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「わあ~、エドウィンがついにやりましたね! おめでとうございます!」


ウンディーネが自分のことのように手を叩いて喜んだ。

それでも、誰かが純粋に喜んでくれるのは、やはり俺も嬉しかった。

成功した喜びと、これでようやく無人島を抜け出せるという思いに、口角が自然と緩む。


俺は彼女に、心からの言葉を伝えた。


「ウンディーネ、君がいなきゃここまで来られなかった。全部君のおかげだ、ありがとう」


ウンディーネがいなければ、とっくに溺れ死んでいたか。

奇跡的に助かっていたとしても、空腹に耐えかねて餓死していただろうから。


「ふふっ、もっと喜んで、崇めなさい!」


ウンディーネが両手を高々と上げ、俺の周りをくるくると回った。


「そんなの、一体どこで覚えたんだ?」

「人間たちが良いことがあった時、みんなこうしてましたよ?」


誰を見てそう思ったのかは知らないが、ベネスに戻ったらウンディーネに、普通の人間がどう話し、どう振る舞うのかを見せてやらなければと決心した。


日が暮れるまでにはまだ時間がたっぷりあったので、心象の中の水を圧縮する練習を一日中繰り返した。そのおかげで負担は大きいが、その気になれば無理なく使いこなせるようになった。


翌日の明け方。

少しでも早く出発するため、日が昇ると同時に起き上がった。


「ウンディーネ、行こう」


大した準備も必要なかった。

道中で食べるための魚の刺身を少し用意しただけだ。


「はーい、出発~!」

「水の帳」


体を包み込む球状の障壁。


あえて言葉にしなくても発동はするが、口に出すことで発動がより容易になることが分かった。まだ慣れていないせいかもしれない。想像がより具体化される、とでも言うべきか。


「ウンディーネ、人間が集まっている街がどこにあるか、分かってるよな?」

「ええ、人間たちが集まって住んでいる場所なら、私に任せてください」


ウンディー네の確信に満ちた返事を聞き、俺はこれまで過ごした無人島を目に焼き付けた。

何もない無人島に閉じ込められ、なす術もなく死ぬかと思ったが、ウンディーネに出会って島を脱出することになった。自分が乗っていた船が湖に沈み、遭難した島で魔法を学んだという事実が、今でも信じられないが……。


「元気でな。二度と会うことはないだろうが」


湖に足を踏み入れ、水の帳を作ってウンディーネの指し示す方向へと移動し始めた。


十分ほど移動しただろうか。

後ろを振り返ると、俺がいた無人島は豆粒ほどに小さくなっていた。


「これくらい離れれば十分だと思うんだが。ウンディーネ、君が言っていた怪物は見当たらないぞ?」

「そうですね。エドウィンは運が良い人みたいです。出くわさないに越したことはないですから。ん……?」

「……どうした?」


呼びかけても、ウンディーネは黙ったまま湖の底を見つめていた。

その姿を見て、聞かずとも良からぬことが起きているのだと察した。


「湖の底の存在が私の気配を感じて目を覚ましました。もうすぐこちらに来ます」

「……。どこか別の場所へ行く可能性は?」

「昔から私を食べたがっていた子なので、それはないでしょうね」


ウンディーネは物騒なことを、まるで何でもないかのように口にした。

ウンディーネの助けを借りず、俺の力だけで動いていたにもかかわらず、正確な位置を把握して現れたということになるが……あいつ、どれだけウンディーネに執着してるんだ。

しつこい男は女にモテないってこと、知らないのか?


「もうすぐここへ来ます、準備してください」

「どこから来るんだ?」

「あそこです」


ウンディーネが指先で一箇所を指し示した。

俺はその方向を凝視する。バイカル湖の水は清く澄んでいるので、視界を確保するのに苦労はなかった。


「今です」


湖の底から浮き上がってくる黒い物体。

かつて乗っていた船が難破した時に見た影と一致した。

その姿は次第に大きくなり、その形を判別できるほど鮮明になった。


ナマズに似ている。

あれがバイカル湖の怪物!

