第2話 23
――星竜の巫女と祝福の国。
それは主人公である少女が、王都にある学園に入学する場面から物語が始まる。
庶民の出である為、貴族ばかりの学園に通うことに気後れする少女。
けれど、支援してくれる『おじ様』の為にもしっかりと学んで、彼の役に立てる人物になろうと健気に思うのだ。
――だが……
それまで少女が学問所で学んでいた授業に加え、学園では貴族として必須の礼儀作法や経営学、魔道や武道などの少女には初めての課程もあって……
貴族ならば幼い頃から学んでいるそれらは、しかし少女にとって初めて受ける授業ばかりで、基礎的なことすら知らずにいた少女は自分の不甲斐なさに打ちひしがれる。
そんな彼女を見かねた学園長が、彼女に救いの手を差し伸べる。
各課程の成績上位者に、彼女の補助を頼んだのだ。
そうして出会う四人の貴公子。
彼らに助けられながら少女は己を磨き上げ――やがて学園生活を通して、この国を取り巻く歪みに気づいていく……
わたくしが『ほしみこ』のメインストーリーを説明し終えると、リオールはわたくしを見てうなずいた。
「……ふむ。察するに、その紹介される貴公子の中に、エリオット・ダルギニアがいるのか」
「ええ。彼は魔道学の講師ね。彼と行動すると魔道系のステータスが上がるのよ」
「そのステータスというのは、僕らが知っている<能力検査>の儀式で知らされるものと同様のものなのか?」
彼の問いに、わたくしは首を横に振ったわ。
<能力検査>の儀式を知っていたら、そう思うわよね。
「――あの儀式でわかるのは肉体機能と魔道器官の優劣三段階評価と、所持している異能でしょう?
ゲームの中ではより詳細に――貴公子達から学んでいる能力が数値化されて表示されていたわ」
<能力検査>の儀式を受ける事が決まって、わたくしは先生達にその概要を教わったわ。
ステータスと聞いて、内心、前世で後輩に読まされた小説みたいって、ちょっぴりわくわくしたのよね。
ほら、能力が数値化されるなら、より鍛錬もしやすくなるでしょう?
でも、返ってきたのは、わたくしがリオールに告げたのと同様のもので……
ローザが言うには、わたくしが言うようなステータスの数値化をするには、この星の霊脈の演算性能が足りないそうよ。
――最低でも二十兆人。
それだけの人口の魔道器官が織りなす霊脈があれば、数値化されたステータスを知る<能力検査>を喚起することもできるそうだけど、<世界樹>の演算炉に儀式の大半を頼っているこの世界では、そこまでの魔法は喚起できないそうよ。
……逆に言えば、条件さえ満たせば数値化も可能ということで。
ローザの言葉にマツリ先生やディアス先生もうなずいていたから、ふたりは実際にそういう魔法を見たことがあるのかもしれない。
一方、そうとは知らないリオールはと言えば……
「――共通の言葉でありながら、君の――前世の記憶では、異なる内容となっているのは、なんとなく面白いな……」
と、アゴに手を当てて呟いていた。それから思い出したように顔をあげて。
「おっとすまない。話の腰を折ってしまったな。
つまり聖女は学園でエリオットから、魔道を学ぶ可能性があるというわけか」
わたくしはリオールにうなずきを返す。
「――四人の貴公子と言ったな? 他の者の名前は?」
問われて、わたくしはステータスに表示される順に、それに関連する貴公子達の名前を挙げていく。
その順番になったのは、あたしが『ほしみこ』の中で貴公子達よりステータス挙げに熱中していたから。
どうしてもあたしの中では、貴公子=◯◯のステータスを上げる人というイメージになっているのよ。
――ダニエル・マクミラン。
マクミラン騎士団長の嫡子。
幼い頃から父親に鍛えられていて、その剣術や兵騎の腕は現役の騎士に匹敵すると言われている。
騎士らしく義に厚い人物で、主人公が庶民の出ということで孤立していたのを見かねて、手を差し伸べてくれた。
彼と行動すると、武道関連のステータスが上昇する。
――オーウェン・ロムレス。
ロムレス公爵嫡男。
現在のロムレス公爵の孫で、資質がないとされた父に代わり、幼い頃から政治や領地運営などの貴族に必須とされる知識を祖父から叩き込まれている。
その反動なのか、学園では遊び人のような態度を取っているが、領での生活を通して庶民への偏見がなく、主人公とも真っ先に打ち解ける人物。
彼と行動すると、経営学関連のステータスが上昇する。
「……騎士団長の息子にロムレス家の次期跡取り、それに加えて鉄道王のひ孫にして天才魔道士のエリオット、か……およそ兄上の側近候補が揃ってるじゃないか。
――頭が痛くなる話だな……」
前髪を握って苦笑するリオールに、わたくしは肩を竦める。
「……むしろ、だからこそかもしれないわね……」
「――というと? いや、まさか……」
問いかけながら途中で気づいたのか、リオールが顔を引きつらせたわ。
わたくしはうなずく。
「ええ。最後のひとりが第一王子レオン・ロムマーク殿下なのよ」
彼と行動を共にすると、礼儀作法関連のステータスが上昇したわね。
「……乙女ゲームとは、対象との疑似恋愛を楽しむものだと言ったな?
