河川敷の生徒
イルヴァは負け筋を潰すには全体攻撃と考えた。
しかし、これだけでは不安だ。
この案は能動的な案だからだ。
仮にも、全体攻撃を行う前にやられてしまっては意味がない。
能動的な案とはもう一つ別の案があった。
受動的な案だ。
というより、必ず履行できる案。
それは防具を装備すること。
防具にはHPがある。
武器はHPなく、急所があるだけで壊れるか壊れないかであるが防具はそうではない。
防具のHPは耐久指数のようなもので、ここまでのダメージなら耐えるがこれ以上のダメージなら防具は破壊されてしまう。
そして、防具の利点として本体へのダメージの軽減、無効以外にも本体への状態異常の阻止がある。
イルヴァの防具は麻痺の阻止機能付きである。
いざというときに麻痺にならないが、少し難点として最初からダメージを受け続けるから耐久力が無くなっていく。
なるべくダメージを受けずに立ち回ってやらなければならない。
防具があるというだけで自信の安心にもつながる。
イルヴァは全体攻撃、防具で麻痺対策をする考えだ。
どんよりとした雲が空を覆う。
放課後の学校は部活生があちらこちらで部活に精を出す。
校庭には野球部がランニングしていた。
坂道ではサッカー部が坂道ダッシュをしていた。
テニスコートではテニス部がラリーをしていた。
全て学校の向かいにある河川敷で見える光景だ。
そんな風景を千代子は眺めていた。
千代子は今日のシフトの関係上、夕方が空いていた。
今日のシフトは朝から昼過ぎと晩から閉店までのシフトだった。
千代子は昼の休憩にいきなり現れたマキャファートに言われたことが引っ掛かっていた。
魔法少女になろうとは思わなかったが、学校に行ってみてはと言われればだ。
なぜか、千代子はここに足を運んだ。
商店街を抜けると学校への通学路がある。
地図から見ると、L字の道路だ。車も通る大きな道。
そのL字に囲われた形で学校がある。校舎があって、校庭があって、体育館があって、裏には裏山があった。
L字の道路が学校とを隔たるように河川敷がある。
この河川敷にはたまに野球部が打った球がネットを越えて転がってくることがある。
川に入ることもある。スプラッシュヒットだ。
今この河川敷にいる人間は千代子だけだ。
人間は。
「千代子、君に渡すべきものがある」
「っ!?」
千代子はその声を聞き、喫驚し振り向いた。
いつの間にかマキャファートが千代子の後ろにいた。
「これは、スマホ。変身アプリを押せば魔法少女になる」
マキャファートは千代子にスマホを渡そうとしたが、千代子は受け取らなかった。
「……何しに」
「きっと、必要になる。そして魔法少女になれ」
昼とは違う表情で、昼とは違う声色で。
「魔法少女になれば幸せになる、なんてことはないだろう。
しかし君以外にも魔法少女がいる。それもこの学校の生徒だ」
「っ!?」
「わかるかい?君は一人じゃない。仲間がいる」
「だからといって、仲良ぅなるとは限らんろぅ……」
「仲良くなれとはいってない。というより上手くやれ。……組織とはそういうものだ」
千代子にはマキャファートが最後に言った言葉は小さくて聞き取れなかった。
「時間は切迫している。受け取るんだ。スマホを」
マキャファートは強く差し出した。
そして千代子は直感で感じた。
逃げられない。
こいつはいつの間にか現れる。どこまで行っても。
「受け取ってそのあとどうするがや」
「まず、横にある電源ボタンを押して、矢印のマークを押せば変身する。魔法少女に。そして……」
「……?」
マキャファートは一拍置いたあと引き締めて言った。
「僕たちを助けて欲しい」
イルヴァは着々と準備を進めていた。
魔法少女の扱いについては、上からは殺すべき相手ではないとの通達はあった。
故に魔法少女たちを殺せない。
