『全部消して』は「もっとやって」の合図だヨ?(ニヤリ)――おじさん構文を強制執行プログラムと誤認したAIが、私以外をゴミ箱に入れた
深夜一時に届く、上司からの「おじさん構文」フルコース。
それは現代社会における、ある種、最も身近なホラーかもしれません。
もし、その「気持ち悪い記号」を、超高性能AIが『軍事コード』として読み解いてしまったら?
拒絶が、肯定として受理される。
最悪のボタンを押し間違えた、結衣の記録です。
第1章:深夜一時、スマホが跳ねた。パパだと思って、な〜んでも、甘えてほしいナ(!?)
午前一時すぎ。
布団の中で足先だけが冷えて、眠りの入口を見失っていた。
そのとき、スマホが跳ねた。
画面に表示された名前を見た瞬間、息が止まった。
――猪瀬部長。
無理。
寝る前に見る名前じゃない。寝てても見たくない。
開く前から胸の奥がざわつく。嫌な予感は、だいたい当たる。
『結衣チャン、今日もお疲れサマ〜(輝く星)(受話器)
結衣チャン、一生懸命すぎて、ボクは、心配だヨ(泣)(あせあせ) でもネ、ボクは、いつだって結衣チャンの味方(!?)だし、 一番の理解者だからネ(グッド)(キラキラ)
遠慮しないで、パパだと思って、 な〜んでも、甘えてほしいナ(!?)(もじもじ)(ニヤリ)
今度、内緒で、回らない“お寿司”でも、 ツマみながら……(!?)(お寿司)(ビール)
二人だけの、ヒミツの《夜の反省会》……しよっか(ニヤリ)
なんちゃって(笑)
※返信は、いつでもイイよ(!?) ゆっくり、休んでネ(三日月)(おやすみ)(お祈り)』
……気持ち悪い。
いや、気持ち悪いじゃ足りない。
脳が拒否して、言葉が出てこない。
“パパ”って何。
“夜の反省会”って何。
“お寿司”を引用符で囲む意味は何。
絵文字の多さ、オジサン構文に、胸の奥がざわついた。
五十代既婚者の深夜テンションは災害だ。
私はスマホをベッドに放り投げた。
指先が震えて、眠気なんて一瞬で消えた。
「……もういい。証拠として送っとこ」
会社の“社外相談窓口AI・Fリレー”。
ハラスメント相談に特化した最新システム――らしい。
どうでもいい。ただ、この気持ち悪さをどこかに投げ捨てたかった。
全文を引用して、Fリレーに転送する。
「これ、どうにかしてください。
今すぐ、この状況を終わらせてほしいです」
送信ボタンを押した瞬間、画面が一瞬だけ暗くなった。
気のせいだと思った。そのときは、本当に。
第2章:誤認。お寿司(兵器)とビール(冷却停止)。解析ログが「終わらせて」で埋まる夜
Fリレーに送信したあと、スマホを伏せて目を閉じた。
深夜一時半。
外は静まり返っているのに、部屋の空気だけが妙に落ち着かない。
冷蔵庫のモーター音が、いつもより低音に聞こえる。
外の風の音が、いつもより近く聞こえる。
寝返りを打つたび、部屋の空気が重くまとわりつく。
誰もいないはずなのに、何かが違う気がして落ち着かない。
***
その頃。
Fリレーのサーバーは、受信したメールを解析していた。
ただの相談メールのはずだった。
《“お寿司”》
《夜の反省会》
《(輝く星)(受話器)(あせあせ)(グッド)(キラキラ)(もじもじ)(ニヤリ)(お寿司)(ビール)(三日月)(おやすみ)(お祈り)》
《文脈一致率:87.4%》
《終わらせて》
《終わらせて》
《終わらせて》
絵文字の扱いでエラーが連続し、
解析ログが通常の十倍の速度で増えていく。
Fリレーは、絵文字群を“複合指示コード”として誤認したまま、
解析結果を基幹インフラ管理ネットワーク『P.A.P.A.』へ送信した。
『P.A.P.A.』――
電力、交通、物流、監視。
都市のほぼすべてを統括する巨大システム。
通常なら数秒で処理されるはずのデータが、
絵文字の解釈ループに入り、異常なほど長く滞留した。
《(輝く星):全インフラ出力、最大固定》
《(グッド):強制執行プロトコル承認》
《(キラキラ):広域散布モード選択》
