第五話 「無理無理、絶対無理!」
「で、この国に猶予がないって……わたし達の力を借りたいって、どういう事?」
わたしの問いかけに、ロブは口を開く。
「フェリシア姫様……貴女方のお母上は、この王家の一人娘でいらっしゃいましたので。端的に申しますと、王家の直系の世継ぎは貴女方しかいらっしゃらないのです。」
「なるほど?」
「そして国王様はご高齢でいらっしゃいます。近頃ちょっとした病を召されて以来、世継ぎである娘が見つかるまで死ぬわけにはいかぬとおっしゃいまして、今まで以上に捜索に力を入れるようご命令されました。」
「はあ……。うん、だいたい分かった。」
分かった。たぶん。
正確に言うなら、言葉としては理解できた、ってこと。
だってねえ、わたし達、昨日までは現代日本で庶民の生活を送っていたんだよ? そもそも王様のいない国(……天皇はいらっしゃるけど。でもこの場合の王様とは意味がだいぶ違う。)から来たんだもん。いきなり王家の直系だ世継ぎだ後継者だって言われても、実感なんて出来るわけない。
その辺を正直にロブに伝えたら、彼にとっては『王様がいない』ってのが相当衝撃的だったみたい。
「はあ……人々の意見で選ばれた者が代表になるのですか。それほどの人望を集められるとなれば、さぞ志高く有能で素晴らしきお方なのでしょうね。」
なんて、しきりに感心していた。
「いや、今はそんなの置いといて。要するに、わたしたちに次の王様……女王様? になれって事よね。そういう話って認識でOK?」
ざっくりと話をまとめたら、ロブも頷く。
「はい、その通りでございます。」
彼は居住まいを正してひとつ深呼吸し、それから恭しく頭を下げて、言った。
「改めてお願い申し上げます。この世界には貴女が必要なのです。力をお貸しください、女王様。」
真っ直ぐに、歌鈴の方を向いて。
「……って、あたし!?」
「はい、カリン様……次期女王陛下。」
驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた歌鈴に、ロブはその少年らしい顔を輝かせて頷く。
「先程お手に触れさせていただいた時、強大なお力をお持ちでいらっしゃることはすぐに分かりました。間違いございません……あなたの持つそのお力、フェリシア様より受け継がれた王家の後継者たる証でございます!」
「そんなこと言われても! あたし女王様とか無理無理、絶対無理! 頭も良くないし、何かのリーダーとかやったこともないし、そんないきなり言われたって何したらいいのか分かんないよお……!」
パニックで涙目になった歌鈴はふと横を向き、わたしを見た。そして何を思ったか、わたしの腕をすごい勢いでがっと掴んでロブに向き直る。
「あたしよりスーちゃんにお願いしなよ! ほら、双子だけど一応スーちゃんの方がお姉ちゃんだし、四大生なんでしょ? あたしより頭もいいよ!」
「ちょっと待っ……」
そんなのわたしにだって無理……と言うより早く、ロブがきっぱりと言った。
「駄目です。」
「なんで!?」
おうっ、耳元で大声出すなよっ! 耳と頭が痛くなりそう。ついでにさっきからぐいぐい引っ張られてる腕も痛い。
「リンちゃん、ちょっと落ち着いて。」
わたしの声は歌鈴の耳に入っているのかいないのか。たぶん聞こえちゃいないな。
「国王は国民の霊力をまとめ上げ治める為、ご自身が莫大な霊力を持つ必要があります。失礼ながら、スズカ様の霊力も人よりお強くはあれど一国を支えるほどのものではないかと。やはりカリン様のお力は、フェリシア様が貴女様を見込んで託されたものと思われます。」
ロブが説明する。……なんかまた新しいワードが出て来たよ、『霊力』って。薄々感じてたけど、やっぱりここって所謂「剣と魔法の世界」なのかな? わたし、何も出来る気がしないんですが。
一方歌鈴は(霊力がどうこうって説明は完全にスルーしたのか)、ピタリと落ち着いてロブを見た。
「……母さんが?」