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「イチコの哲学」  作者: 京衛武百十
23/28

「シャレにならない(前編)」

「なあ、これ誰のカメラだと思う?」


10月も半ばを過ぎたというのにやけに暑い月曜日の五時間目と六時間目の間の休憩時間。次の体育の準備の係だった私とイチコとカナとピカが他の子達より先に更衣室で着替えてる時、カナが小型のビデオカメラを持ってそんなこと訊いてきた。


「何それ、どこにあったの?」


って私が訊き返すと、カナがロッカーの上を指差しながら、


「そこのロッカーの上に、穴開けた箱に入れて置いてあったんだよ。しかも録画が作動してた」


って言うから、私たち思わず「えーっ!」って声を上げてた。


「何それ盗撮じゃん!?」と私。


「マジ?」とイチコ。


「キモっ!。誰の仕業ですか!?」とピカ。


その時、他の子達が廊下を歩いてくる気配がして、私達は騒ぎを大きくすると面倒かなって思って、とりあえずそのビデオカメラを掃除用具入れのチリトリの後ろに隠して、授業が終わってから担任に相談することにしたんだけど、そのことが気になって体育の授業どころじゃなかった。


授業が終わってバレーネットとかの片付けを終わらせてから更衣室に戻ったらもう皆着替え終わって出ていくところだったんだけど、私達は他にもカメラが無いか見て回ってから着替えたから、ちょっと遅くなってしまった。


「遅いぞ、もたもたすんな」


ホームルームに遅れた私達は担任に叱られたけどやっぱりそれどころじゃなくて、ホームルーム中もずっと上の空だったんだよね。それが終わって皆が教室から出て行ってから、いつもは部活の時間までここで四人で宿題をするところだけど、今日はとにかく例のビデオカメラのことをどうするかの対策会議になった。結局担任に相談することにはなるだろうけど、まずはちゃんと私達なりの覚悟みたいなものを持っておく必要を感じた。


「とにかく、何が映ってるか確認してみなきゃ駄目だろ」


ビデオカメラを預かってたカナがそう言って再生を始める。そうしたらやっぱり更衣室の中が映ってて、でも最初はずっと誰も映ってなかった。たぶん、あの更衣室が使われてなかった五時間目より前から置かれてたんだと思った。


だから一時間くらいスキップしてみたら、今度はいきなりイチコの姿が。


「うわ!?」


さすがのイチコもこれには驚いたみたい。


「あー、やっぱり」とカナ。


「何それどういうことですか?」とピカがカナに訊く。


「角度的にイチコが映るんじゃないかなって思ってたんだよな」ってカナが言うから、


「イチコが狙われたっていうこと?」って私。


だけど、自分が服を脱ぎ始めてるところが映ってる画面を見ながらイチコが言ったんだよね。


「たぶん、狙いは私じゃない気がする」


「どうしてそう思うんですか?」ってピカ。


「あたしもそう思うな」ってカナが言うとイチコも頷いて、


「きっと毬崎さんを狙ったんじゃないかな」って。


言われてみれば、この角度だとイチコの手前に毬崎さんのロッカーがあるから、彼女の方がばっちりと映る。女子力ゼロのイチコを狙うより、女子力3組No,1で、男子からの人気学年トップ5に入ってるっていう毬崎さんが狙われたって考えた方がずっと説得力がある。


イチコがブラウスを脱いで、上半身が下に着込んでた体操服姿になったところで突然画面が揺れて、動画が終わった。カナがカメラを持って録画を切ったからだった。


「これはガチだわ、ガチ盗撮だわ」


腕を組みながら不機嫌そうにカナが言った。するとピカが言う。


「でもよく気付きましたね、カナ」


するとカナがますます不機嫌そうな顔しながら、


「兄貴がさあ、あたしの着替え盗撮しようとして部屋にカメラ仕掛けてたことがあったんだよ。そん時はスマホだったけど同じようにレンズのところに穴開けた箱に隠して置いてあって、それでピンときたんだよ」


だって。何その衝撃の告白!?


「うわ~、サイアク。男兄弟いなくてよかったです~」


私は驚きのあまり声も出なかったけど、ピカが、寒気を追い払うように自分の体をさすりながら吐き捨てた。その気持ちが私にもすごく分かった。私は弟いるけど、弟がそんなことしたとか思ったらもう一緒の家にいられないと思った。


「それはいいけど、どうするこれ?。余裕で刑事事件だよ。警察に届ける?」


カナがビデオカメラを振りながら言った。だけどピカが、


「でも、まずは誰がやったか私達で調べてみませんか?」


とか言い出した。私は、何言いだすの!?って正直思った。


「いやいや無理でしょ、危ないよ。警察に任せた方がいいって」


私はそんな危ない事はまっぴらごめんだった。ドラマやアニメじゃないんだよ?。そんなこと上手くいくわけないって。なのにピカは、


「大丈夫ですよ、犯人はカメラを回収する為に更衣室に現れるハズですから、それだけ見張ってればいいだけですし。それに、カメラだけが見つかって騒ぎになったら、犯人が名乗り出るとは思えません。こういうのはしっかりと追及しなきゃ駄目だと思います。そして一罰百戒、見せしめにするべきです」


って。でもそれはそうかもしれないけど、それって生徒がするべきことじゃないような気がする。だけど、安全なところから見張ってるだけでいいのならって思ったら、急に私も興味が出てきたのも事実なんだよね。だから、


「そうだね。確認するだけなら、いいかな」


ってつい言っちゃった。


「でしょう?。となれば善は急げです。更衣室に出入りする人間を見張るだけなら渡り廊下に隠れながらでもできますよ」


ピカはもうすっかりやる気だ。


「でもそうすると、今日は部活行けないよ?。四人そろってサボる?」


それでも私はピカほどノリノリになれないから、やっぱりいろいろ気になってしまう。


「大丈夫ですって。私が今からひとっぱしり行って、居残りさせられることになったから休みますって言ってきます」


だって。ひとっぱしりなんて以前のピカなら使わないような言葉とか、微妙に雑なアイデアとか、何か彼女もだんだん私達に染まってきたのかなって思ってる私のことなんかお構いなしでピカは教室を出ていってしまった。残された私達は、何とも言えない重苦しい沈黙に包まれてた。まあ、イチコは単にカメラを珍しそうに眺めてただけだけど、


いつもならこういうのはカナが言い出しそうなことなのに、さっきの衝撃の告白が関係してるのか、カナは不機嫌そうな顔で腕を組んだままカメラを睨んでた。なんかあまり深入りしちゃいけない気がして、カナのことはとりあえず置いておくことにした。だけど考えてみたら、今回実際に被害に遭ったのはイチコなんだから、イチコがどうしたいのかが一番大事じゃないの?。


そう思ってイチコに訊いてみる。


「ねえ、イチコはどうしたい?」


そうしたらイチコは平然とした顔で、


「面白そうだよね。少年探偵団って感じかな」


とか、ピカ以上に緊張感のないことを。イチコらしいと言えばらしいけど、ダメだこりゃ。


しばらくして教室に帰ってきたピカに手招きされて、私達は更衣室の出入り口が確認できる渡り廊下へと向かったのだった。


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