つまり聖女はいずれ国の要職を担う可能性のある者と……その……」
リオールの年頃だと、恋に落ちると言葉にするのは恥ずかしく感じるのかもしれない。
顔を真っ赤にして言葉を濁すリオールを可愛らしく思いながら、わたくしはうなずく。
「ええ。主人公と恋愛関係になるわ。
ハーレムエンド――選択によっては、全員とそうなる事もきでるのよ。
わたくしには理解できない感覚だけど、世の中には男性すべてを手に入れたいと望む女性もいるらしいわ」
「……王族が血脈を維持するために、側室を持つのは仕方のないことというのは理解できるが、聖女は……ゲームの主人公は平民なのだろう?
……正直なところ、貞操観念を疑うな。
始祖女帝と守護竜を見習ってほしいものだ!」
と、リオールは腕組みして憮然としながら吐き捨てる。
「ああ、始祖女帝は守護竜との愛を貫くために、生涯独身だったものね」
「そして守護竜は、そんな女帝との愛に殉じ、己を抹消してまでリリィという次代を生み出したのだろう?
性別や種属を超えてなお、ただひとりの為に貫ける想い――愛とはそうあるべきだと僕は思う」
そう告げるリオールの表情は複雑なもので。
「とはいえ、僕自身が側室の子だから、胸を張ってこんなことを言える立場じゃないんだけどな……
――ずっとそう考えてきたが、フェルノード公爵から王后陛下のお考えを聞かされて、わからなくなってしまった……」
日中の授業で知らされた事実を思い出しているのか、うなだれるリオールの後頭を――わたくしは不敬かもと思いつつもそっと撫でる。
リオールはピクリと肩を震わせたが、結局はなにも言わなかった。
「わたくしも前世の記憶で識ったのだけど……」
そう前置きして。
「――愛とは、様々な色や形をしているものだそうよ。
一見すると……ともすればそれを受ける者にすら害悪に思えるようなことでさえ、与える側は愛だと思っていることもあるとか……」
王后陛下がルーシア様とリオールを守ろうとしたように――すぐにはそうと気づけない愛の形だってあるんだわ。
「……リオールはまだ小さいのだから、焦らずゆっくり学んでいけば良いのよ」
わたくしの言葉にリオールは小さく洟をすすって顔を上げる。
「……前世の記憶があるというのは、なんともやりにくいものだな。
君の話を聞くつもりが……こうして年下のように扱われて、慰められてしまっている」
気恥ずかしそうに漏らされた言葉に、わたくしは苦笑する。
「人生経験の差ね」
あえて茶化した口調で応えれば、リオールもまた苦いものが混じった笑みを浮かべた。
「それが悩みの原因にもなっているというのに、よく言う」
そう告げて、彼はわたくしに先を促す。
「聖女が兄上やその側近候補達と学園で出会い――その……恋愛関係になるのは理解した。
それで、君はそこにどう関わるんだ?
――悪役令嬢と言っていたが……まるで想像できないんだが……」
リオールのその問いに、わたくしはため息を吐いて切り出す。
「まあ、わかりやすく言えば主人公にとっての障害――立ちはだかる壁役ね」




