第一話 研修
第一話、研修
『事実は小説よりも奇なり』
イギリスの詩人「パイロン」の「ドン-ジュアン」に出てくる言葉。
20年、生きてきたが、これほどこの言葉に共感したことはない。
この物語はノンフィクションである。
この物語はあるカップルの恋路である。
この物語は、そのカップルに振り回されるうちの話である。
始まりは専門学校1年の10月に起こった。
うち等のクラスは、研修合宿を控えていた。
研修、と言っても、クラスの親睦を深め楽しもうという合宿だ。
その合宿のメインイベント、持ち時間10分の小劇場だ。
クラスで四つの班に分かれ、シナリオも小道具も自分達で作って劇をやる。
優秀だった班にはちゃんとご褒美もいただける。
その劇の練習を行なった放課後のことだった。
「ぐっさん?」
「うん!好きやねん…」
好き、と言った香奈ちゃんは少し照れていて可愛かった。
香奈ちゃんは、うちと一緒の班になった女の子だ。
この班で女子はうちと香奈ちゃんだけ。
何故、二人しか女子いないのか。
それはこのクラスは四分の一しか女子がいないからだ。
このクラスはクリエイターコースと呼ばれ、将来、CGやゲームに関連した会社を希望する学生が集まるクラスだ。
パソコン関係になると、男子の比率が自然と高くなる。
しかも、だ、このクラスはオタクばっかりだ。
まともな人もいるが、正直、初めて教室を見たときうちは「生きていけへん」っと思った。
まぁ…なれればオタクの人としゃべるのも楽しいが。
ちゃんと彼女がいる人だっている。
もちろん、オタクじゃない人もいる。
その中で人気は目立つのが、うちらが女子が【5人組】と呼んでる人たちだ。
カッコいいし、ファッションセンスもいいし、普通にモテそうな集団。
その【5人組】の中の一人がぐっさんだった…。
ぐっさんもうち等と同じ班だった。
うちは、一緒の班になって初めて顔と名前を一致させた。
だから、ぐっさん、と香奈ちゃんに言われても、どう返していいかわからなかった。
「うん、ぐっさんってわからんけど、応援すんで!」
「ありがとうはのちゃん!」
あの時はそう返事するしかなかった。
あの日以来、ぐっさんを観察するようになった。
普通に教室の端っこで寝てる。
うち等より二つ年上だった。
おもしろい。
その他もろもろ、あったが…正直、苦手だと思った。
どうして苦手か聞かれるとわからないが…。
嫌いなわけじゃない。
精神的に受け付けないわけでもない。
ただ…苦手だった…。
それがうちが持ったぐっさんの第一印象。
正直、この研修が終わればもう関ることはなくなるのだろうと思っていた。
それが……こんな関係になろうとは…あの頃は考えもしなかった。
研修当日。
二泊三日の楽しい研修旅行のスタートだ。
行きのバスではカラオケで盛り上がった。
到着して、数時間後にもう小劇場の開始だ!
急いで準備して、そして始まった。
結果、見事うち等の班は準優勝を頂いた!
頑張った甲斐があったよ!
次の日、この日はウォーキングラリーをした。
班別で、田舎臭い道を歩いた。
歩き始め思った。
これは…上手くやれば香奈ちゃんとぐっさんが二人でしゃべれるチャンスじゃないか!?
思ったら即行動。
ぐっさんと仲のいい男子が前の方を歩いている。
ならぐっさんも前を歩くはず。
香奈ちゃんも前を歩いている。
これは大チャンスじゃないか!!
思わずニヤリと笑ってしまった。
もちろんうちは、後方を歩くことにした。
が……ここで思わぬ事態が発生した。
ぐっさんが、うちの隣りを歩いている。
そしてうちとしゃべっている。
あああぁぁぁ!
お前は前を歩け前をぉぉぉ!
しかもなんでうち!?苦手なんだってぇぇぇ!
内心そう叫んでいた。
結局、香奈ちゃんとぐっさんが二人でしゃべる機会を作れなかった。
次の日の朝。
香奈ちゃんと仲のいい紗希ちゃんから聞いた話だ。
香奈ちゃんは振られた。
旅行最後の晩、香奈ちゃんはぐっさんに告白した。
ぐっさんは…「俺は年上やし、」
そう言って、香奈ちゃんの頭を撫でたらしい。
これは、ぐっさんが香奈ちゃんを振った…ことになるのだろうか?
どうして、ぐっさんはこんな曖昧な返事をしたのだろう。
疑問を抱きつつも、研修旅行が終わり、香奈ちゃんの恋も終わった。
これが全ての始まり。
読んでくださってありがとうございます。付き合ってる方!これから付き合う方の参考になれば…そしてうちと同じ状況に置かれた方が共感してくれればいいなと思います!