体全体に激痛が走り、悲痛な叫びが響いた。
「志穂ちゃん!!」
莉音が志穂に駆け寄りその体を抱いた。
幸い擦り傷ですんだものの激痛により、志穂は苦悶の表情をしていた。
志穂のHPを見ると1で耐えていた。莉音の防御魔法のおかげで一撃で絶えることは免れたが、再び立ち上がることは困難である。
「莉音!回復だ!」
マキャファートに言われ、莉音は志穂の体をやさしく下ろし回復魔法を行った。
莉音は両手を前に出し、ピンク色の粒子と光が志穂の体を包む。
すると、みるみる志穂の体の傷が癒える。HPも1から112と全回復した。
「っ!?」
少女はその光景を目を見開いて見ていた。
「貴公、その回復魔法、MP、どういうことだっ!?」
少女は声を荒げて莉音に言った。
「えっ…いや、どうって……」
震える声が莉音の口からもれた。
「おのれ、ネズミめ。いたいけな女子中学生をこんな魔法少女にして。これが生産者のやることか」
少女は莉音とは違って怒りで声を震わせた。しかし、小声で震わせたその言葉は莉音たちには聞こえない。
少女は莉音たち二人を背にしてマキャファートに体を向けた。
少女はマキャファートに向け、刀を一閃する。
しかし、マキャファートは斬撃を見切り頭上すれすれにかわす。
その斬撃は遠くの路面のアスファルトを切り裂いた。粉々になったアスファルトが宙を舞うその刹那、少女は神速でマキャファートに近づき今度は袈裟斬りで仕留めようとした。
が、マキャファートはそれも読んでいた。初撃の横薙ぎのさいにあえて飛んでかわさなかった。それは二撃目三撃目があると読んでのことだ。
マキャファートは空中でさらに避けることなどできない。故に次撃が来てもかわせるようにあえて、地面に留まった。
そしてマキャファートは地面を蹴り袈裟斬ぎ始める左から更に左へとかわした。
少女は右利きで右上から左下へ。マキャファートから見れば左上から右下へと刀が流れる。
人体の構造上右投げの動作から右へと向かわせるのは難しい。
それを知ってのことマキャファートはかわした。
縱薙ぎとなった斬撃は近くの路面のアスファルトを裂き、遠くの建物を真っ二つに切り裂いた。
ゴゴゴゴと轟音をならし鉄筋を剥き出しにして建物が崩れた。その建物のコンクリートの粉が舞ってようやく、初撃の切り裂かれ粉となったアスファルトが地面に着いた。
左に避けたマキャファートはさらに莉音たちの後ろに回った。莉音たちを盾にしたのだ。
「おのれ、卑怯ものめ」
少女は苦虫を潰したような顔をして吐いた。
少女は刀をしまって、意を決して二人に言い放った。
「私は我が国の我が軍の未来に命、魂、この身全てを捧げている。
そのネズミは我が国の敵で私の敵だ!
私は国家のためならば命も捨てる覚悟である!
しかし、貴公ら魔法少女は我が国の敵ではない!
故に貴公らとの無用な戦闘は避けたい!
どうかその旨を貴公らに伝えたい。」
少女は姿勢を正し直立して一際高い声を張り上げる。
「私はアイラ・ミカラギ・スタインバーグ!!
真に国家を愛するものである!!
私は国家を背負っておる!!
私は自らの信念に忠実に、命を懸けて、我が国の敵達と対峙するだろう。
貴公ら魔法少女も敵として対峙することにもなるだろう。
……覚えておけ、私と対峙することは我が国と対峙するそのもの!
もう一度言う。
私はアイラ・ミカラギ・スタインバーグ!!
真に国家を愛するものである!!!」
そうアイラは二人に宣言し、すっかり夕陽に赤く染まった空にの彼方に飛んでいった。
キラキラと白い電子的な粉を舞い咲かせてながら消え行く姿と赤い空は実に綺麗だった。
そろそろ日が暮れる。
破壊された地上は日に真っ赤に染まって、まるで戦場のように荒れて血溜っているかのようだった。
それに対して、空は平和だった。
しかし、これから平和とは程遠いことになるだろう。
二人は有無を言わさずに国家と対峙することになったのだ。




