4章 憧れの先
扉の先からブンブンと、木剣が風を裂く音が聞こえてくる。会議の前に素振りをしようと先生の家に寄ってみたが、誰かいるみたいだ。
「誰だろう?」
扉を開けると、グロスさんが素振りをしていた。僕はそっと扉を閉めてグロスさんの邪魔にならない用に見学することにした。
グロスさんは先生が村に来る前に教えていた生徒の一人だと言っていた。
なかなか剣の筋が良く、何年かすれば先生より強くなるのではないかととも言っていた。確かに素振りを見るからに鋭く重く感じる。僕の剣にはない力強さだった。しばらく見ているとグロスさんは剣を腰に戻して一礼した。
「グロスさん」
僕の声に少し驚いた様子でグロスさんは振り向いた。
「なんだオルか。いつからいたんだ?」
「ついさっきです。グロスさんはどうして此処に?」
グロスさんは額の汗を拭いながら質問に答えてくれた。
「毎日の日課でね。先生に相談したら此処を使っていいって言われて、この場所はオルが練習している場所なんだろ?」
「はい。何もない時は剣とか魔法とか習ってます」
グロスさんは入口の横にかけてあったタオルを手に取る。
「先生って相変わらずなんでもできるな。凄いよな」
何でもできる?どういう事だろう?
「ギルドでも、魔法と剣もどっちも教えられる人って滅多にいないんだぜ」
胸を貼って先生の事を誇らしげに語るグロスさん。
「そうなんですか?てっきりみんなできるものかと」
グロスさんは大きな声で笑った。
「両方できるのはそれなりにいるが先生のように教えれるのは他に二、三人ってくらいだよ」
先生ってそんなに凄かったのか。
「俺達の先生はそんなに凄いだぜ」
知らなかったな。そんな先生に習っていたなんて。
「あ、そろそろ時間かな。練習の邪魔してしまったか」
僕は首を振った。
「いえ、お話聞けて良かったです」
僕達は訓練場を後にして集会場に向かった。
僕達は、情報を整理するには先生の家では狭いだろうという話になり村で一番大きい集会場で会議をするようになった。
集会場に着くと、先生たちは話し合いを始めていた。グロスさんは壁際に立ち僕は端の方に座った。
先生は当初、冒険者を中心に村人達は道案内などの補助と考えていたが、手紙を見てもう一度考え始めた。
グロスさんが来て2日後、村にメンバーが集まった。冒険者がグロスさん含め五名、この村からは僕達とハンター二人の四人、川向こうのバッサルと東のデルンからはそれぞれ三人、合計で十五人集まった。想定していた人数より二,三割少ない。どうしても必要なら僕たちの村からは剣術の生徒を出すことも可能だが、先生は今の事態が分からない為あまり乗り気ではなかった。
先生の指揮の元、それぞれの村に冒険者が二人づつ着いていき調べる事に決まった。メンバーの一人が調べた内容を朝に届けてもらえる手筈になっている。
一つ良かった事は、冒険者は全員魔力を感じる事ができるメンバーだった。きっとギルド長の気遣いだろうと先生は言っていた。
「ヴィンセントさんどう思いますか?」
冒険者の一人、銀の短髪が印象的なダリルさんが先生に話しかける。
調べていくとデルンの方と南の森からは、魔力の痕跡が全くでてこなかった。その逆にバッサル側からは魔力の痕跡がでてきたのだ。正確にいうとバッサルとこの村リッカルの間からはいくつか魔力の痕跡がでてきていた。
「そうですね。こう考えるとデルンの村の方の調査は打ち切って良さそうですね」
地図を見ていた先生は顔上げた。
「ダリル、グロス確認ですが、こことここそれとここが少し魔力が濃かったんですよね?」
グロスさんが、机に寄ってきて場所を確認する。
「あぁ、魔物はいなかったが、他のところよりも濃かったのは確かだぜ先生」
「私の方は川くらいからこちらの方に少しづつ濃くなっていく気がしました」
川付近から北の先の草原をダリルさんは指した。先生は一回頷いた。
