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小鳥のブローチを仕舞うまで

作者:
掲載日:2026/04/05

きっと、私たちは誰も間違ってなんかいなかったから、みんな傷ついたーーー



「久しぶり!メル!」

「テール!」


3カ月ぶりに会った私たちは、久しぶりに笑い合った。

テールは男爵家の跡継ぎ。

私は王都御用達でもある地方の大商人の娘。

多少釣り合いは取れないものの、最近テールの家の鉱山からダイアモンドが出ることが発覚し、それを取り扱う商人の娘である私との婚約が整った。

本当なら格上の貴族とも縁付く事が出来たのに、金銭的な事情で困っていたテールの家は、王都でも指折りの金持ちである家と縁付くことを決めたらしい。

完全な政略結婚。

でも私は幸せだった。

テールは私を大切にしてくれたし、好意が育っていくのは早かった。

ただ、今回王都への次期男爵ということで顔見せに行ったことで、ずいぶんと会うのは久しぶりになってしまった。


「本当に、メルの誕生日の前に帰ってこれてよかったよ。」


家の中庭で、テールが小さな箱を差し出す。


「これ……誕生日プレゼント。」


誕生日おめでとう。そう言われて箱を開ける。

……ダイアモンドをあしらった、小鳥のブローチ。


「こんな高価なもの、受け取れないわ」

「メルのために作ったんだ。どうか受け取ってほしい。」


そのまま小鳥はテールの手に取られ、私のスカーフに着けられる。


「やっぱり、メルによく似合う。」


テールは、幸せそうに笑った。

その時、確かに私たちは幸せだった。




「また王都へ、ですか……?」


テールは怪訝そうに父親の顔を見た。


「済まないな、ダイアモンドの値段が段々上がり始めてな。」


私はここを離れられない。かわりにお前が。

そう言われて、テールは少し気落ちしながらメルの家を訪れた。


「テール、いらっしゃ…、どうしたの?そんな顔をして。」


メルは今日も小リスのように愛らしかった。

胸元に輝く小鳥がよく似合う。テールは内心、こっそりと微笑んだ。


「ごめんね、メル。父上からまた王都に行ってくれとの話で……」

「また?」メルは不安そうに小首をかしげた。「何か問題でもあったの?」

「いいや、家的にはいいことさ。ただ……」


テールは不安を振り払い、何でもない、と答えた。


「テール……私も一緒に行けたらいいのに。」

「もしものことがあったらどうするんだ、メル。大丈夫だよ。俺は大丈夫。」


変わらない、安心できる場所。

ここを守るために、テールは行くのだ。




最近、不安になることが増えた。

メルは、一人感じていた。

何度も王都に行かされるテール。

社交界に積極的に出そうとしてくる父母。

婚約者なのに、もう半年も会えてない……

メルはしょんぼりと肩を落とした。

確かにメルは頼りになるタイプではない。

頭が特にいいというわけでもなく、体の強さだって普通の少女だ。

けれど、何も言われないのは、とても不安で仕方がなかった。

テール。そばにいてほしい……

そう考えていた時、雨の振り付ける窓辺に、こつんと小石が当たった。

ふと外を見ると……テール!?

びしょ濡れのまま、どうやらジェスチャーで外へ来てほしいと言っているようだった。

慌てて水を弾く布を羽織って、メルは外へ駆けた。


「テール!こんな日に、どうして……」


テールは何も言わず、メルの手を握った。

その目には、決意が宿っていた。


「メル……俺と、逃げてくれないか。」




メルはテールに手を引かれて駆けた。

暗い雨の中、叩きつける風にさらされながら。


「テール……テール!どうしたの?教えて?テール!」

「父に言われたんだ……!」


テールはメルの手を強く握りしめた。


「もっと上の……伯爵家と縁付けと…!」


メルもなんとなく感じてはいた。

父母の社交界への勧め。

ダイアモンドの値上がり。

まるで引き離されるかのように会えなくなっていったテール。

けれど……引き離されたくないのは、メルも同じだ!

メルも覚悟を決め、テールの手を強く握りしめ、ともに駆けた。

……どこにも行く当てはないのに。



走って、走って、走り続けて……

メルとテールは、深い森の中にいた。

少しでも雨を避けたくて、ずぶ濡れになった2人は森へ入った。

森番の使われなくなった小屋に逃げ、

2人は必死に身を寄せ合った。

……しかし、メルはもう限界だった。

走り続けて、体力がもう無い。

ずぶ濡れで、体温も奪われている。

ぐったりと、テールに寄りかかった。


「メル……!」


テールも唇を青くして、メルを抱きしめた。

どうにも出来ない。

メルを死なせてしまう……?

それだけは、どうしてもテールには受け入れられなかった。

その時、遠くから声が聞こえた。

……2人を、追ってきた声が、追いついてきたのだ。

テールは迷った。声を出せば気づかれてしまう。けれど、このままではメルはーー

ずっと隣で、守りたかった場所……。

テールは、唇を噛み締めた。

………息を、吸い込む。


「……ここだ!」


声を、張り上げた。




メルが目を覚ました時には、すべてが終わっていた。

伯爵家と縁付いたテール。

伯爵家から紹介された新しい婚約者。

両親は泣いて謝ったけれど、メルの心はただ遠いテールを思った。

メルにだって分かっている。

男爵家は得になる相手と縁付いた。

けれど、今不義理が責められ、前より不利な立場にいるという。

両親は遠回しにメルに心変わりをさせようとしていた。

……テールは、メルの命を選んだ。

きっと、私たちは誰も間違ってなんかいなかったから、みんな傷ついた。


それでも、私はテールと一緒が良かったな。


メルは、震える手で小鳥のブローチを外した。

しばらく胸に抱きしめてから、ブローチを大切な宝箱にしまった。


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― 新着の感想 ―
小鳥という可愛らしい意匠の装飾品を選んでくれる婚約者が素敵ですね。 メルは、この後貴族令嬢としての義務を果たして生きていくんだろうなぁ。 社交界で、テールとばったり出会ってしまって、お互いすっと目を逸…
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