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調査依頼専門の冒険者―見たことのないものが、まだ世界にはある  作者: ノクナギ
蒼淵の継承編

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第十話 「ループの意味」

十一回目の朝、レインは砂浜で目を覚ます前に、一瞬だけ夢を見た。


深い青の海の底。光が届かない暗闇の中、誰かが座っていた。銀の髪。浅黒い肌。その人物は膝を抱えて、何かを数えるように指を折っていた。一、二、三……数が増えるごとに指が折られていき、やがて両手の指が尽きて、それでも数えるのをやめなかった。指がないのに空中で数え続けていた。


目が覚めると、波の音がした。


頬に砂の感触。全身が潮水に濡れている。


十一回目の夜明けだった。


レインはゆっくりと身体を起こして、砂浜を見渡した。岩礁と廃墟。見慣れた風景。タルクはまだ岩の上に来ていなかった。空は白み始めたばかりで、サルム海が朝の光を受けて橙色に染まっていた。


夢の中のシアが、膝を抱えて数を数えていた。最初のうちは一つひとつを記録しようとしていたのかもしれない。やがてそれをやめた日のことを、シア本人はもう覚えていないだろう。


覚えているのは俺だけだ。


そう思うと、胸の中に重いものが落ちてきた気がした。


十一回目は、黒砂嵐の観察に費やした。


前のループまでの観察で周期は把握していたが、ルートを変えることで周期が変わる可能性があった。宮殿の南側から近づくルートと、北側から近づくルートで、砂嵐の接近速度が違った。南側の方が砂嵐の巡回が速く、北側からのアプローチが有利だと分かった。


「北側から入れば、砂嵐の来る前に扉を開けられる」レインはシアに報告した。


「北側へのルートは?」


「石獣の広場の裏手から、一度宮殿の西側に出て、それから北に回り込む。遠回りだけど、砂嵐の巡回エリアを避けられる」


「時間は?」


「砂嵐が北側を通過してから次に来るまでの間隔が一番長いのが北西コーナー。そこを通り抜ける時間的余裕は十分ある」


シアはレインの説明を聞きながら、地面に指で大まかな地図を描いた。「ここから、ここを通って、ここに出る。そしてここから扉へ」


「そうだな。次のループで実際に通ってみる」


「一人で行くの?」


「シアも来るか?」


シアは少し考えた。「来る。私も……ケレトに会うべき時が来たと思う。三千年間、会えなかったけど」


「怖いか?」


「怖い。でも……レインが一緒なら、大丈夫な気がする」


「なぜ俺がいると大丈夫なんだ?」


シアは少し考えてから答えた。「レインが覚えていてくれるから。何があっても、レインには記憶が残る。私が砂嵐で記憶を削られても、レインの中に続きがある。それが……安心感になっているからかな」


「それは頼りにしてもらっていい」


「……うん」シアは静かに言った。「頼る」


―――


十二回目、黒砂嵐との最初の遭遇があった。


北側ルートを試みて、宮殿の北西コーナーに差し掛かったとき、予期しない方向から砂嵐が来た。観察したパターンと違う。砂嵐は時折、ランダムな方向に逸れることがあるらしかった。


「伏せて!」シアが叫んだ。


レインは反射的に身を低くした。


黒い砂の壁が頭上を通り過ぎた。


嵐というより、砂でできた生き物のようだった。渦を巻きながら宮殿の周囲を流れ、その一部がレインとシアの方へ向かってきた。シアがレインの腕を引いて、崩れた建物の影に飛び込んだ。


黒砂が近くを通り過ぎた。砂粒が数粒だけ袖に当たった瞬間、チリチリとした感覚が耳の奥まで伸びてきた。


「動かないで、気配を消して」


シアがレインの耳元で低く言った。距離が近い。息の音が聞こえる。砂嵐の通過音が響く中、二人は息を殺して動かなかった。


砂嵐が通り過ぎた。


「……体は?」レインは自分の体を確認した。特に目立った怪我はなかったが袖には擦り傷ができていた。


「少し削れた。でも大きな問題はない」


「それで済んだなら軽い方」シアは安堵したように息をついた。「大量に浴びると、自分が誰か分からなくなるほど削られる」


「防衛システムだとすれば、俺たちが宮殿に近づいたことがケレトにも伝わったかもな」


「すでに。神官の目で、行動が筒抜けになっている。だから今後はルートを毎ループで変える必要がある」


「了解。今日はここで退く」


「ごめんね」シアは申し訳なさそうに言った。「私と一緒だと、動きが遅くなるかもしれない」


「そんなことはない」レインは立ち上がりながら言った。「シアがいないとここまで来ることができなかった」


「……そうかな」


「そうだよ」


帰り道、シアはしばらく無言だった。廃墟の道を歩きながら、どこか考え込んでいる様子だった。


「どうした?」


「ケレトのことを考えてた」シアは言った。「あの人が黒砂嵐を放ったことは分かってる。でも……ランダムに逸れることは、ケレトの意図じゃないかもしれない。自動システムが経年劣化しているだけかもしれない」


「それはどういう意味だ?」


「ケレトが意図的に私たちを追い返そうとしているなら、もっと効率的に来られるはずだということ。あれだけ遠くまで神官の目が届いているなら、砂嵐の向きを制御することも難しくないはず。でも制御していない。ということは……もしかしたら、ケレトはあの防衛システムを意図的に使っていないのかもしれない。自動で動いているシステムを、止めていないだけで」


「止めることができるのに、止めていない?」


「または……来てほしくない気持ちと、来てほしい気持ちの両方があって、どちらにもしきれていない」


「三千年間、一人でいた後の心理としては、あり得るな」


「そう思う」シアはゆっくりと言った。「ケレトは……怖いんだと思う。誰かと向き合うことが。三千年間の罪を、誰かに見られることが」


「しかし待ってもいる」


「そう。怖いけど、待っている。それがケレトだと思う」


レインはしばらく考えてから言った。「次のループで、別ルートを試す。砂嵐の周期の例外も把握する。少しずつ安全なルートを開拓していく」


「何ループかかると思う?」


「二十ループ目くらいまでには入れると思う」


「信じるよ、それに私にとってはどれも1回目だよ」


「信じてもらえるのはありがたいけど。その分、外れたとき責任を感じるが」


シアが少し笑った。「外れたら、また別のループで考え直せばいい。それがループの唯一の利点だから」


「唯一?」


「他に利点があるとは思えないからね」シアは言った。しかしその声には、以前のような深い疲れがなかった。「でも……あなたがいるから、今はそのループを重ねることが、ただの苦痛じゃない。進んでいる感覚がある」


「進んでいる」


「そう。初めて、前に向かっている気がする」


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