第三話 「ね、あなたって……」
その先は、なんだか訳が分らないうちに流されていった。
先程の広間は周りにギャラリーもいた儀式のようなものらしく、「お疲れでしょうし、詳しくは場所を改めて」と早々に切り上げられた。それから二人一緒に華やかな応接間風の部屋に連れて行かれ、待たされている。置かれているお茶に手を触れることもせず、二人で緊張のあまり身体を強ばらせて……
って感じなら、可愛げもあろうというものを。
「あ、お茶おいしー。甘くなくて良い。」
「ほんと。ちょっとハーブティーっぽいサッパリ感。」
わたしと彼女は小声でそんな会話をしながら、お茶とお茶菓子を味わっていた。不思議と緊張や恐怖は薄い。
(この子と一緒だからかな。)
自分と同じ状況であるらしい、自分と瓜二つの少女。その存在は何とはなしに心強かった。
それに、わたしには彼女の正体は分かっていた。予想が当たっていれば……ううん、外れている筈ない。そうでなきゃ、こんなにも似ていることの説明はつきそうにないから。
「ね、あなたって……」
わたしがそれを確かめようとした時だった。
「王女殿下。失礼して宜しいでしょうか?」
ノックの音と、さっきの少年の声がした。わたしと彼女はお互い少し顔を見合わせ、頷いた彼女を見て私は言った。
「どうぞ。」
……また、口から出た言葉に違和感をおぼえながら。
「失礼致します。」
重そうな扉を開けて入って来た少年は恭しく礼をした。今こうして見ると、本当に小柄。身長150cmくらいしかないんじゃないかな。ヒールがそれなりにある靴を履けば160cmを越えるわたしと、見たところそれと同じくらいの身長の彼女……うん、確実にわたし達よりちっちゃい。それに年下っぽい。
しかし、この場で話の主導権を握っているのは確実に彼だ。わたし達は彼の言葉を待った。
「改めまして、先程は急な事に大変驚かれたことと存じます。貴女方のお気持ちに拘らずお連れしてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。『世界渡り』の後ご気分がすぐれないなどという事はございませんか。」
「わたしは大丈夫。」
「あたしも。ありがとう。」
二人とも思わず普通に返事してしまった。けど……何だって? 『世界渡り』?
「私はこのカロリア王家にお仕えしております、ロブ=クレップスと申します。失礼ですが、お二人のお名前をお聞かせいただけますか。」
深々と頭を下げてそう名乗った少年に、わたし達はもう一度顔を見合わせた。普段から人見知りのわたし、この異常事態で警戒心が強まらない訳がない。でもまあこのまま自己紹介しないのもやりにくいし、名前言うくらい良いか。
「桐野鈴花といいます。」
わたしが名を言ったのを聞いて、隣の『もう一人のわたし』も口を開いた。
「桜木歌鈴です。」
そしてわたし達はまたお互いを見る。叫んだのは同時だった。
「やっぱり、リンちゃん!」
「スーちゃん!? ほんとに?」
ぽかんとしている少年の目の前で、わたし達はしっかりと抱き締めあった。
鈴花と歌鈴。わたし達は、双子の姉妹だ。
苗字が違うのは『大人の都合』ってやつ。幼い頃に両親が離婚して、それぞれバラバラに引き取られたんだそうだ。幼稚園の頃だからよくは憶えてないけど。大人の都合で姉妹生き別れだなんて、ひどい話もあったものだ。どんな人がそんなことするんだろうな……って、うちの親か。
それから長い事音信不通だったわたしと歌鈴。
「スーちゃんはずっとお父さんとあの家に?」
「ん、あのあと近くのアパートに引っ越した。マンション広かったし、父さんもそのまま住むの辛かったみたいで。」
「そっか……」
「リンちゃんは? お母さんと家を出た後、どうしてたの?」
「高校卒業まで母さんの実家にいた。今は東京で一人暮らししてたの。それでね……」
「あ! ちょっとストップ。」
とめどないお喋りが始まりそうだったが、わたしは慌てて止めた。少年が口を挟めずこちらをじっと見ているのに気付いたからだ。わたしがこの辺の生い立ちをざっくり説明すると、彼は納得したように頷いた。
歌鈴がしびれを切らして言った。
「ねえ、そろそろ説明してよ。」
「……分かりました。」