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「最近、知り合いとも連絡が途絶えがちで、本音を話せる人もいなかったのですが、エドウィンに出会えてどれほど嬉しいか分かりませんわ」


エレナがしめやかな声で語った。


良く思ってくれるのは嬉しいが、一つ気になることがある。


「出会って間もないのに、私のことを良く見すぎではないか? 悪い人間だったらどうするつもりだ?」


私の言葉に、エレナは小さな微笑みを浮かべて言った。


「精霊に愛されている方が、闇に染まった人間であるはずがありませんもの」


エレナは断定するような口調で語るが、自分自身を一番よく知っている私からすれば、私はそれほど善人ではない。


金が好きで、損をするのが嫌いで、他人を害することに躊躇がない人間が善人だと?


どうやら、精霊やエレナが考える善人の基準は、ゴムのように緩いらしい。


力だけは強くて、世間知らずなお嬢さんのようだが……。私は善人ではないから、あまり信じすぎないでくれと伝えた。


「精霊はその人の魂まで見通せますから、澄んだ人でなければ契約など結びませんわ。間違いありません」


やはり教養のある人は違う。私のような学のない者が場当たり的に対応するのとは違い、彼女は確かな知識を持っている。


「エレナは魔塔で学んだのか? どうしてそんなに詳しいんだ?」

「私も精霊使いですから。ふふっ」

「!!」


同じ精霊使いだと?

彼女の精霊など見たことがないが……。


だが、エレナの言葉を聞いてみれば、魔法使いであるモーリンが気づかなかった私の正体を見抜いたエレナが、単なる魔法使いであるはずがないと考えれば合点がいく。


彼女と共にある精霊が私の存在を教えたのだとしたら、多くの人々の中から私を指名した理由も頷ける。


「私の友人、シルフを紹介しましょう」


エレナの言葉が終わると同時に、初めて見る精霊が姿を現した!


ウンディーネ以外では初めて見る精霊だ。

どこから現れたのかは分からないが、あまりに可愛らしく、思わず手を伸ばしてしまった。しかし、シルフはするりと私の手を避けた。


「シルフがエドウィンに会って照れているようですわ」


エレナの後ろに隠れて、頭だけをひょこっと出している。


「精霊も人間のように性格が異なるのだな」

「ええ、精霊にも魂がありますから。エドウィンの友人も見せていただけますか?」

「姿を見せるにはどうすればいいんだ?」


私の問いに、エレナは教えると言ってシルフを消した。


「自分と繋がっている精霊に魔力をより多く割り当てれば、精霊界にある本体との繋がりが強まり、現身が可能になりますわ」


そこで再び現れたシルフ。

私自身、他人にウンディーネを紹介しようと考えたことがなかったので、精霊を他人に見えるようにできるのかどうかなど知る由もなかった。


「どうする?」

「面白そうですね、私たちもやってみましょう!」

「少し待ってくれ、ウンディーネが姿を見せてくれるそうだ」

「時間はたっぷりありますから、ゆっくりやってみてください」


私はエレナに断りを入れて、心象世界に入った。中央の大地に立ち、ウンディーネにどう気力を割り当てるか悩んだが、そこで問題が生じた。


そもそも私はモーリンやエレナのようにマナを持ったことも、感じたこともない。例えるなら、他人が車にガソリンを入れる中、私一人だけ海水を入れているようなものだ。


ウンディー네に魔力を割り当てて、精霊界にある本体と繋げる?