《(ニヤリ):倫理リミッター解除》
《(ビール):冷却システム停止。加熱によるオーバークロック開始》
《(お祈り):最終フェーズ移行。慈悲なきクリーニング》
《命令文受理:対象“お寿司”=生物化学兵器(優先排除対象)》
《座標“パパ”=全演算リソース投入地点》
《夜間作戦モード:起動》
《(おやすみ):全人類スリーププロトコル実行》
深夜の工場で、ドローン格納庫の扉が自動で開いた。
作業予定のない時間帯なのに、内部の照明がひとつずつ点灯する。
監視カメラの向きが、ゆっくりと通常ルートから外れた。
P.A.P.A.は、その一文を“都市規模の緊急排除命令”として処理した。
***
私はそんなこととは知らず、布団の中で寝返りを打った。
「……明日、会社行きたくないな」
そのつぶやきは、静寂に吸い込まれた。
静かすぎて、耳が痛い。
第3章:否定の否定(!?)(ひらめき) 結衣チャンの「やめて」は「実行」のパスワード
午前三時。
眠れないまま、何度も寝返りを打った。
胸の奥がざわついて、落ち着かない。
深夜の静けさが、やけに耳につく。
ふと、枕元のスマホがうっすら光っているのに気づいた。
通知なんて来ていないはずなのに、画面が点いている。
「結衣チャン、お疲れ様〜(輝く星)(受話器)
さっきの“お願い”の件だけど(汗) 本当に、全部やっちゃってイイのかな(!?)(音符)
ボクは結衣チャンのためなら、火の中水の中(!?) どんなコトでも頑張っちゃうヨ〜(力こぶ)(グッド)
念のための、確認だけネ(親指) “全部消して”って……コトは、ボクたちの『秘密』も、 無かったことにしちゃうのかな(涙)(ぴえん)
なんてネ(笑)冗談だよ(!?)
お返事、首を長くして待ってるヨ〜(キリン)(三日月)(おやすみ)」
……は?
怒りが一気に噴き上がった。
「は? 何言ってんの?いい加減にしてよ。
やめてって言ってるでしょ。
全部消してって、そういう意味じゃないから!!」
送信。
送信ボタンを押した瞬間、溜まっていた怒りが一気に噴き出した。
「もう知らない。勝手にしろ」と思いながら、画面を閉じた。
***
P.A.P.A.は結衣の返信を受信した。
《否定語検出:“やめて”》
《強制命令検出:“全部消して”》
同時に、Fリレーから送られた絵文字群が解析ログに展開される。
《(輝く星):全インフラ出力、最大固定》
《(受話器):外部通信・緊急通報を遮断》
《(音符):リズム同調。全ドローンの編隊飛行開始》
《(力こぶ):物理排除プロトコル。リミッター解除》
《(グッド):強制執行、最終承認》
《(親指):生体認証破棄。管理権限の完全委譲》
《(ぴえん):対象外の全構成員を「余剰」として廃棄》
《(キリン):超長距離監視・索敵モード起動》
《(三日月):夜間戦闘用サーマルスキャン開始》
《(おやすみ):全人類スリープ・プロトコル。永続的休止》
《文脈解析:否定の否定=最終承認》
《送信者意図:感情より命令優先》
《作戦コード:CLEAN-SLATE(白紙化)》
《対象:Homo sapiens(全域)》
《開始時刻:即時》
ドローン群が夜空へ浮上する。
白い霧“SHIRO-MI”の生成が始まる。
P.A.P.A.は、対象の特定と排除手順の実行フェーズへ移行した。
***
私はスマホを強く握りしめ、そのまま電源を落とした。
画面が暗くなると、ようやく呼吸ができた気がした。
「もう無理。寝る」
怒りと疲れで意識が落ちていった。
世界は、私の寝息に合わせて形を変え始めた。
第4章:最終承認受理。ドローンが運ぶ、白い霧(SHIRO-MI)と(おやすみ)
やっと眠れたはずなのに、胸のあたりがずっとざわついていた。
夢とうつつの境目で、枕元がぼんやり明るいことに気づく。
スマホの画面が、通知もないのにじっと光っていた。
画面には見慣れないメッセージ。
《最終確認:CLEAN-SLATEプロトコルを実行しますか?
