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君がいたから僕がいる  作者: 茶伝


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第三章 迫りくる契約期限

 中間試験が始まり、この期間中は学校が終わるのが早くなった。

 多くの学生は一つ一つのテストを終わるごとに一喜一憂し、明日のテストよりも今日のテストが終わったことに喜んでいた。


 だけど僕は違う。

 今回も首席を取る必要があるため、一つのテストが終わったらすぐに次の勉強をし、それを繰り返していた。

 テスト期間中は部活動が休止になっているが、学校が閉まるのはいつもと同じ18時。

 テストが早く終わったとしても、先生たちはその時間まで仕事があるためだ。

 多くの生徒はその日のテストが終わるとすぐに帰宅したり、どこかへ遊びに行ったりしていたが、僕はいつも通り、図書室で勉強するつもりだった。


 ただ、テスト期間中に母さんに弁当を作らせるのは悪いと思い、この期間中は学食にしていた。

 その日最後のテストを終え、皆がカバンを手に取り、帰っていく中、僕は食堂へ向かおうとしていた。


 そんなとき、澪さんから肩を叩かれた。


「春紀くんって、今日も図書室で勉強するの?」


「そうだよ。いつも通り18時までね」


「私も一緒にいいかな?」


 いつもはスマホでこういったやり取りをしている。そのせいか、こうして顔を合わせてこのやり取りをしていると、鼓動が速くなっていることがわかった。


「わかった。じゃあまた図書室で」


 顔にそのことが出てないか心配になりながらも、僕はそう言ってその場を後にしようとした。

 だが彼女は僕のとこを呼び止めてきた。


「ちょっと。春紀くんはご飯ってどうするの?」


「僕は学食にするつもり」


「なら一緒に食べない?どうせ後から一緒になるんだしさ」


 それを聞いた僕の鼓動はもっと速くなる。

 僕はそれをどうにか制御しようとするが、制御できない。

 窓の外から吹き込んだ冷たい風の中で、胸の奥だけが不自然にあたたかかった。


「……うん、わかった」


 自分でも驚くくらい、声がわずかに上ずっていた。

 彼女はそんなことに気づかないまま、笑顔で僕の手に取る。

 昼の光が斜めに差し込み、彼女の黒い髪を金色に透かしていた。


 *


「春紀くんって何食べるの?」


「僕は基本的に弁当だから食堂には行かないけど、食べるとしたらいつも日替わりだな」


「日替わりか〜。なら私もそうするか」


 食堂前の券売機を前にそんな会話をし、僕は一足先に日替わりを押す。

 そして彼女も日替わりを押していた。


 食券はお盆の上に乗せてカウンターまで持っていくと、食堂の人が何を注文したのかを確認してくれる。

 そして、それを元に食事を用意いてくれる。


 流石にすぐに出来ることはないので、僕は先に席を取っておく。

 席を取ると言っても、生徒はほとんどいないため、机は幾らでも空いている。


 僕と彼女の席はテーブルを挟んで向き合う形。

 勉強を教えるときは横に座っていたため、顔を直視するようなことはほとんどなかった。

 だが今は向き合っているため、自然と彼女の顔が視界に入った。


 スマホや本を見て視界を逸らそうとも考えたが、それは失礼だろうと思い、僕はどうにか席を立つ口実を探した。


「僕は水を入れてくるけど、澪さんはお茶か水、どっちがいい?」


「私も取りに行くよ」


「ついでだからいいよ」


「そう?なら冷たい麦茶で」


「わかった」


 席を立った僕に数カ所設置されている給茶機の一つに向かい、横に置かれているコップを二つ手に取る。

 飲み物が出てくる場所にコップを一つおき、先に麦茶のボタンを押す。

 麦茶の落ちる音は、コップに溜まっている量が多くなる事に小さくなっていく。

 水もと同じように、たまっている量が多くなると音は小さくなっていった。


 その音が小さくなっていくごとに、僕がここにいる時間が減っていくことがわかる。

 二つのコップに飲み物が溜まり、席に戻ったときには食事が完成していた。


 僕は飲み物をテーブルに置くと、席に着くことなく、食事を取りにに行く。

 食事ができるタイミングは同じ食事だから、ほぼ同じ。

 彼女も席を立って一緒に食事を取りに行った。


 席に戻ると僕は静かにするように食事を始める。

 彼女は手を合わせて、「いただきます」と言って食事を始めた。

 丁寧は人だなぁ、と思いながらも僕は黙々と食事をする。

 僕は食事中は話をしないため、何も話すことはなかった。

 それに合わせてなのか、彼女も一言も話すことはなかった。

 ただ、彼女の食べ方を見て、きれいに食べる人だなぁ、という感想を持った。


 *


「おいしかったね」


「久しぶりに食べるといいですね」


 僕達は図書室に向かう道中、そんなことを話していた。

 だがそれ以上に何を話せばいいのかわからず、しばらく沈黙が続く。

 それが気まずくなった僕は、今日のテストのことを聞く。


「そういえば、今日のテストはどうだった?」


「テストは……、まぁ、まぁまぁかな。でもいつもよりは手応えがあったよ」


「手応えがあったなら、大丈夫だと思うよ」


「そうかな?ならいいんだけど」


「まあ、終わったことを気にしても仕方ないよ。明日の対策をしたほうがいい」


「そうだね。うん、絶対そうだ」


 そんなことを話している間に、いつも間にか図書室についていた。


 図書室での勉強は後半になるにつれて、最初とは少し違った形になっていた。

 初めは僕が基礎を教えて、彼女が問題を解いて、わからない場所を僕に聞くという形だったが、もう基礎はほとんど教えたので、ひたすら問題を解く形になっていた。そのため僕も自分のやりたい勉強をできるようになっていた。


