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君がいたから僕がいる  作者: 茶伝


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第四章 テスト明け

 中間試験最後の科目の終了を告げるチャイムが校内に鳴り響き、それと同時に校内の緊迫した空気は一気に緩まった。

 この前まではテストの回収時間も次のテストのことを考えてなのか、緊迫した空気はあった。だが今は違う。

 それは、今回収されている科目が中間試験最後の科目だからだ。


 これまでならば次の科目のことを考える必要があったが今日はその必要がない。だから皆、楽しそうにしていた。

 確かに気持ちが楽になるということは今までの自分もわかった。だが、時間ができたからどこかに遊びに行こう、ということはよくわからなかった。


 しかし、今日の僕はその気持ちが少し理解できたような気がする。

 それは、放課後の予定を聞かれていたからだろう。


「テストが終わったからって、羽目は外しすぎるなよ~~」


 終礼が終わり、生徒たちがクラスから続々と出ていくとき、担任はそう言った。


「「はいは~い」」


 クラスの中でやんちゃなグループは担任のその言葉に返事をしながら出ていく。

 いつもの僕ならば、最終日はすぐに帰宅していたのが、今日の僕は違った。


 教室に残り、本を読みながら話しかけられるのを待っていた。


「ごめんごめん。待った?」


「いや。それより、人気者の澪さんは大変だな」


「まあねぇ。いろんなところから遊びに誘われたよ」


 彼女は笑いながらそう言った。

 だがそれは事実なのだろう。終礼が追わった途端、大勢に囲われていた。

 それを見た僕はその人たちに申し訳ないことをしたと感じた。そして、同時に優越感も感じていた。


 僕は後者の感情からは目をそらしていた。


「よし。じゃあまずはどこか食べに行こう!」


「場所は任せるよ」


「任せて。いいとこ知ってるから!」


 彼女は自信満々で僕のことを案内し始めた。


 *


 ついた場所はずいぶんと質素なところだった。

 彼女のような、学校で人気者の人が来るような場所には感じられない。


「へい、マスター」


 彼女は扉を開けると大きな声でそう叫ぶ。

 すると奥のほうから女性が出てきた。

 その人は金髪だったが、顔のパーツが澪さんに似ていた。


「誰かと思えば澪ちゃんか。それよりも、連れがいるのは珍しいね」


 その女性はそう言いながら僕のことをまじまじと見てきた。


「この人はクラスメイトの春紀くん。勉強を教えてもらってるんだ」


「澪が勉強を!いやぁ、珍しいこともあるんだねぇ。ああ、席はお好きに。注文できたら読んでねぇ~」


 店長はそう言い残して、また奥のほうに消えていった。


「ここでいい?」


「大丈夫」


 彼女はテーブル席に座ると、慣れた手つきでメニューを開く。

 その慣れた手つきと、店長らしき人との親しさから、僕は疑問を聞く。


「澪さんって、ここの常連なの?」


「いや、別に。単に店長が従姉妹ってだけ」


 従妹といわれると、顔が似ていることや、やけに仲がよさそうなことにも納得がいった。


 メニューには幅広いジャンルのものがあった。中華、和食、洋食と揃っており、知らない名前のものもあった。


「凄いなここ」


 メニュー表を見て僕は思わずそんなことを声に出した。


「なかなかすごい店でしょ。あの人は何でも作れるからね。まあ、そのせいで迷走してる感じあるけど…」


 それについては彼女の通りだと思った。

 幅広いジャンルを手掛けるより、絶対に絞ったほうがいいと思った。


「オススメって何かある?」


「う〜ん、春紀くんがどれだけ食べたいのかによるかな?」


「この前の学食位くらいがいいな」


「ならパスタ類かな」


 そう言われてパスタ類の項目を見る。

 そこにはよく知る名前もあれば、知らない名前もあった。

 なので僕は知っている名前のものを注文する。


「僕は決まった。ミートパスタにする」


「なら注文してくる」


 そう言って店長はカウンターの奥に消えていく。

 そこに入っていいのか、と思ったが、従姉妹なら大丈夫だろうと勝手に納得した。


 しばらくすると彼女は席に戻ってきた。