奴を見た瞬間、直感が警鐘を鳴らした。力を惜しんではいけない、と。

私は全気力を注ぎ込むつもりで、心象の水を圧縮し、さらに圧縮した。


そして。

帳から指を突き出して外に出し。

今や家屋ほどに巨大化したそいつに向かって、人差し指を左から右へと、薙いだ。


樽すらも粉砕した水流が。

バイカル湖を切り裂きながら泡を立てる。

生命体ならば到底耐えられないであろう威力により、変異ナマズは真っ二つに両断された。

真っ二つに裂かれたナマズが、深く暗い湖の底へと沈んでいく。


「もう、安らかに眠ってください。長年の友よ」

「ふぅ……」


ナマズが死んだことを確認した途端、体から力が抜けていくのを感じた。知らず知らずのうちに、やはり自分も緊張していたらしい。一度にこれほど多くの気力を使ったのは初めてで、疲労が一気に押し寄せてくる。心象を確かめてみると、このままではそう遠くないうちに気力が底を尽きそうだった。


仕方なく、無인島へと引き返した。


翌日。

俺は砂浜で目を覚ました。


「ぺっ、ぺっ」


寝ている間に口の中に砂が入ったのか、ざらついた。

顔を洗い、首を巡らせて周囲を見渡した。

結局、島で過ごす時間は一週間を満たすことになった。


「起きましたね。体調はどうですか?」

「少し、体が凝ってる以外は大丈夫そうだ。君はどうだ?」

「私は全然問題ありませんよ!」


精霊だから、当然大丈夫なのだろうか。

ウンディーネ自身の体調を聞いたのではなく。

昨日の変異ナマズを殺した後に見せた様子が気になって尋ねたのだが……大丈夫だと言うのなら、これ以上は触れないでおこう。


目を閉じて心象を覗くと、気力は半分ほどしか回復していなかった。

これまでの観察では、今頃は全快しているはずなのだが。

どうやら体の状態によって回復量が変わるらしい。


「ウンディーネ、今日は一日休んでから行こう」

「早く行きたいって言ってたのに、すぐに行かないんですか?」

「昨日みたいに大きなことがあった時は、翌日は休むのが普通だ」


どのみち遅れているんだ。

一日さらに遅れたところで、変わりはない。


「そうですか、では」


ウンディーネの姿が薄くなり、消えていった。

心象を覗き込むと、彼女も水の中で休もうとしているのか、目を閉じて水に浸かっていた。


バイカル湖の覇者をも仕留めたのだ。

いつでも思い立った時に帰れると思うと、砂浜に横たわっている今の瞬間が、まるでリゾート地にでも来たかのように感じられた。同じ場所でも、心の持ちよう一つでこれほどまでに違うものか。


陽に焼かれた砂が温かく、俺は砂で体を覆って目を閉じた。


翌朝早く、無人島を後にした。

今度こそ本当に、二度と戻ってくることはないだろう。


ウンディーネが指し示す方向へと、ひたすら移動した。


「道、合ってるんだよな?」

「もちろんです。私を信じてついてきてください!」


どれほど長く移動しただろうか。太陽が真上にあるのを見ると、少なくとも二、三時間は経ったことが分かった。


ウンディーネはもう少しで行けば着くと言っていたが。

どうやら精霊と人間の時間感覚の違いから生じた誤解だったようだ。


それでも、今日中には着くだろう。

どれだけ遠くまで流されたのか、陸地が影すら見えない。

湖の水しか見えない中で、ウンディーネが今度こそ本当に着くと言った。


すでに数十回は聞かされた言葉なので、もう何も感じなかった。


「あそこですよ。あそこ!」

「ほ、本当か?」

「もちろんです! あそこに人間がたくさん集まって住んでいます」


ウンディーネが目の前の島を指差した。

島を去ってまた別の島か。

ただ通り過ぎる場所かと思っていたのだが……。


こんな場所に人が住んでいるのか。

一体、何者なのだろう。

どこかの漁村でも形成しているのだろうか?

