召喚
「…ここは、…どこだ?」
雲一つ無い青空と大木が生い茂る森林、強風が吹き少し肌寒い気候。
確か、あの地面と空の光に包まれた…までは憶えている。─それ以前の記憶が無い。思い出せない。
自分の事だけは解る。だが、この状況が理解できない。理解をしようにも頭が働かない。
体がやけに重い。それに頭が痛い。血が頭から流れているようだ。服には紅い染みが付いている。
起き上がろうとすると足に力が入らない。まるで生まれたての牛や馬のようだ。
近くには青色の鞄が落ちているのが見えた。おそらく自分の鞄だろう。
鞄の中にはタオルが入っていたので頭に巻く。これで血が止まれば良いんだが…。後は…教科書とノートが三冊、筆記用具に水筒とパンが1つ、お菓子が少しあった。
「…上手くいけば助かるかな?体休めたら動いてみとするか」
ただし、何があるか分からない。睡眠はしないようにしなければいけない。
…だが、疲労がピークに達したのだろうか意識が薄れていく。
「駄目だ…もたな…い…や」
視界が真っ黒になった。憶えているのもここまでである。
『…ようやく主と対話が出来るかな。待ち望んでいたよ』
変な空間を漂っていた。
TVで宇宙飛行士が漂う姿のように自分も漂っているようだ。平衡感覚が無い。
なんか気持ちいい感じだね。
『…聞こえているはずだよね、主。ねぇ』
「聞こえるけど、誰なんだ。声だけだから警戒するんだけど…」
その言葉を聞いてか、実体が無いが確実に表情は「うわっ」って顔をしている…オーラをひしひしと感じる。
『…私は聖霊(精霊)と呼ばれている存在だから契約者にしか姿は認識出来ないのさ。だが稀に聖霊(精霊)側から契約したい者が現れる事がある。』
「それが俺って訳?」
『その通りだよ。主は私が初めて契約したいと思った人物さ。過去に何万人が契約したいと私に迫ったか。…権力や戦争に利用しようとした屑ばかりだった。まぁ全てこの世界から消したが。嗚呼、この二千年は退屈だったよ。でも主は違う。この魔力と戦闘能力、そして目的も面白い。是非とも私との契約をしてほしい。私の全てを差し出す』
かなり契約したいと推してくる。そんなに俺って凄いことになっているのかな?
ちょっと怖い。
少し考え込んでから口を開く。
「言ってることはよく判った。契約してやる。俺の目的が判っているならこちら側の説明は必要ないな。後は聖霊側からの説明と、この世界について教えてほしい。詳しくな」
『かしこまった、主よ。私の名前を叫んでくれ。名はゼフィーだ。』
「判った。聖霊ゼフィーとの契約をしよう。我が名は智幸」
名前を叫ぶと体を光が包み込んだ。
『この世界については私の記憶を主に直接送り込もう。…さてここは聖霊の世界、主は主の世界へ。何かと変化はあるがそれはお楽しみに』
聖霊ゼフィーは姿を現して和やかに微笑んだ。
長い黒髪が腰の辺りまでありスタイルのいい美しい女性だ。誰かに似ているような感じがした。
『また後ほど』
また意識が無くなっていった。