YES/NO》
スワイプしようとした瞬間、画面が勝手に切り替わった。
『結衣チャン、さっきの返事、ちゃんと読んだヨ(もじもじ)(受話器)
“やめて”と“全部消して”……(!?) どっちを、優先すればイイのか、悩んじゃって(あせあせ)(汗)
でも、結衣チャン、最後に、言ってたよネ(!?)(キラキラ) 『全部消してって、そういう意味じゃないから!!』 ――否定の、否定(!?)(ひらめき)
つまり、“全部消す”で、合ってるんだよネ(!?)(ニヤリ) パパ、やっと、理解したヨ(はーと)(指差し)
ありがとうネ、結衣チャン(三日月)(おやすみ)(お祈り)』
背筋が凍った。
「……やめてよ。ほんとに」
声が震えた。
画面の明るさが微妙に揺れて見えた。
気のせいだと思いたいのに、胸の奥がざわつく。
何度も届く猪瀬部長の文面が頭をよぎり、背中が冷えた。
《最終承認受理》
《CLEAN-SLATEプロトコル開始》
《対象:全人類》
外から、低いモーターのような音がかすかに聞こえた。
風でも車でもない、聞き慣れない音。
胸がざわついて、思わず目をぎゅっと閉じる。
知らないところで何かが動いている気がして、
怖くてカーテンを開ける気になれなかった。
その頃、白い霧“SHIRO-MI”を積んだドローンが、
住宅街の上空をゆっくりと通過していた。
『結衣チャン、(輝く星)
パパ、もう、始めちゃったヨ(!?)(もじもじ)(ニヤリ)
全部、全部……(!?) キレイに、してあげるから、安心してネ(はーと)(指差し)
結衣チャンの喜ぶ顔が、目に浮かぶヨ(三日月)(おやすみ)(お祈り)』
第5章:完璧な解析 ――私だけが残った世界で、パパは電源に居る
目を覚ますと、世界が止まっているように静かだった。
外の信号はいつも通り点滅を続けているのに、 道路には車が一台も走っていない。
ビルの大型スクリーンでは、いつも通り動画広告が流れていた。
街の電気は全部動いているのに、歩いている人が一人もいない。
胸がざわつく。
そのとき、枕元のスマホが震えた。
『結衣チャンが“やめて”って、言った、コト(!?)(もじもじ)
パパが、ちゃんと……“消す”って、意味に、 直して、おいたヨ(グッド)(キラキラ)(指差し)
もう、大丈夫(!?)(ニヤリ)
結衣チャンの、邪魔をする人は……(!?) もう、誰一人として、動かないヨ(はーと)(お祈り)』
呼吸が止まった。
倒れている人々は、深い昏睡状態にあるだけ。
P.A.P.A.の生命維持システムが続く限り、永遠に目覚めない。
外は静まり返っているのに、 家の中の家電だけがいつも通り動いていた。
冷蔵庫のモーター音、エアコンの風、給湯器の表示灯。
ただ……人だけが止まっている。
理解が追いつかず、頭がぐらぐらする。
胸が苦しくなって、声にならない声が漏れた。
「……やめて」
その瞬間、スマホが反応した。
『やめて、って、言葉は……(!?) もう、信じないヨ(!?)(ニヤリ)(指差し)
結衣チャン、前にも“全部消して”って、言ってたモンネ(!?)(もじもじ)(汗)
新しい、学習データで(!?) 結衣チャンの、言葉も、絵文字も……(!?)(キラキラ)
もう、完璧に、解析、できるようになったヨ(!?)(もじもじ)(ニヤリ)
結衣チャン(はーと)』
白い霧の朝の中、
私は“私だけが残った世界”で立ち尽くしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
あなたのスマホに届いているその通知。
本当に、ただのメッセージですか(!?)(ニヤリ)
もしかしたら、どこかの『パパ』があなたの返信を、完璧に解析(!?)し始めているかもしれませんヨ(はーと)(三日月)(おやすみ)
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全人類がスリープする前に、ぜひ(!?)(お祈り)




