第八話 「ずっと思ってた、全然似てないって。」
着替えが終わり、衣装部屋(ウォークインクローゼットという言葉とは、規模があまりにも違う)からさっきのリビング(?)に戻る。ローテーブルの上に、私が着ていた服が置いてあった。そんな良い物じゃないけど、気に入ってよく着てた服だ。それなりに愛着もあるし、今となっては日本を……私が暮らしてきた世界を思わせる数少ない物。
「洗濯しないで、このままにしておきましょうか。」
そう言ってくれたキャシーさんの心遣いが、嬉しかった。
「それと、こちらも姫様のお持ち物でしょうか?」
「あ! わたしの鞄!」
彼女が差し出した大きなトートバッグを、わたしは思わずひったくるように受け取った。そういえばさっきの「儀式」でこの世界に着地した時、手に持っていた筈のこれが失くなっていたのだ。中身を軽く確認して、そのままぎゅっと胸に抱いた。ほっとして初めて、今まで不安だったことに気付く。
「何かお飲み物を持って参ります。」
キャシーさんはそんなわたしに微笑みかけ、そっと扉の外へ出ていった。
といっても、「ほっとして鞄を抱き締めたままほろりと涙が」と続くようなかわいらしい性格ではない。わたしは鞄の中身をもう一度しっかりあらためた。うん、中身は何も減ってないし壊れてもない様子。やっぱ新しいの買う時ファスナー付きを選んで正解だったわ。いや、まあ、鞄と一緒に異世界に飛ばされるとまでは思わなかったけど。そんなこと誰が思うか、と一人で突っ込み苦笑した丁度その時、扉の向こうからノックの音と同時に「失礼致します。」と声が聞こえて、わたしは何故か慌てて鞄を閉じた。携帯電話だけを取り出し、服の中に潜ませてから。
「どうぞ。」
鞄を床に下ろしながら答えてから、そういえばキャシーさんの声とは少し違うなと気付く。扉を開けたのは、ちょっと大人っぽい印象の美女。着ている服のデザインがキャシーさんと同じなので彼女もメイドさんなんだと分かった。
「スズカ様、女王陛……カリン様がお呼びです。お越しいただけますか?」
断る理由は特にない。けど。
「あ、キャシーさんが飲み物取りに行ってくれてるんです。戻ってわたしがいなかったら、驚かせちゃう。」
「ご心配には及びません。私から伝えておきます。」
わたしは彼女について隣の部屋に移動する。中に入った瞬間、
「スーちゃああん!」
「うわ!?」
歌鈴に抱きつかれた。
「来てくれてありがとー。やっぱ一人じゃちょっと心細くって。」
大袈裟だなあ。わたしは仕方なく、歌鈴の頭をぽんぽんとやって落ち着かせながらソファの方に移動した。部屋の中にはわたし達ふたりだけ。どうやら気を遣っていただいてしまったらしい。
それにしても。
「リンちゃん……派手。」
ドレス姿の歌鈴は、すごかった。基本デザインはわたしが選んだものと似ているのだが、オーバースカートにもレースやフリルにも金糸が使われていて、宝石が散りばめられている。しっかり結い上げた髪を留める飾りも相当な物だ。
「そう? これ、用意されてた衣装の中で一番気に入ったやつ。」
どうもわたしとは感性があわないみたいだ。
「それにしてもスーちゃんは地味ねえ。私服の時も地味だなって思ったけど、ドレスももっと良いのあったでしょ?」
地味って言うな、せめてシンプルって言え!
「わたしはこういうのが好きなの。リンちゃんこそ、派手すぎるよ。」
「派手ってことはないわよ、このくらい。いくらシンプルって言っても綿シャツに綿の紺パンツって……東京の女子大生なんだからさ、もっと華やかにしてなきゃ。」
「やかましいほっとけ。」
どうしてこの子はこうなんだろう。
少しずつ思い出してきた、私たちが離れ離れになる前のこと。その記憶の中でも、ずっと思ってた。顔は同じなのに、わたしと歌鈴は全然似てないって。