幸福な男
とある閑静な町に男が一人、住んでいた。
その男には富も名声も無かったが、それを欲しい思うだけの欲望はあった。
ある日の昼下がり。
古書店をぶらつく男の目に、こんな本が飛び込んできた。
『悪魔を呼ぶ本』
男は迷わず購入した。
10ドルの出費は痛手だったが、男は藁にも…いや、悪魔にもすがる思いだった。
男は、悪魔の召喚に成功した。
うまく行くとは思っていなかった男は、歓喜が抑えきれないといった表情でこう告げた。
「金をくれ、山ほどの金を」
「なぜだい」
悪魔はとぼけたようにそう返した。
「金さえあれば人は幸せになれるんだ。いいからはやくよこせ」
今にもとって食われそうな気がした悪魔は、
「仕方ないなぁ…カネガワキデール」
妖しく輝く金貨が何処からともなく湧き出る、湧き出る。
男の望みは叶ったのだ。
「それじゃあ」
「ありがとう、悪魔。
これでようやく幸せが掴める」
男はおもむろに服を脱ぎ、そして手に取った金貨を自らの肛門に詰めはじめた。
激痛の筈だが、男は恍惚の表情を浮かべながら一つ、また一つと詰めていく。
やがて男は息絶えた。
その死に顔はとても穏やかなもので、それだけ見ればとても良い最後のように思えた。
そして男はきっと、確かに『幸福』を感じていたはずなのだ。