「頼んどいたよ。多分、十分くらいでできるって」


「じゃあ時間もあるし自己採点でもするか。早く終わる地理にしよう」


「自己採点とかしたことないけど、やってみるか」


 僕たちは食事が届くまで、テストの自己採点をしていた。


 *


「お二方~、お待たせ~」


 彼女が言っていた通り、料理は十分ほどでできた。

 その間にできたのは社会の自己採点くらいだった。ただ、彼女の地理は想像よりも出来栄えがよく、この調子ならば他の科目も期待できた。


 届いた食事は見た目が美しく、いい匂いもする。

 それを見た僕は食欲を刺激された。


「んっ、美味しいな」


 普段喋る時に話すことはないのだが、思わず声に出る。


「いいでしょ、ここ」


 彼女もそう言いながら食べ始めた。


 *


「ご馳走様でした。美味しかったです」


「今日もおいしかった」


「お粗末様。澪も、彼氏さんもまた来てね」


「彼氏じゃない!」


「んっ?そうなの?」


 そう言って僕のほうを見てくる。


「はい。僕たちはなんというか、生徒と教師みたいな感じです」


「ん〜〜、本当?」


 そう言って僕の顔を覗き飲んでくる。

 綺麗な人にまじまじと顔を見られて恥ずかしくなった僕は顔を逸らしそうになったが、なんとか耐える。


「本当です」


「まっ、関係は何でもいいや。また来てね」


「はい。また来ます」


 僕は会計を終わらせて先に外に出る。

 彼女は店長と話があるのか、少し店内に残っていた。


 *


「お待たせ〜」


 しばらくすると彼女はそういいながら出てきた。


「ありがとう。いい店を知れたよ」


「また来てあげて。じゃあ次は、ゲーセン行くよ」


「駅の近くにあるやつ?」


「そそ。レッツゴー!」


 彼女は行き先を言うと、手を挙げて走っていく。

 僕も置いていかれないように彼女を追っていった。


 *


 ゲームセンターという場所に僕はこの日、初めて足を踏み入れた。

 クレーンゲームがたくさん置かれている場所もあれば、メダルゲームの場所もあり、百円でできるゲーム機が置かれている場所もある。

 そのどの場所も明るく、店内には大きな音で曲が流れていた。


「ゲーセンは初めて?」


「初めて。遠目で見るくらいしかないな」


「よし。なら私が遊び方を教えてあげる」


 そう言って彼女は初めにクレーンゲームの場所へ向かった。


「よし、これにしよう」


 彼女が触ったものはぬいぐるみの台。

 ぱっと見た感じは意外と取れやすそうに見えた。

 だが実際にやってみるとそんなことはなかったようだ。


「ん〜〜!難しい!」


 彼女は何度か挑戦したが、ぬいぐるみは少し動くだけで取れそうな様子はない。


「僕がやってみてもいい?」


「いいよ」


 その様子を横から見ていた僕は、ぬいぐるみのどこをどう持てばいいのかがなんとなくわかった。

 その思った場所にアームを持っていくには多少苦戦したが、考えた通りの場所を掴むことができると、直ぐにぬいぐるみを取ることができた。

 彼女よりも苦戦せずに取ったせいか、僕のことをジト目で見ていた。


「……実はやったことあるでしょ」


「ないよ」


「うそだぁ!初めてならそんな簡単に取れないよ!」


「澪さんのやってるのを見て、どうやればいいかを考えたんだよ」


「本当?」


「本当だよ」


「ん〜〜〜?」


 彼女は僕の顔を覗き込んでくる。僕のことを疑っているようだったが、その顔がかわいく、思わず目をそらしてしまう。


「あ〜〜、やっぱりやましいことあるんでしょ!」


「いや、ん、もうこれあげるから許して」


 僕は見られるのが恥ずかしくて、間にぬいぐるみを挟んでそれを渡す。

 だが彼女はそれを拒んだ。


「あげるじゃなくて、おそろにしよ」


「おそろ?」


「お揃い!さっき取ったみたいにもう一個取ってくれたら二人とも同じ物を持ってることになるでしょ」


「ああ、そういうこと」


「そういうこと。早く取って」


「はいはい」


 僕は言われるがまま、クレーンゲームを始めて同じぬいぐるみを取った。

 先ほどで要領が分かったのか、さっきよりもスムーズに取れて、また彼女に初めてじゃないでしょ、と疑われたが、今日が初めてなのには変わりがない。


 クレーンゲームを楽しんだ後、僕たちはメダルゲームをした。

 彼女はメダルゲームを純粋に楽しんでいたが、僕は違った。多分、性格のせいだろう。

