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バレンタイン・ゾンビ

作者: 瀬川潮

 突然、人がゾンビになって人を襲い始めるという現象が世界で多発していた。

 当初は原因不明だったが、今では「チョコレートを食べるとゾンビになる」と知られている。もっとも、生きている人間がチョコレートを食べたのち一定期間の潜伏期間を経て突然心停止して倒れいきなり体全体からアーモンドとチョコレートが腐ったような臭いが漂い始めたかと思うとすごい勢いで人体が腐敗してむくりと起き上がって奇声を発しながら人を襲い始めるという現象が知られているだけで、どうして突然心停止するのか、なぜ一瞬にして人体が腐敗してしまうのか、どういう動機で人を襲うのかといった根本原因は不明のままだ。それでも現代科学はすごいもので、「カカオの突然変異による、花粉症みたいなもの」という結論を下した。何というか、本当に、本当に現代科学はすごい。

 食の安全が高らかに叫ばれる中、現代科学はさらに突然変異の時期をピンポイントに割り出した。どうも地球上すべてのカカオに見られる現象で、それらがすべて俗称・ゾンビカカオにフルモデルチェンジしたのは四年前。大気汚染や地球温暖化、オゾン層破壊が複合的に重なり引き起こされた事態だと結んでいる。ちなみに、それぞれの年でインフルエンザのように型があるらしく、三年前のカカオは太ったゾンビになる傾向が強い「ファット型」、二年前が体の色に赤みが強い「レッド型」、昨年がより戦闘能力が向上している「ファイター型」、そして今年が角一本の生えた「ユニコーン型」と呼ばれている。


 そんなチョコレート自然消滅末期の今年2月上旬、イマドキの一般的な女子高生・円城寺ゆきは、某デパートのバレンタインコーナー特設会場の行列に並んでいた。一般的なチョコレートはすでに、デパートはもとより駄菓子屋の店頭からすらも姿を消している。いまや、チョコレートといえばゾンビカカオを原材料にしたゾンビチョコレートという認識だ。

 それでも、このデパートの特設会場には昔なつかしのチョコレートが並び、バレンタインデーを前にチョコレートを手に入れたがっている女性が群がっている。

 理由は明白で、やっとやっと自分の順番が来た円城寺ゆきが持った商品を見れば分かる。

「製造年月日、某年2月14日」

 年は伏せたがつまり、カカオがフルモデルチェンジする一年前に製造しているということで、地球上に少量残る、ゾンビ化の恐れがないレトロ・チョコレートだ。なお、消費期限は切れてしまっているが、伝統的恋愛アイテムをゲットして彼氏のハートを射止め、ラブラブスイートな生活を夢見ている乙女達にとっては、「ゾンビになることを考えたら、このくらいいいよネ。彼氏にはたくましくあって欲しいしぃ~」という認識で落ち着いている。この消費期限切れチョコレートでも壊れないような腹であれば、ゆくゆくちょっと失敗した手料理で大変になることもないし、という打算もある。ことほど左様に、恋する乙女は恐ろしい。

「えっへへ。買っちゃった♪」

 そんなこんなで、首尾良くレトロ・チョコレートを購入したゆき。高校のセンパイに絶好調片思い中の気分そのままにクルンとその場で一回りすると、ラッピング素材を求めるんるんと別の売り場に行くのだった。


 が。

 ゆきが片思いする高校のセンパイは、見事にゾンビ化した。ゆきがバレンタインに贈ったチョコレートを嬉しそうに食べて、ゾンビとなったのだ。

「偽装かよ!」

 ゆきはメーカーに騙された怒りに拳を固め、脇を締めてえぐり込むように鬱憤を晴らした。

 「ファイター型」のゾンビとなっていた高校のセンパイは見事ノックアウトされていた。


   おしまい

 ふらっと、瀬川です。


 約5年前に「確か『白い恋人』の消費期限切れ問題の時期に途中まで書いていた作品です。無事に出てきましたので、このタイミングで・笑」というコメントとともに他サイトに発表した旧作品です。

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