俺様のVRMMOが世界でいちばん強い!
いつもの放課後、タカシはとぼとぼと帰宅していた。また学校で自分のVRMMOを馬鹿にされた。親にどれだけ言っても新しいVRを買ってもらえない。タカシは悲しげに下校していた。
「よう、MMOのタカシじゃないか」
「俺たちとVR勝負しようぜ!」
クラスメイトの意地悪なナオトとケンタだ。タカシはぶすっとして呟いた。
「勝てる訳ないだろ。イヤだよ」
「やってみなきゃわからないじゃないか。行くぜ! VRDRAⅣ!」
ナオトはそう叫んで自らのVRを召還した。目の前に巨大な銀色のドラゴンが現れる。バーチャルだがもの凄いリアリティだ。
「ほら、タカシ勝負しようぜ」
ナオトはニヤニヤ笑いながらタカシを見ている。ケンタは羨ましげな声を上げた。
「いいなぁ、DRAⅣはやっぱカッコイイなぁ。俺も欲しいなぁ」
「ケンタのもカッコイイじゃないか、召還しろよ」
「よし、行くぜ! VRDAIJ!」
そう叫ぶと目の前に巨大な大蛇が現れた。
「ほら、タカシも早く召還しろよ。勝負しようぜ」
「イヤだって言ってんだろ!」
ナオトもケンタもニヤニヤしながら笑ってる。
「やってみなきゃわかんないじゃないか。ほら、早く召還しろよ」
タカシは悔しくて涙目になりなながら、自らのVRを召還した。
「ちくしょう! 出てこい! VRMMO!」
ポン、という音がして、タカシの前にひとつの桃が落ちた。それを見てナオトとケンタはゲラゲラ腹を抱えて笑い出した。
「あーっはっは。出てきた、桃が出てきた、超ダセー!!」
「ぎゃはははは! 桃だぜ桃! 桃には勝てねー!」
タカシは黙って桃を手に取り、ナオトのDRAⅣのドラゴンに投げつけた。ぷちゃ、という音がしてドラゴンに命中して、くちょ、という音をたてて地面に落ちた。
「ぎゃははは! 桃よえぇ! あははは! やっちまえDRAⅣ!」
ナオトがそう言うと、銀色のドラゴンは息をため、タカシに向って激しい紅蓮の炎を吐き出した。
「うわぁぁぁぁぁ! 熱い! 気がする! バーチャルだけど、すっごいリアリティーーー!」
タカシは燃やされて灰になった、ような気がして、地面に崩れ落ちた。
「あははは! 弱いんだよ! この桃野郎!」
「桃の分際でドラゴン様に勝てると思うな、桃!」
ナオトとケンタは捨て台詞を吐いて去って行った。タカシはよろよろと立ち上がり、公園のベンチに座って、ひとりしくしく泣き出した。
「ちくしょう、ちょくしょう、アイツら桃を馬鹿にしやがって」
タカシとて好きでVRMMOを使っている訳ではない。親が新しいものを買ってくれないのだ。
「……お腹空いたなぁ……VRMMO」
そう呟くと、タカシの前にポン、という音を立てて桃がひとつ出てきた。タカシは皮を剥いてむちゃむちゃ食べ始めた。
「ううう、甘くて美味しい、気がする、バーチャルだけど、とってもリアリティー……」
所詮はバーチャルの桃だ。とても甘くて美味しい気がするが、腹は膨れない。タカシがしくしく泣いていると、公園にいたホームレスがタカシに声をかけた。
「なぁ……君が使っているのは、VRMMOじゃないのか……?」
「……? そうですけど……」
「ちょっと、おじさんに見せてくれないかな」
「いいですけど、VRMMO」
ポン、と音を立ててタカシの前に桃がひとつ現れた。
「おお、まさしくはこれはVRMMO……懐かしい……これはな、おじさんが作ったプログラムなんだよ」
タカシはじろっとホームレスを見上げた。
「何でこんなもん作ったのさ」
「そりゃ、美味しい桃がいつでも食べられるじゃないか。うん、甘くて美味しい。バーチャルだけど、とってもリアリティー」
ホームレスは桃をむちゃむちゃ食い出した。タカシは抗議するようにホームレスを責めた。
「このせいで友達にイジメられてるんだ。今時MMOなんて使ってるヤツいないって。おじちゃんのせいだ」
ホームレスは同情してタカシを見つめた。
「そうか、今はドラゴンとか魔法とかが盛んだもんな。君がイジメられるのも無理はない。おじさんが特別にチート能力を授けてあげよう」
タカシは不思議そうに首を捻った。
「なに? チートって」
「MMOの能力を引き上げる反則技さ。ほれ、ほれ、こう、こうだ、ほいや」
ホームレスは空中で何かいじる動作を始めた。
「よいしょ、こうして、ふんと、ほいできた」
ホームレスは満足そうにタカシに頷いた。
「これで君のVRMMOはチートになった。早速友達に試してみるといい。きっと勝てるよ」
タカシは訝しげにホームレスを見つめた。
「本当に? 桃だよ? 桃でドラゴンに勝てるの?」
「勝てるさ、ただ忘れちゃいけない、真に強いのはたったひとつの桃だ。それだけ覚えておくといいよ」
ホームレスはそう言うとどこかに去って行った。タカシはその後ろ姿を見送りながら、自分の体を見回した。
「本当かなぁ、何も変わった気がしないけど」
「あれ? タカシじゃないか? まだ公園で桃食ってたのか?」