魔法少女相手に殺す武器を使ってはいけない。
しかし、あのネズミはなんとしてでも殺さねばならない。
ではどうするかだ。
協議の結果、魔法少女たちは殺さず捕らえる方向に決まった。
捕虜である。
魔法少女たちはネズミによって洗脳されている。
まだ、中学生の娘を戦闘に駆り立て命の危険を晒す。
そんなことは許されない。
だから、魔法少女たちを解放する。
つまり魔法少女から普通の中学生に戻す。
そうこれは、魔法少女解放の行為である。
「解放か」
イルヴァはいささか疑問であった。
自分の仕事は魔法少女を捕らえる。
そのあとは担当の者が魔法少女たちの洗脳を解く。
捕らえるような行動は難しい。
まず捕らえるには相手を弱らせてから捕らえなければいけない。
いや、いけないことはないんだが、その方が捕らえやすい。
魔法少女たちを弱らせて動けなくし、ネズミを殺し、動けなくなった魔法少女たちを別の部署の者が移送し、担当の者が魔法少女たちの洗脳を解く。
簡単な事ではない。
特に、魔法少女たちを捕らえるのは。
下手すれば魔法少女たちを殺してしまいかねない。
いや、殺さないように武器などその他もろもろ『適正化』しなければならいのだからそんなことはあり得ない。
だけど、イルヴァは美春を殺そうとした。
それは美春がまだ、魔法少女ではなくアイドル中学生だったからである。
子供の言い訳みたいだが、魔法少女じゃないので適用外と。
イルヴァはもう前回のように手加減はしない。
魔法少女が二人から三人になったからだ。
それなりに適正化する。
学校の向かいの河川敷で千代子は一人でいた。
マキャファートから強く差し出されたスマホを持っていた。
こんなのが、一体何になるだろうかと。
千代子は断れなかった。
断ってもまた来るからだ。
おそらく、何時でも何処でも。
本当は受け取ってはいけないだろうけど、受け取らず逃げても追いかけるだろう。
それに少し淡い期待もあった。
こんな日常から何か変わるのだろうか。
そんなことはわからない。
でも、
くるっと千代子は学校に振り向いた。
でも、
「…………」
千代子は考えるのをやめた。
千代子はただただ、次のシフトまでここで呆けようと考えた。
ボーーとしていると学校の生徒たちが河川敷にやって来た。
莉音と志穂と美春だった。
三人は何かを話してたが、千代子の耳には聞こえなかった。
すると、千代子と同じく遠くで呆けていたマキャファートに三人が近づいてきた。
マキャファートに呼ばれただろうか、三人と何か話し込んでいた。
「微量な気配を感じた」
「えっ、もしかしてあの人がまたやって来たんですか?」
「おそらく、準備だろう。ヤツラが戦闘態勢に入れば大量の強い思念を感じる。
しかし、今感じるのは微量なものだから近いうちに戦闘になるかもしれない」
「えぇ、そんなー。せっかく平和になったなぁと思ったのにー」
「大丈夫だよ!みはるん。みはるんは私が守……」
莉音が言い終わる前にマキャファートはまるで獣が戦闘態勢に入って毛を逆立てるような格好になり、耳のアンテナを立てた。
「ヤツラが来たっ!」
そう言った瞬間マキャファートは電磁フィールドを展開した。
莉音たちも直ぐ様スマホから魔法少女アプリを押し魔法少女に変身した。
莉音はピンクのコスチュームに変身。
志穂はブルーのコスチュームに変身。
美春はイエローのコスチュームに変身。
三人が変身したと同時に川から水柱が勢いよく立った。
その水柱からイルヴァは出てきた。
イルヴァはマリンスーツの上に防弾チョッキのようなものを着ていた。
そして腰には何か射撃物のようなものを巻いていた。
濡れたボブカットの頭から鉢巻きをしていた。
その姿から沸々と沸き上がる水蒸気がイルヴァを白く包んでいた。
「莉音、志穂、美春、戦闘開始だ!」