「この先の何処かに魔力の元があると、考えていいかも知れませんね。ここだと街道から離れていますし、ひと目につきにくい。村長、この周辺は人は行きますか?」
先生の横に座っていた村長が、首を振った。
「そこの草原は野生の動物がたくさんいるんじゃよ。危険な動物もいるから滅多な事がないと人はいかないよ」
「決まりましたね。危険な可能性もありますし人数が集まり次第、ここの調査をしましょう」
「先生ちょっと良いか?」
そこでグロスさんが手を上げた。
「グロス、なんですか?」
「危険な可能性があるなら、もう出発したほうが良くないか?」
グロスさんの言葉に、椅子に座っているスクさんとレコルさんも頷いた。
「グロスの言っている意味も分かりますが、少しづつ範囲を絞っていった方が危険も減ると思います。まだ魔物がいるのかどうかもわかりませんし、焦らずいった方がいいと判断しました」
「悠長な事を言っていいのか?」
先生は諭すようにグロスさんに話した。
「グロス、あなたは昔から気が早すぎます。もう少し慎重にしてください」
何か言おうとしたグロスさんをダリルさんが静止した。
「ヴィンセントさんの言う通りです。グロス、みんなが集まるまで待っているんですよ!決して一人でいったら駄目ですよ」
グロスさんは不満そうにしながらその先の会議には何も言わなかった。
会議が終わった次の日、その日は先生の家に泊まって朝方、扉の叩く音で目が覚めた。入口に向かうと、冒険者の一人が慌てた様子で先生に何かを説明してしていた。
「先生?」
僕の声で先生は振り返った。
「オル起きましたか。少し厄介なことになりました」
どうしたのだろうか?魔物が襲って来たのだろうか?
「グロスが、一人で行ってしまったようです」
先生は相変わらず悠長に物事を考えるな。魔物は早く討伐したほうが良いに決まっている。ダリルだってそうだ。あの言い方、俺が弱いみたいにいいやがって、嫌になる。
俺だって一人でもやれる。先生みたいになんでもやれるはずだ。
周りの景色の流れが急にゆっくりになってきた。
「お前どうした?」
馬がなにか怖がっているように思える。
「まぁ、仕方ないか」
さっき厩から急に乗ってきた馬だ。何も訓練を受けていないだろうから、何かを感じとって怖がってしまったのかもしれない。
「お前は此処までで、大丈夫だ」
降りた馬は逃げるように、村の方に走っていく。
剣を構え用心しながら進んでいく。すると少しづつ辺りが暗くなってきた。
なにか、ありそうだ。魔力を探って見ると、一箇所から中心に魔力が濃くなっているのが分かった。
「隠す気がないのか、自然のものか」
魔力探知は得意な方ではない俺が、ここまで分かりやすいのであればどちらかだろう。
少しずつ少しずつ近づく、すると急に周りが明るくなった。
「おや?もうこんな所に人が来ましたか?」
遠くから妙に明るい声が聞こえてきた。
「この場所は、人が来ないと聞いていたのですが?」
目が慣れてくると、ロープを身にまとった男と鎧のような硬い鱗を持った獣が立っていた。
「まぁ、いいでしょ。行きなさい」
ロープの男が獣に命令すると、獣が耳が潰れるような声を出して襲いかかってきた。ゆっくりと剣を構える。
「なめられたもんだな、すぐに避けられる」
まっすぐ走ってきた獣を横に飛んで避けた。しかし鈍器に叩かれたような衝撃がすぐさま襲いかかってきた。
直ぐに立とうとしたが体が思う用に動かない。目の前の獣の尻尾には岩のような物がついていた。さっきはそれで叩かれたのだろう。
「まだまだ、やれ・・・」
眼の前が赤く染まっていく。
「おやおや、いい実験ができそうだな」
赤く染まったロープの男が近づいてきた。
読んでいただきありがとうございます。
謎の答えが解って、気を焦ってしまう兄弟子でグロス
次回で最終回になります。楽しんでもらえると嬉しいです
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