表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Death Simulator -注)これはデスゲームではありません  作者: kouzi3
第1章 ~チュートリアル
4/41

(4) アカウント登録レイヤ

・・・


 『まいど。おおきに。アカウント登録担当のジュウソと申します』


 遠くの方に、小さな扉がある。


 それが少しだけ開いていて、そこから光が漏れている。


 だけど、アスタの意識が縫い止められている空間座標は、いまだ闇に塗り込められている。だから、白と黒の恐ろしくクッキリとしたコントラストとして認識されている。


 「なんか変なゲームだな」というフレーズがアスタの頭の中に繰り返し浮かぶ。


 『これから楽しいゲーム世界へログインしてもらうわけでっけど…その前に…』


 えらいすいません…とか言いながらジュウソが、必要事項の入力と選択を求めてくる。

 『シムゲである以上、必要最低限のアカウント情報の登録は必要ですやんか?』


 馴れなれしい口調はカンに障るが、アスタは無視して登録作業を始める。


・・・


 【お客様のPPNを入力してください。】>>[■           ]


 なんだよ。まだブラック・コンソールなのかよ…とアスタは興ざめる。


 思念音声化認識とか、思考解析認識とか…最近のシムゲなら、そのぐらいの入力方式は採用しておいて欲しい。それが無理でも、さっさと暫定肉体構成フェーズに移行して、仮想キーボード入力させるとかさ。アスタは文句を我慢して、一文字ずつ、確認しながら、視線文字選択方式でPPNを入力していく。■のカーソル部分が、アスタの仮想視線コマンドで、別の文字に次々と変わっていく。アスタの入力すべき文字になったところで、視線を隣のスペースに移せば、直前まで意識していた部分の文字が確定される。


 PPNというのは、プライベート・ポスト・ナンバーの略。シムゲの企画・制作会社と、シムゲ・ユーザーが連絡を取り合うための、古い言い方をするとメールアドレス的なものだ。個人情報とも結びついており、課金に必要な決済情報の受け渡しも可能な識別番号なのだ。

 ちなみに、一文字目のPが小文字のpに代わり「pPN」という表記の時は、パブリック・ポスト・ナンバーの略で、同じくアスタとの連絡を取るためのメールアドレス的なものだが、こちらは個人情報とは切り離されており、用途はフリーアドレス的な使用が想定される識別番号となる。


・・・


 「しかもPPNの方を求めるってことは…課金とかもあるのかな?」


 そう思いながら、PPNの入力を終わり確定の意志を思念に込める。


 『PPNを受付中です。ただ今、承認情報を確認中。照合完了しました。続いて、課金利用種別を選択してください』


 【RPayを利用しウォレットに課金】 【ウォレットの作成のみ】 【スキップ】


 アイテム購入に現実のお金が必要なのかぁ…どうしようかな…とアスタは迷う。するとジュウソがヘルプ要請だと受け止めて、各選択肢の解説を始める。


 『ゲーム内では、基本的には現実同様に、お金が必要でっせ。倫理観を強くお持ちのお客さんは、RPayの利用がオススメでんな。ウォレットのみ作成の場合、働いて稼ぐか他のユーザーから奪うかしないとお金使えませんねん』


 うわ。面倒臭そう。RPay使っちゃおうかな?と思うアスタ。でも、念のため【スキップ】を選んだ場合についても聴いておく。


 『スキップしたら、お金は持てません。欲しいアイテムは実力で奪い取るのみです』


・・・


 ■選択>>【RPayを利用しウォレットに課金】


 アスタは、取りあえず念のため課金も可能にしておいた。ジュウソが揉み手でもしているような声で、『まいどあり!』と言う。そして付け足すように言う。


 『ログイン直後は、油断しがちやさかい、他のユーザーからお金取られんように、気ぃ付けてや』


 なるほど。気を付けなくちゃ…とアスタは思う。続いてRPayからの初期入金額の指定の問い合わせがある。


 アスタは、盗まれたりしたときのダメージも考えて2万CP分をチャージした。


 ちなみに、RPayとはリアル・ペイシステムのこと。CPはキャッシュ・ポイントで、2206時点での標準通貨単位だ。


 ちょっと多かったかな?…アスタが思った時には、もう次の入力フェーズに移行していた。


・・・


 【GOTOSを利用】 【GOTSSを利用】 【LP/SPで可】


 アスタは、ひょっとしてこれも有料サービス?と思いながら、【GOTOSを利用】を選択した。


 GOTOSは「異性のガイド」、GOTSSは「同性のガイド」。つまりゲームを有利に進めるためのアドバイザー兼パートナー・キャラクターを利用するかどうかの選択だ。人気シムゲ・タイトルの「リフュージョン」の場合、GOTOSを恋人として設定することも可能だったのを思い出し、アスタは多少不純な動機でこれを選択。