「ウンディーネ、お前の本体は精霊界に別にあるのか?」

「精霊界? 本体? それ何ですか?」


ウンディーネは精霊界を知らない。

バイカル湖で目覚めたと言っていたから、今目の前にいるのがウンディーネの本体なのかもしれない。

ウンディーネは精霊だが、エレナのシルフとは何かが違うようだ。前世を自覚している私も含めて。


どうやら、一風変わった者同士が出会った格好だ。


もし目の前にいるのがウンディーネの本体で間違いないなら、魔力を割り当てて精霊界にある本体との繋がりを強めるという過程は省略してもいいはずだ。


私がすべきことはあるだろうか? それとも、私にマナがないからいけないのか? だがウンディーネと共に魔法を使う様子を見る限り、必ずしもそうではない気がする。

マナを気力で代用するとすれば、私はウンディーネに「気力を使いたい時はいくらでも使っていい」と言ってある。

話は元に戻った。


「ウンディーネ、お前もシルフのように皆の前に現れてみるか?」

「もう一緒にいるじゃないですか」

「私の言いたいのは、エレナにも見えるようにしてみようということだ」

「あはん。分かりました、えいっ!」


ウンディーネが了解したと気合を入れたが、何が変わったのか私には分からない。


「エドウィンの友人はこんな姿をしていたのね。はじめまして、エレナよ」

「ウンディーネです!」

「エレナ、ウンディーネが見えるのか?」

「ええ、エドウィンに似ているからか、とても可愛いわ」


私には変化が感じられないが、エレナには見えているようだ。


結局、私はマナに代わる気力をウンディーネに十分に与えており、これまでもウンディーネがその気になれば、他人に自分の姿を見せることができたのだ。これまでその必要性を感じなかっただけで。


ところで、こんな場所で話し込んでいていいのだろうか。


「部屋に上がったほうがいいんじゃないか?」


宿屋を丸ごと借り上げたとはいえ、ここには私とエレナ以外に従業員もいる。


私の言葉を聞いたエレナが、いたずらっぽさを多分に含んだ表情で言った。


「どうしたのですか? うふふ、出会って間もないのに、進展が早すぎではありませんか?」

「他の人たちがシルフやウンディーネを見たら、落ち着かないだろうからな」


珍しいものを見れば、もっと見たい、話したいと思うのが人の性だ。むやみに子供たちを他人の見世物にしたくはなかった。


「それなら大丈夫ですよ。他の人たちには見えませんから」

「どういう意味だ?」

「精霊親和力のある人でなければ、シルフやウンディーネを見ることはできませんわ」


エレナの言葉を聞いて周囲をそれとなく見てみると、確かに従業員たちは精霊など存在しないかのように振る舞っていた。もし精霊が見えていたなら、お化けだと叫ぶか、珍しがってチラチラ見ていたはずだ。


「だとしたら、普段はあまり使い道のない技術だな?」

「そんなことはありませんわ。ほら、あの子たち、仲良く遊んでいるでしょう?」


彼女の言う通り、

二人はじゃれ合いながら楽しそうに遊んでいた。

いつから私はこれほど効率ばかりを気にするようになったのか。


精霊たちの姿を見て、真っ先に効率を考えてしまったことを反省した。バイカル湖で世界から隔絶されたように過ごしていたウンディーネにとっては、これ以上ない技術ではないだろうか。


「少ししたら領主城へ行きましょう。エドウィンが犯人を捕まえたも同然なのですから、ロバート領主に正当な要求をすれば褒美をいただけますわ」


褒美という言葉に心が動いた。ベネスを救ったのは自分だと言っても過言ではなかったからだ。


そんな功労者に対し、恩を仇で返すような真似はしないだろう。


一人ならともかく、今は私の隣に税務執行官であるエレナもいる。領主も自分の面目を保つために、知らんぷりはできないはずだ。


「それが良さそうだな」

「何を要求されるおつもりですか?」

「金を受け取るのが一番手っ取り早いと思うが」

「そうですけれど、金では手に入らないものもありますから」


金では手に入らないもの、か……。


私はエレナのその言葉を噛み締めた。


前世では「金で解決できないことがあれば、金が足りないのではないか疑え」という言葉もあったが、この世界でも金は重要とはいえ、それ以上に重要なものを挙げるなら「身分」だった。