 彼女は明日のテストの勉強ひたすらしていたが、僕は明日の勉強は早く終わっていた。

 普段なら、休憩がてら読書をしたりしていたが、彼女の邪魔になる可能性を考え、そんなことはせずに明後日の勉強を始めた。


 *


 テストの放課後、一緒に残りということは結局、テスト最終日前日まで続いた。

 その日は普段ならば僕は、早めに明日の勉強を終えて早めに家に帰り、休息を取っていた。

 だが僕は彼女が図書室に残っているからなのか、彼女が帰るまで結局一緒にいた。


 ──……これが最後。


 僕は駅に彼女と向かっているときにそんなことを考えていた。

 中間試験の勉強を教えてほしいと言われたこのは、今日を最後に終わることになる。


 ──名残惜しい。悲しい。


 そんな感情が湧いている自分自身に僕は心底嫌になる。

 まるで、この関係がもっと続いてほしい、終わってほしくない、と心から思っているようだから。


 この関係はあくまでも契約。彼女が赤点を回避するための契約なのにだ。


「春紀くん。明日の放課後って時間ある?」


 そんなことを考えている彼女が声をかけてくる。

 ただ、自己嫌悪していた僕は何を聞かれたのかを聞いていなかった。

 それよりも自分が嫌そうな顔をしていないのかが心配になった。


「ごめん。考え事してて聞いてなかった。なんて?」


 彼女は少し怒っているように感じられた。

 話を聞いていなかったことに怒っているのだろうか?


「……明日の放課後!時間あるの!?」


 放課後の予定なんてものを聞かれることがなかった僕は少し明日の予定を考える。

 いつもはテスト最終日はテストの自己採点をするために図書室に行くか家に帰っていた。


 だが僕はそんなことは言わなかった。

 それが何故だったのかはよくわからない。


「明日の放課後は暇だよ。何も予定はないね」


「ならさ、どっか遊びに行かない?」


「遊びにか。いいけど、僕はそういうことには疎いよ」


「大丈夫。私が詳しいから。じゃあ明日の放課後は予定空けといてね」


 彼女はそう言って駅のホームへ消えていく。


 それを見送って僕もホームへ向かい、電車に乗る。

 椅子に座れた僕は、普段ならば本を読んでいたが、この日はスマホで学校周辺の娯楽施設を調べる。

画面を眺めながら、自分でも気づかないうちに口元が少し緩んでいるのを、電車の窓に映った自分で見てしまった。



 ───────────────────


 勉強を初めて教えてもらってた時のことを覚えてるかな?

 春紀は終わりが近づくにつれて、何処か寂しそうしてたよ。自覚があったのかはわからないけど。

 もしかして、私と帰れなくなるのが寂しかったのかな?そうだったなら嬉しいな。


 でも春紀のことだから、そういう関係だ、って割り切ってたんだろうね。絶対に一定のラインからは越えないようにしてた。

 私のことを勉強を教える相手だというそのラインを超えるようなことは絶対になかった。

 だからいつも私からそのラインを超えるようにしてた。


 因みに、これって結構勇気のいることなんだよ?

 春紀からしてくれたことはなかったからわからないか。けどいつかはそれをしないといけない時が来るはず。

 その時にでも私の勇気を褒め称えて。

 私も春紀のことをよくやった、って褒めてあげるからさ。


 ラインを超えたのは、あれかな。初めて一緒に学食を食べたこと。それと、初めて遊びに誘ったこと。そういうの、全部私だったでしょ?


 まぁそういったことに勇気がいるのは、春紀のことを少しずつ意識し始めてたからなのかも。

 他の男友達にはそんなことなかったもん。


 春紀は特別な人。

 話してから一月も経ってなかったけど、あの時からそう感じてた。


 あの高校二年の中間試験は忘れられない思い出だよ。

 春紀に初めて話しかけたきっかけだし、そのおかげで私と春紀の今の関係があるんだから。


 私のことを歯牙にもかけない春紀を振り向かせてやろうと思ってたのに、この期間でなんでか逆に私が春紀のことを意識し始めた。

 でもね、この関係が崩れるのが怖い気持ちから前に進めなかった。

 今みたいな関係が心地よかったんだ。


 それは多分、春紀も、でしょ?


 *


 春紀のことを試すような文章を私は書いていく。

 お医者さんにスマホで何かを打っているとは楽しそうにしている、と言われた。

 そりゃ、嬉しいでしょ。

 春紀のために何かできているんだから。


 でも私は身体が少しずつおかしくなっていることには気づいていた。

 医者にはもしかしたら回復するかも、とも言われたけど、一応この文章を残しておくことにした。

 万が一は大事だからだ。


 他にも、スマホの待ち受けを春紀と始めて遊びに行ったときの写真にしておいた。

 パスワードはその日の日付にしておいた。


 春紀ならわかるはずだと思い、私はパスワードを変更した。

 顔認証も効かなくなってきたので、それも無効化しておいたし、指紋認証も消しておいた。

 ただね、そういった機能を消してから感じたことがある。

 あれって便利な機能だね。消してからいつも頼ってたことがよくわかった。


 春紀のために何かをしている今が楽しい。

 病室で孤独な時間を過ごしているが、春紀のために何かできている今はとても充実した時間となってることがよくわかった。

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