「誕生日」
「イチコの誕生日、7月29日だったよな。ってことは獅子座かあ。イメージ違い過ぎだよな。なんて言って、あたしなんか乙女座だけどさ」
夏休みが始まってすぐ、課題を一気に片付けるために皆でイチコの家に集まってた。結構順調に進んで、あたしも今日だけで3分の1ほど片付いた気がする。こんなことあたしの人生の中で初めてだった。大体いつもは、って言うかいつもか、夏休みの終わり頃に必死になるのがパターンだったんだよな。で、始業式が始まっても全部終わってないなんてのもザラ。
マジ不思議。イチコ達と一緒にやってたら勉強が嫌じゃない。楽しいとまでは思わないけど、嫌じゃないんだよ。何だろうこの感じ。
でもまあ今はそれは置いといて、本題はイチコの誕生日だよ。
「だね~」
イチコが課題をやりながらあんまり興味無さそうに応えた。
「それがどうしたの?」
フミが不思議そうに訊いてきた。
「いや、星座のことじゃなくて、誕生日の話だよ。誕生パーティ、するかどうかまだちゃんと決めてなかったじゃん」
せっかく振ってあげたのに全然気付いてない二人にあたしはちょっと呆れてた。
「あ、そう言えばそうだったね。ごめんイチコ、いろいろあったから忘れてた」
手を合わせて頭を下げるフミにイチコは、
「いいよ~。私も忘れてたし」
って、あんたもかい!?。自分の誕生日なのに呑気だね~。まあ確かにイチコらしいと言えばらしいけどさ。あれ?、そう言えばって感じであたしは不意に思い出したことがあった。
「なあ、フミの誕生日っていつだっけ?」
せっかくだからこの際、ちゃんと聞いておこう。
「カナと同じ9月だけど、私は26日だから天秤座だよ」
おお、そうだったんだ。誕生日近いじゃん。って、今はそれは置いといて。スマホに登録登録、と。
「で、とにかくイチコの誕生パーティどうすんだよ?」
と、改めて二人に訊く。
「もちろんしたいなって思うよ。そんなに大袈裟にはできないけどさ、みんなで集まってね」
フミがそう言うと、イチコも、
「うん、ありがとう」
って応えた。にしたってもう1週間だよ?。準備とかいいのか?。とか思ってたらイチコが、
「でも私も大袈裟なのはちょっと苦手だな。こうやっていつもみたいな感じで集まって気持ちだけお祝いしてくれたらいいよ。どうせ家族でもそんなに派手にしないし」
だって。ほんとに、らしいと言うか何と言うか。だけど、内容はともかく集まるってことだけはこれで決定かな。お菓子パーティみたいな軽い感じで、プレゼント渡すってところかな。でも、それだとしたらもう一つ気になることが。
「みんなで集まるのはいいけど、それはもちろんピカも誘うんだよな?」
回りくどいこと言っても仕方ないから単刀直入に訊いてみる。友達になったとは言ってもフミにとってはいろいろあったわけだし、その辺ももう水に流してってことでいいのかな?。
「もちろん。いいよね、イチコ?」
イチコにそう尋ねた時のフミの様子を見て、ああ、もう大丈夫なんだなってあたしは思った。わだかまりが完全に消えた訳じゃないかも知れないけど、それをすごく気にしなきゃいけないほどじゃないってのは間違いないみたいだな。
「じゃあ、あたしがピカに訊いたげるよ。参加できるかどうか」
そう言ってあたしは早速、ピカに電話をかけてみた。
「はい、星谷です」
短いコールの後で、ピカが出た。それで早速、
「あ、ピカ?。カナだけど。実は7月29日がイチコの誕生日で、みんなで集まってパーティしようと思ってるんだけど、どうする?」
って言ったら、
「え?。そうなんですか?」
って少し驚いたような声でピカが訊き返してきた。そう言えばまだ伝えてなかったっけ。あたしとフミがピカって呼べるようになったのは夏休みに入るちょっと前、ついこの間だったからな。あんまりプライベートにまで突っ込んだ話はしてなかったわ。
「…困りました。ぜひ私も参加させていただきたいのですが、その日は既にどうしても変えられない予定が入っておりまして。残念です」