私が単なる平民だった時と、魔法使いとして活動している今とでは立ち位置が違い、騎士や領主の威光もまた別格だったからだ。


金で受け取らないのであれば、

他人には与えられず、領主にしか与えられないものを受け取るのが得策だ。


私は腕を組んで考えに耽った。

どのような品を受け取るべきかを。


その時、ふと。

列車の切符が白金貨1枚だったことを思い出した。


貴族や高級官僚は金貨1枚。

それ以外の推薦を持たない者は、

白金貨1枚だったという事実を。


パン屋のトマスや、スラムの乞食でも機関車に乗れるようにはなっていたが、実質的に白金貨1枚というのは、身分による見えない壁が築かれているも同然だった。


「領主から、切符を安く買えるように身分保証書でももらおうか? そうすれば長く役立つだろうし」

「いい考えですけれど、それくらいなら私でもして差し上げられますわ」


なかなかの妙案だと思ったのだが、

エレナが身分保証をしてくれると言う。


私の幸せな悩みは領主城へ着くまで続いたが、

結局、「これだ!」と閃くものは思いつかなかった。

だから、領主に会うまでに思い浮かばなければ、素直に金で受け取ろうと心に決めた。


馬車を降りた私たちは、案内人に従ってある場所へと到着した。華やかな装飾が施されている様子から、応接室のようだった。


「こちらで少々お待ちいただければ、すぐにお迎えに参ります」


エレナと茶を飲みながら話をしていたが、領主から何をもらうか決まったかと尋ねられた。


「特に思いつかないな。普通に金でもらおうと思う」


それから間もなく、

ドアをノックする音が聞こえた。


ベネディクト卿だった。

彼はエレナに格式ある挨拶を済ませると、席に着いた。


「ベネスを救った英雄が来たな。兵士たちから話は聞いたぞ。ネズミを退散させたのは君だそうだな」

「こちらのエレナ様の助けを借りました」


彼女から助言を得たのは事実なので、嘘ではない。


「執行官殿、ベネスの市民に代わって感謝の意を表します」

「帝国の官吏として当然のことをしたまでですわ。私は助言をしただけで、エドウィン魔法使いが多大な寄与をなさいました」


エレナの言葉を聞いたベネディクト卿が、私に向き直って感謝の言葉を伝えてくれた。


「また再会できることを楽しみにしております」


もてなしの準備が整えば迎えが来るとのことで、それまで休んでいてくれと言い残し、彼は応接室を後にした。


宴会場で皿を置いたのが心残りだったが、これは好都合だ。


思いがけないロバート領主との会食。

一介の傭兵に過ぎない私が、ベネスの王も同然の人物と昼食を共にすることになったのだ。


それにベネディクト卿と会ったことで、どのような褒美を受け取るかも決まった。領主と対面する時間が待ち遠しかった。


二時間ほど経っただろうか。

執事のように身なりの整った男が現れ、案内をすると言って先導した。


私たちは彼に従い、甲冑や彫像が陳列された廊下を通り、広い場所へと到着した。


長いテーブルの端には、領主が座っていた。


「領主様、エレナ執行官とその連れの方をお連れいたしました」


椅子に座っている領主が頷くと、

私たちを連れてきた男は下がっていった。


「魔法使いのエドウィンです」

「ご招待いただき、ありがとうございます。ロバート領主様」

「エレナ執行官も久しぶりだな。昨日会うべきだったが、取り込んでおってな。理解してほしい。立っていないで座りたまえ」

「あのような事態でしたから、承知しております」

「急ぎ用意させたので大したものは出せんが、食べてくれ」


領主の勧めで始まった会食。

時間をかけて準備されたわりには、種類はそれほど多くなかった。


宴会の料理が華やかさに重点を置いていたとするなら、

今は食事本来の基本に忠実な、という印象だ。


パンを一つ手に取り、ゆっくりと引くと、生地の層に沿って綺麗に裂けた。

口に運ぶと、あの無骨な黒パンとは違い、柔らかく溶けるように消えていった。


心の中で感動しながら食べていると、ロバート領主が昨日の出来事に触れ、本題を切り出した。


「エレナ執行官と魔法使いの活躍により、大きな被害は防ぐことができた。ベネディクト卿から聞くに魔法使いの助けが大きかったとのことだが、何か望むものはあるか? 特になければ、ベネスの魔法顧問として雇用したいと考えておるのだが、君の考えはどうかな?」

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