 人によっては、敢えてGOTSSとのアブノーマルな関係を楽しむ者もいるらしい。が、アスタにはそういう人の気持ちは理解できない。


 迷ったのは【LP/SPで可】の選択肢とだ。LPは、Local procurement…つまり、現地調達。自信があるなら、ゲーム内で他のユーザーと仲良くなって、ガイド役や恋人になってもらうという選択肢。奥手のアスタには、ちょっとハードルが高い。SPは、ご想像のとおりソロプレイ。ガイド無しで頑張る覚悟ということになる。


 案の定、これは有料で、選択したと同時に『おおきに、おおきに。5千CPを引き落としさせてもらいまっさ』とジュウソが愛想笑いを浮かべる。


・・・


 『おまちどうさまでした。アカウント登録レイヤは、これで終了ですわ。まいどおおきに…』


 後半の選択肢は、アカウント登録なのか?という気がしないでもないが、課金関係が絡むので、このレイヤにまとめてあるのだろう。そうアスタは理解することにした。


 その言葉を最後に、ジュウソの気配が消える。どうやら、このレイヤだけを担当していたらしい。ということは、もう二度と会うことはないのかな?なら、名前とかいらないんじゃ?


 ややツッコミに近い思考がアラート信号に揺らされる。気が付くと、半開きのドアの正面まで移動してきていた。ドアの外から漏れる光が眩しくて、思わず「ううっ」と呻いてしまう。


 『やや。これは失礼』


 そう声が聞こえ。ドアが一旦閉められる。


・・・


 視覚感覚が強烈な光信号に焙られたため、暗闇の中に戻されたにも関わらず、アスタの視界には赤や黄緑が網膜写真の撮影直後のように貼り付いていた。


 【キャラクター設定へ(N-B)】 【アカウント再設定】 【終了フェーズへ】


 やっとのことで赤や黄緑の視覚エラーをリセットすると、アスタの視覚域に、また選択肢が提示されていた。


 「あれ?さっきのが、最後の扉って言わなかったけ?」


 『いったかもしれません。が、全くもって間違えたというワケではないんです。お客様にとって、損害ゼロ、無傷で済むのは先ほどのレイヤから終了フェーズを選ばれた場合だけですから』


 「…っていうか、ジュウソじゃないんだ?…それは良いとして、じゃぁ、ここで終了フェーズを選ぶと?」


 『ジュウソのキャラがお好みで?お珍しいですな。ここでお辞めになった場合。先ほどウォレットに課金されたCPはご返金できません。また、既に一度、アカウントの作成が記録されましたので…現実に戻られて、気が変わられたとしても…二度とこの【Death Simulator】にはアカウントを作成できません。…まぁ…この扉をお客様がくぐり抜けた跡のことを思えば…ここで終了フェーズへ進まれるのも賢明な選択かもしれません』


・・・


 「別にジュウソなんかお好みじゃないよ。っていうか、くどいよね。まるで、ここで終了フェーズへ行かせたいみたいだ。…そりゃ、そうか。あんた達は、苦労しないでCPが儲かるもんな」


 アスタは、ある意味、まんまとゲームマスターのペースに嵌められているのだが、気づくほどには、まだ大人になれていない。


 「ただのクソゲーだと思ったら、本当は、詐欺ゲーだったんだな?」


 『いえいえ。滅相もございません。ワタクシは、次のキャラクター設定レイヤを担当いたしますソウジと申します。お客様が、この扉を開けて、ワタクシのレイヤへお越し下さるのを、手ぐすね引いて…もとい…心よりお待ち申し上げております』


 担当とか要らないのに!…確か人気シムゲの「リフュージョン」では、この辺り、もっとサクサクと手続きが進んだ記憶があるのだが。随分、前のことのように思われ、その時、各レイヤに担当なんてものがあったか?アスタは、あまり覚えがない。とにかく…


 「【キャラクター設定へ(N-B)】を選択!」


 アスタは思念で叫んでいた。


・・・


 因みに、(N-B)とは「Non-backtracking」。すなわち、「後戻り不能」。


 その扉が、この後に待ち受ける運命から逃れるための、真に最後の選択肢であったことにアスタは気づいていない。


 それでも、インターフェースは、アスタの思念に素直に従い…




 扉は開かれた。




・・・


 不思議と…もう眩しいとは感じなかった。


・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