 純粋に楽しむと言うより、僕はどうすれば効率よくメダルを増やすことができるのかを考え、ゲームを楽しむと言うより、メダルを増やすことを楽しんでいた。

 そのせいで彼女がメダルが少なくなっても、僕の手元には無数のメダルがあり、終わるタイミングがわからなくなった。

 最終的にはメダルバンクと言う存在を知っていた彼女のおかげで終わることができた。


 次は俗に言う音ゲーで遊んだ。

 僕は普段から音楽を聴くことはないため、実装されている曲はあまりわからかった。

 だが彼女は詳しいようで、彼女の好きな曲をどんどんとしていった。

 僕は音ゲーはとことん下手くそだったが、彼女は高難易度を卒なくこなしていて、得意なことがわかった。

 そして、音ゲーを終わった時には空はだんだんと暗くなっていた。


「楽しめた?」


「新鮮だったね。こんなにゲームをしたことなかったから」


「ならよかった」


 僕が下手くそだったのを見て楽しめたのかを聞いてきたが、新鮮で楽しめた。


 辺りが暗くなってきたため、僕は帰路につこうとした。

 そんなとき、彼女が僕の手を引いた。


「こっち!最後に撮ろう!」


 そう言って連れて行かれた場所はプリクラ。

 普段から写真を撮ったりしない僕からすれば縁のない場所だ。


「なんか、適当にポーズとって」


 彼女は慣れた手つきで操作しながらそう言ってくる。

 だが僕はそう言われてもよくわからない無難にピースをする。


 現像された写真を見た彼女は納得いかなかったのかもう一度撮る準備をする。


「私に合わせて」


 次は彼女のポーズをミラーのようにして写真を取る。


「これでしよっか」


 その写真を見た彼女は納得がいったのか、その写真を選ぶ。

 そしてその写真の現物とデータを僕に渡してくれた。


「今日の思い出ね」


「そうだね」


 僕はその写真を見て、これまでの僕ならば絶対やらなかったことをしている僕に驚いていた。

 同時に、一緒に写真を撮れたことを喜んだ。


 *


 プリクラを撮り終わり、駅に着いたときには既に空は暗くなっていた。


「今日は楽しかったね」


「僕も楽しかった。今日はありがとう」


「またどっか、遊びに行こう」


「いいね。また誘って」


「うん。また明日」


「また明日」


 彼女は笑顔で手を振りながらホームに消えていく。


 今日の電車はいつも乗っているものよりも数本遅いもの。

 帰宅ラッシュの時間よりの少し遅い時間のため、座る場所は十分にある。

 僕はそこに座りながら、もらった写真を見返していた。


 電車の窓に映る自分の顔が、どこか浮ついて見えた。

 こんな気持ちを抱く日が来るなんて、昔の僕なら想像もしなかった。


 ───────────────────


 初めて勉強を教えてもらった中間の最終日、私から遊びに誘ったのは覚えてる?

 いや、覚えてなかったらパスワードが解けないから、覚えてるか。


 あの日はね、鮮明に覚えてる。

 春紀と初めて遊びに行った日だからかな?


 ご飯の場所、覚えてるかな?私の従妹が経営してた場所。

 あそこね、今、感染症のせいでだいぶ経営が厳しいみたい。だからさ、こっちに帰ってきたときにでもまた行ってあげて。

 春紀のこと、だいぶ気に入ってるからさ。行ってあげたら喜ぶと思う。


 春紀はクレーンゲームがとてもうまかったよね。

 クレーンゲームが初めて言ってたけど あれ本当なの?

 今でも嘘だと思ってるよ。

 クレーンゲームは初めてじゃ、あんなうまくいかないもん。


 メダルゲームじゃ、春紀はいかにどう効率よく稼ぐか、損益計算をしながらゲームをしてたね。はっきり言って、ちょっとずれてたよ。

 でもね、春紀の本気の顔を見てたらそんなこと言えなかった。


 最後に撮ったプリはまだ持ってる?

 今の待ち受けがそれね。

 ないならさ、ここからデータ取って、なくさないようにしといて。


 *


 少し体調が戻り、元気がある日のうちにどんどんと思い出を書き残していく。

 体調を崩せば、こんなことをする余裕もないだろうからだ。

 でも、これが日の目を見るが来ないことを祈っている。


 だってそれは『私がこの世界からいなくなった』ということだから。


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