ウンディーネが目を輝かせて俺を見つめた。


「よくやった」

「ふふっ……」


褒められたウンディーネは、嬉しそうに肩を揺らして笑った。


人間と精霊の観点の違いが生んだ出来事。

俺は人が集まっている場所と言うから当然ベネスを想像していたし、ウンディーネは単に人間が集まっているこの場所を考えただけだ。

俺がもう少し詳しく聞くべきだった。

バイカル湖に人が住んでいる場所があるなんて、誰が想像できただろうか。


水賊どもの存在を失念していた俺の落ち度だ。

漁村どころか、間違いなく水賊だ。

いや、奴らも略奪をしない時は漁もするだろうから、どちらも正解としておこう。


せっかくここまで来たのだから確認してみるつもりで、島の内側へと入った。人に見つからないよう、水中に潜った。


何をやらかしているのか知らないが、島の内側に入ると水が濁っている。


おかげで、埠頭の橋の下まで来るまで気づかれることはなかった。

耳を澄ませていると、男たちの話し声が聞こえてきた。


「おい、あいつらはいつ処刑するんだって?」

「さあな。知るかよ。それより酒でも飲みに行こうぜ!」

「酒か? いいな! 今日はお前の奢りだぞ」

「あぁ? この野郎! 前回も奢らせたくせに!」


渦潮から生き残った者がいるようだ。

自分以外にも生存者がいると聞き、妙な気分になった。

俺も無人島であれほど苦労したが、水賊に捕まった連中がどんな過酷な拷問を受けていることか……。

ここの状況がどうなっているか一度確かめ、無理のない範囲で、助け出せるなら助けよう。



島に闇が降りてきた。


外が暗くなったのを確認して、陸へと上がった。水の帳の中に横たわっていたせいか、体が凝っている。腰を反らし、骨盤を左右に振って固まった体をほぐした。


周囲に隠れられそうな場所がないか見渡すと、人間一人分ほどの大きさの樽がちょうど良さそうだったので、その後ろに隠れた。


一日中観察して分かったことだが、ここが酒場のトイレ代わりに利用されているのか、膀胱を空にしに来る連中がいる。彼らを待ち伏せするためだった。


「ウンディーネ、誰か来ないか見張っててくれ」

「はい」


ちょうど隠れていると、誰かが近づいてきた。


コツ、コツ。


「おぉ、うっぷ……飲みすぎたか……いい気分だぜ」


足音が止まった。


ジョボジョボ……。

ぶるるっ。


「一人です。他に誰もいませんよ」


息を殺し、彼が用を足し終えるのを待った。


「うぅ、寒ぃ。また一丁暴れてくるか」


俺は顔を出し、彼が用を終えたのを確認した。そして、戻ろうとする彼に向けて気力を使い、手招きするように水の中へと閉じ込めた。


ゴボゴボ……。

ぶくぶく。


誰かに見られないよう、

急いで彼を俺が隠れている場所まで引き寄せた。


手足を動かして俺が作った水中監獄から逃れようとしていたが、泳ぎの達者な水賊であっても、俺の作った水からは逃げられなかったようだ。バタバタと暴れていたが、やがてぐったりと力なく垂れ下がった。


外に出ていれば殺していただろうが、これから着る服を血で汚したくなかったので、考案した方法がうまくハマった。


万が一、死んだふりをしている可能性もあるので、しばらく待った。死んだと確信が持てた時、水中監獄を解いて彼を地面に下ろした。


「うっ……」


俺は、突如として漂ってきた臭いに鼻を鳴らした。

水の中に閉じ込めていた時は分からなかったが、こうして下ろしてみると。腐った魚の臭いとし尿の臭いが混じった、ひどい悪臭がした。


四方が湖だというのに、体も洗わないのか?

よりによって運悪く、こんな奴を捕まえてしまった。


いや、むしろ好都合かもしれない。

綺麗すぎれば怪しまれる、汚れている方が都合がいい。


だが、奴の服を脱がせてみると。

裏側にまで黄色い汚れがこびりついている。


腕に鳥肌が立った。


いくら何でもこれはない。

俺は彼を湖へと突き落とし、ウンディーネに頼んだ。

ここに戻ってこられないよう、湖の底へと死体を沈めてくれと。

それを二、三度繰り返した末に、ようやく訓練兵の制服を脱ぎ捨て、上下ともに黒い服を借りて着込んだ。


それから帽子を深く被り、人々が集まっている場所へと向かった。


島の繁華街らしき場所へ出ると、人々で賑わっていた。あちこちに罠のようにある泥沼、掃除が行き届かず苔の生えた建物。水賊の本拠地らしく、清潔感など微塵もなかった。


俺は酒場らしき場所を通り過ぎ、食堂に入った。二週間もの間、生魚ばかり食べていたので、まともな食事が切実だった。従業員を呼び、料理を注文した。


遅い時間なのでみんな酒場へ行ったのか、食堂には人がおらず閑散としている。待っていると、注文した料理が運ばれてきた。


俺は給仕が終わるのも待たず、テーブルに置かれたスープを皿ごと手に取った。温め直して持ってきたわけではなかったが、今はむしろその方が都合が良かった。


選り好みなどできる身分ではない。これだけでもありがたいことだ。


頭を反らしてスープを飲み干した。

一週間ぶりに口にする、まともな食事らしい食事。


コンッ。


食べ終えた木の器を置いたが、あまりにも綺麗に食べたので、器の底が見えていた。


「この辺りでは初めて見る顔ですね」


そう話しかけてきた従業員を見て、どんな意図で言ったのか注意深く観察した。

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