第三話 架空彼氏
第三話、架空彼氏
六月下旬。
紗希ちゃんとぐっさんが付き合って1ヶ月たった。
正直、心配である。
喧嘩ばかりしているようだ。
毎朝、学校に通う電車で紗希ちゃんがぐっさんとの喧嘩の話をする。
一度、学校帰りに喧嘩を生で見た。
隣りに座る紗希ちゃんがメールでぐっさんと喧嘩したのだ。
その時の雰囲気の恐ろしいこと…ほんと怖かった…。
その喧嘩の原因はいろいろあるが、ぐっさんの片思いが一番なのだろう。
付き合ってるとはいえ、紗希ちゃんはぐっさんが好きなわけじゃない。
ぐっさんもそこは辛いのだろうと思う。
まぁ、それでも続いているのだから、見守るしかない。
結局は、うちにとって二人の関係は"他人事"なのだから…。
そんな日々が続いていた、ある日。
香奈ちゃんが、うちに相談があると言って昼休み、一緒に専門学校の屋上に行った。
屋上の椅子に腰を下ろす。
香奈ちゃんが持っていたジュースの入った紙パックを持った手に力が入る。
直感した。
ぐっさんのことだ…。
「どうしたの香奈ちゃん?」
あえて気づかないフリをした、そのほうが香奈ちゃんも話しやすいだろう。
「はのちゃんさ、ぐっさんと紗希ちゃんが夜電話してることは知ってる?」
「うん、その時よく喧嘩してるみたいやけど…。」
実は、二人は付き合ってることはクラスには内緒にしているのだ。
この事実を知っているのは極数人だけ…。
紗希ちゃん曰く、クラスの人が自分との接し方とか見方が変わるのが嫌だ…だそうだ。
対して変わらないと思うのだが…紗希ちゃんが嫌だというのならうちだって言わない。
だから、ぐっさんと紗希ちゃんは放課後デートするか、夜電話するしかないのだ。
その電話の内容は…ほとんど喧嘩のようだが…。
「それがどないしたん?」
「実は…ぐっさんな、紗希ちゃんと電話終わった後、うちに電話してくんねん」
な…なんですとぉ!?
「どうゆうこと!?」
「恋の相談…。紗希ちゃんとの電話の内容とか相談してくんねん…。うちしか相談相手いないからって…。」
ちょっと待て!どうゆうことだぐっさん!!
一瞬で、腹が煮えくり返るかと思った…。
ぐっさん、あんたわかってんの?
香奈ちゃんはぐっさんのこと好きだったんだぞ!
今もまだ好きかも知れないんだぞ!
なんで相談相手が香奈ちゃんなんだよ!
ふっざけんな投げ飛ばすぞ!(:はのは元柔道部です)
そう思っている間にも、香奈ちゃんは話を続けた。
「でな、深夜で眠いのもあるし…辛いし…この前、夜携帯の電源切ってん。んで、次の朝、電源入れたらメールが来てて…」
香奈ちゃんは携帯を取り出し、画面を見せてくれた。
『彼氏でもできたか?電話して悪かった。俺をふっきれたなら良かったな。』
はっきり覚えてないが、こんな感じの内容だった…。
「つまり、ぐっさんは香奈ちゃんに彼氏が出来たって勘違いしてるってこと?」
「うん、やから…このまま彼氏できたことにしよっかなって…。」
つまり…架空彼氏を作る…ということだ。
それでもいいと思った。
とりあえず、ぐっさんがそれでもう香奈ちゃんに電話かけないのなら…。
それが一番いい。
「ええと思うで。」
そう返事した。
「相談相手がいなくて、ぐっさん辛いかもしれんけど……」
香奈ちゃんが、そう思ってるだけで十分だよ。
その日の午後の授業中、紗希ちゃんともう一人女の子友達の涼子が香奈ちゃんを囲んでいた。
その三人はかなり仲が良く、一緒に昼ごはんを食べている。
今日、うちと香奈ちゃんが二人で話していたのが気になったのだろう。
先ほど、紗希ちゃんに話の内容を聞かれたが、適当に流した。
紗希ちゃんにまで架空彼氏の話をしなくてもいいだろうと思ったのだ。
きゃっきゃという女の子独特の話し声が耳に入る。
「彼氏できたの!?」
そのワードだけ耳に入ってきた。
その声は…紗希ちゃんのものだった…。
「そうなの、そのこと、はのちゃんに相談してたんだ。」
香奈ちゃん!?!?紗希ちゃんにまで架空彼氏の話するの!?
そんな!話ややこしくなるやん!
その日の帰り…。
「香奈に彼氏か…その相談やったんやろ?」
「えぇ…まぁ…。」
もう話に乗るしかない。
頭をフル回転させて紗希ちゃんの話にあわせる。
「でも、ぐっさんのこと振り切れてよかった…。」
紗希ちゃんの、言葉が胸をつく。
そうじゃないと言いたい。
この状況で、一番苦しんでいるのは香奈ちゃんだと。
せめて、紗希ちゃんとぐっさんがラブラブだったら、本当に香奈ちゃんは諦められただろう。
けど、あの二人は別れる別れないの話もするらしい。
それを聞いて、香奈ちゃんがぐっさんを諦めきれるわけがない。
けど、ぐっさんに別れろと言えるわけもない。
辛いよな…香奈ちゃん。
うちは、"他人事"かもしれん。
それでも、出来るだけ、香奈ちゃんを苦しみから救ってあげたいと思った。
それと、もう一つ思ったことがある。
結局、ぐっさんは相談相手がいなくなったわけだ。
これから先、また何かあったとき、ぐっさんが誰を相談相手に選ぶか、だ。
もう香奈ちゃんは無理だし、変にプライドの高いぐっさんが、同じクラスの男友達に彼女の相談が出来るとは思えない。
そこで、一人の人間が浮かび上がる。
紗希ちゃんとぐっさんが付き合っていると知っていて、ぐっさんが気に入っているらしく、紗希ちゃんの恋の相談相手。
うちは、ぐっさんは必ずいつかその女に相談するだろうと思っていた。
自分だった。