だって。
「そっか。残念」
イチコがそう言うと、フミもちょっと残念そうにしてた。
「ピカのことだから言葉からじゃどう思ってるかよく分からないけど、話してる感じだとほんとに残念だって思ってるのかな」
取り敢えずあたしが受けた印象を正直に話させてもらったけど、それ以上話は広がらなかった。何となく気まずい空気が漂ってる気がした。だよなあ。イチコは別にいつも通りだったけど、フミが何とも言えない顔で黙ってたからね。でもまあ、やっとピカって呼べるようになったばっかりだもんな。まだなんかこう、微妙に距離を感じると言うか何と言うか。ここでピカが参加してくれることになってたら、こんな空気にはならなかったかなあ。だけどその時フミが、
「ねえ、ピカがイチコの家を見たら、どうすると思う?」
なんてことを訊いてきた。何か考えてると思ったら、そっちかよ。あたしは軽く肩透かしでもされたみたいな気分だった。てっきりピカのことを本当の友達って言えるかどうかとか考えてるのかと思った。そういうシリアスな話じゃなかったんならそれはそれでいいけどさ。
にしても、どうするって言われても…どうすんだろ?。
「何それ、どういう意味?」
フミが何を言おうとしてるのか気付いたみたいでイチコがむくれたように言った。もちろんあたしも気付いてた。まあいいや。こういうの、あたしも嫌いじゃない。
「逃げるかな?」
あたしが言うとフミも、
「逃げそうだよね」
と言った。
「悲鳴あげる?。それとも黙って逃げるかな?」
フミに顔を寄せてひそひそ。フミもさらに顔を寄せて、
「玄関見ただけで逃げるかも。何かいろいろ言い訳はしそうだけど」
なんて言ってくる。
そんなあたし達にイチコは、
「もう、二人ともうちを何だと思ってるんだよ~。失礼な」
って、マンガみたいに口をとがらせた。
「ごめんごめん、あのセレブなお嬢様にとってはイチコの家みたいなのどう見えるのかなって思ってさ」
フミが手を合わせながらイチコに向かって何度も頭を下げる。あたしも一緒に手を合わせて頭を下げた。まあでも、本音を言わせてもらったら興味はあるよな。
とは言え、それはまた次の機会だね。今回はとにかくあたしとフミだけでお祝いするか。
で、そのためにも毎日イチコの家で課題を集中的に片付けることにした。ヒロ坊くんも一緒に。にしても相変わらず可愛いよね。ヒロ坊くん。
そのおかげもあって、イチコの誕生日までには課題は殆ど片付いた。あ、ヒロ坊くんが可愛かったおかげって意味じゃなくて、集中的に片付けられたっていう意味でだけどさ。
その間にも、あたしはイチコに何をプレゼントするかフミと一緒に考えてた。
それで7月29日。イチコの誕生日。これからイチコの家に行こうかなと思ってたところに、電話があった。ピカだった。
「今日は、イチコの誕生日ですね。それでパーティの用意はもうできてるのですか?」
「あ、その辺は宅配ピザを頼もうと思ってたんだけど、注文はこれからだよ」
「それはちょうどよかったです。デリバリーは私の方から頼んでおきます。お店の電話番号をお伝えしますので、詳しい届け先をお伝え願えますか?。私は今日は参加できませんけど、せめてこのくらいはさせてください」
だって。それでピカに教えられた電話番号に電話してみたら、ピザ屋はピザ屋らしいけど、聞いたこともない名前のピザ屋だった。後で分かったそこは、普通の宅配ピザ屋じゃなくてもっと本格的なピザ屋だったんだって。イチコの家に届けられたピザは確かにすごく美味しくて、さすがだと思った。
「ピカもほんとに参加したかったんだね」
あたしとフミがお金を出し合ってプレゼントした茶碗・茶筅・茶杓・抹茶のセットを前にピザを食べながらイチコが残念そうに言った。
「みたいだね。今回は残念だったけど、ピカの誕生日をお祝いできたらいいね」
フミがそう言ったのを、あたしはその通りだと思った。