タカシが見上げると、さっきドラゴンでタカシを焼き尽くしたナオトが、ニヤニヤしながらタカシを見つめていた。
「まだ家に帰ってないのか、ちょうどいいや。塾まで時間あるからVR勝負しようぜ、VRDRAⅣ!」
ナオトの前に銀色の巨大なドラゴンが現れた。
「ほら! タカシも出せよ! 桃! あっはっは! 早く来い桃!」
タカシは手の平に力を集中させた。ちょうど良い。チート能力というものを確かめてやる。タカシは叫んだ。
「出てこい! VRMMO!」
ドベチャン! というもの凄い音がして上空から数千個の桃が落ちてきた。巨大な銀色のドラゴンはたちまち沢山の桃に潰された。ナオトがビックリして叫ぶ。
「な、なんだよ! それ! 桃多すぎだろ! くっそ! DRAⅣ! 桃を焼き払え!」
巨大な銀色のドラゴンは紅蓮の炎を吐いて、周囲の桃を焼き尽くした。タカシは再び叫んだ。
「もっとこい! VRMMO!」
また空から数千個の桃が降り注ぎ、ドラゴンを潰した。
「ひい! DRAⅣ! しっかりしろ!」
ナオトは悲鳴を上げている。これがチートか、チートってすげぇ! タカシはもう一度叫んだ。
「出てこい! VRMMO!」
また数千個の桃がドラゴンを押しつぶした。ドラゴンは完全に桃に埋もれて息の根をとめた。
「ち、ちくしょう! 覚えてろ! 桃のくせに!」
ナオトは捨てセリフを吐いて逃げていった。タカシは笑みを浮かべてその背中を見送った。これで自分は最強だ。自分の桃が世界最強だ!
「おっと、それはどうかな?」
タカシが振り返ると、一人の同世代の少年がタカシを不敵に睨みつけていた。
「お、お前は誰だ!?」
「俺はチート四天王の一人、オレンジのジン!」
「チ、チート四天王!?」
ジンと名乗った少年は不敵に笑った。
「そうさ、チート能力を持っているのはお前だけじゃない。くらえ、俺のチート! VRKAKI!」
ジンがそう叫ぶと空から数千個の柿が降ってきた。
「うわぁぁぁ!!!」
タカシは必死に大量の柿から逃げた。
「な、なんだこれは!」
ジンは鼻で笑った。
「これが俺のチートだ。俺に勝てるかな? 桃栗三年、柿八年って言うぜ?」
タカシはジンに向かって手のひらを突き出した。
「やってやる! 俺の桃が世界一だ! 柿なんかに負けるもんか!」
2人は同時に手のひらを突き出し叫んだ。
「VRMMO!!」
「VRKAKI!!」
両者から数千個の桃と柿が発射され、ぶちゃぐちゃぶちゃぐちょぶちゃぐちょと音を立てて激しくぶつかりあった。
「やるな! だがまだまだ! VRKAKI! VRKAKI! VRKAKI!」
「負けるもんか! VRMMO! VRMMO! VRMMO!」
万を越える桃と柿がぶつかり合う。だが僅かに柿のほうが量が多い。桃は押されていた。
「くっそ! このままじゃ負ける!」
その時タカシの脳裏にホームレスの言葉がよぎった。
『真に強いのはたったひとつの桃だ』
「そうか! VRMMO! VRMMO! VRMMO! ここに真の力を見せてくれ!」
タカシの前に巨大なひとつの桃が現れた。その姿はどんどん大きくなり空に浮かんだ。
「な、なんだ。俺の柿が全てあのデカイ桃に吸い込まれる!」
「まだ! まだ! もっとデカくなれ!」
桃はやがて空全体を覆い尽くした。ジンは自分の体が空中の桃に吸い込まれる、ような気がした。
「そうか! 重力か! デカイものに物は引き付けられる、うわぁ! うわああああああああ!」
ジンは空中にもの凄い勢いで飛び、空中の巨大な桃に全身を叩きつけられた、ような気がした。
「す、すげぇ、バーチャルだけど、すごい、リアリティー……」
ジンはゆっくり倒れた。タカシは勝ち名乗りを上げた。
「見たか! 真に強いのはただひとつの桃だ!」
ジンはゆっくり立ち上がり、タカシと固く握手を交わした。
「見事だったぜ、お前の桃、俺の完敗だ」
「お前の柿も凄かったぜ。やっぱ、秋には柿だよな」
「だが、これだけは覚えておけ、俺はチート四天王の中でも最弱の男」
タカシは驚いてジンを見つめた。
「お、お前より強い奴がいるのか!?」
「ああ、俺の所属するチート四天王の上には、チート七英雄、チート四魔貴族、その頂点に立つのがチート連邦第48番隊の一人、13番隊長だ」
「そ、そんなにいるのか」
タカシはじっと自分の桃を見つめた。嫌、今の俺なら戦える! タカシは自分を鼓舞した。
「俺のMMOは世界一だ。俺はそれを証明してみせる!」
タカシは空を見上げた。ジンもゆっくり頷いた。
「ああ、お前ならやれる! 俺と一緒に世界を目指そう!」
「ああ! 俺たちの戦いはこれからだ!」
タカシの戦いはこれからも続く。この後、様々な敵がタカシの前に立ちはだかり、その全てを倒し、タカシが世界一のVRMMOと呼ばれるのは、また別のおはなし。
(おしまい)
ご拝読ありがとうございました。
なんとなく「たまには桃が食べたいなぁ」と思って頂ければ幸いです。