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悪役令嬢姉妹は破滅も理不尽もすべて物理でぶっ飛ばす! ~銀河文明が破棄した最終兵器は「大好き」を知りたい~  作者: 前森コウセイ
第2話 第二王子の受難の始まり

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第2話 7

「かつて……統一帝国が誕生するよりさらに以前は、この霊脈を整調するという役割は魔属の王――魔王の仕事だったのだと、我が家には伝わっている」


 お父様の言葉に、わたくしとリオール殿下はうなずいたわ。


 歴史の授業で習っている。


 かつてこの大陸には東西南北に魔属の国があり、そこを治める魔王に支配されていたのだと。


 圧倒的な魔道器官とそれに裏打ちされた戦闘能力に、人はその支配を受け入れるしかなかったそうよ。


 ――けれど……


「時代は下り、人の中に特異な才や強力な魔道器官を持って生まれた者が現れた」


「――勇者アレックス!」


 リオール殿下がお父様の言葉に目をキラキラさせて、歴史上の大英雄の名前を挙げる。


 初めて殿下の年相応なお顔を見た気がするわね。


 出会った直後は――わたくし達にナメられたくないという気持ちもあったのでしょうが――王子然とした慇懃な態度で、この部屋で再会してからは、わたくし達にどこか怯えたような表情を見せていたもの。


「アルマーク王の命を受け、仲間達と共に北の魔属領へと旅立ち――単身で北の魔王を討ち取った大英雄ですよね?」


 リオール殿下に訊ねられて、お父様は嬉しそうにうなずく。


「四大魔王時代まですでに学んでるとは、リオールは歴史が好きなのかな?」


「い、いえ……その……勇者アレックスは身近な英雄なので、絵本なんかで知っていたのです」


 殿下のお母君はアルマーク公爵家――勇者アレックスが仕えていた、旧アルマーク王家の出だものね。


 かつての英雄を身近に感じても、不思議ではないわね。


「ああ、『聖泉の勇者と赤毛の魔王』だね。アレ、良いよね。

 特にラスト! 聖泉で授かった聖剣を手に、赤毛の魔王と一騎打ち。

 ――僕も好きだったなぁ……」


 と、お父様は懐かしむような目をして、リオール殿下に応じたわ。


 そんなふたりに――


「そんで勇者は魔王と殴り合って意気投合したんだよね?」


 右手を挙げたリリィが、とんでもない事を言い出した。


「――は?」


 殿下が意味がわからないと告げるように、首を傾げてリリィを見る。


「――リ、リリィ。なにか別の絵本と間違えてるんじゃ……」


 わたくしもまたそんな話、聞いたことがなかったからリリィにそう尋ねたわ。


「ホントだよ! お母さんが言ってたもん。

 それで北の魔王は勇者と親友になって、娘に世界を見せて欲しいって勇者に頼んだんだよ。だから勇者は魔王の娘を養女に迎えたの!」


 鼻息荒く主張するリリィに、わたくしとリオール殿下は答え合わせを求めてお父様を見たわ。


「……ははは。まさかハナさん、リリィにそこまで教えてたとはね」


 苦笑して頭を掻くお父様を見れば、リリィの主張が正しい事を示しているのは一目瞭然ね。


 けれど、リリィはさらに衝撃的な事実をブチ込んで来たわ。


「えへへ。お母さんがね、お世話になるお家の歴史を知ることは礼儀なんだって言ってたよ」


「――待ってリリィ。ウチの歴史って、どういうこと?」


 思わずリリィの肩を掴んで顔を寄せると。


「んとね、フェルノード家は勇者アレックスの子孫のお家なの」


「――はぁっ!?」


 わたくしとリオール殿下の驚愕の声が重なり、それを見たリリィが頬を膨らませる。


「もう! さっきからふたりだけで! リリィも混ぜてよ!」


「――そ、そんな事より、ウチが勇者の血統って……」


 思わずお父様に視線を向けると、苦笑と共に肩を竦められた。


「……事実だよ。当主になる時に促成教育で教わる話さ。

 勇者アレックスは表向き、北の魔王討伐を成し遂げた英雄として、その後アルマーク王国で公爵位を賜る事になる」


 お父様は言葉を区切って、わたくし達を見回す。


「覚えておくと良い。歴史ってのは関わってる者の数だけ真実があるのさ。

 勇者アレックスの話なんて、その典型だね」


 後年に残った記録が、当時を生き残ったものによって生み出されるのは、前世の記憶で知っていたつもりよ。


 でも、我が家にこんな重大な事が隠されていたなんて、思いもしないじゃない。


「……話を戻すと、その時に勇者アレックスに託された娘は、当時、人々が増えて広がり始めていた霊脈を整調する役目を負っていてね」


 勇者とその妻の庇護を受けて育った魔王の娘は、やがて父から託された役目を果たすためにフェルノード家を出奔し、様々な国を巡って霊脈を整えて回ったらしいわ。


 やがて年頃を迎えた魔王の娘は、ロムレス――当時は帝国だったそうだけど――の傍流皇族の男性と結ばれて、一人娘を産み落としたそうで。


「その娘は色々あって、フェルノード公爵家に預けられる事になってね。そうして彼女もまた好きになった男性と結ばれて、子供を宿したんだ」



 と、お父様は机の上で両手を組み合わせて顎を乗せると、わたくし達を見回しながら意味ありげに微笑みを浮かべた。


「……その子供こそ、リリステラ統一帝国始祖女帝――リーリア陛下その人だ」


「――なっ!?」


 驚きの声をあげるわたくしとリオール殿下。


「――はぁっ!? あれ? むうぅ~……」


 まるで待ち構えていたように、リリィも声をあげたのだけれど、発した言葉が違う事に気付いて、また不満げに――可愛らしく頬を膨らませる。


 そんなリリィに気付いかないまま、リオール殿下はお父様に訊ねたわ。


「――リーリア陛下の出自は不明だったのでは?」


 歴史書によれば、大陸中央にかつてあったとされる魔境<嘆きの森>で守護竜と出会って国を興した――というのが陛下が歴史に登場するはじめの出来事。


 当時の<嘆きの森>は、罪人の流刑地であり国を追われた者が流れ着く地だったという事から、陛下はいずこかの国からの流民だったのではないかと言われているわね。


「過保護な守護竜様が、陛下の出自を隠した結果だそうだよ。

 まあ、さすがに男爵家の庶子として扱われていたとか、王族にハメられて流民にされたとか、守護竜様だけじゃなく当時の権力者達も残したくなかったようで、隠蔽はすんなりと受け入れられて――陛下の神秘性を増すのに一役買ったというわけだね」


 お父様の口ぶりから察するに、お父様自身は当主としての促成教育によって、リーリア陛下についてより深い知識を知っているようだわ。


 統一女帝への興味は前々からあったから、今度、時間がある時に聞いてみたいわね。


「幼くして母親と生き別れた陛下は、霊脈を整調するという役割とその術を教わっていなくてね。

 でも、その異能だけはしっかり受け継いでいて――だから、守護竜様の主となることができたんだ」


 ――お父様は語る。


 守護竜様と出会ったことで霊脈を整調する術を覚えたリーリア陛下は、<嘆きの森>に国を打ち立て、その地を中心に大陸中の霊脈を整えたのだという。


 今も語り継がれる邪神調伏の伝説は、その際に起きた出来事なのだとか。


「そうして霊脈を整え、邪神を調伏して行くうちに、周辺国は当時は王国だったリリステラに恭順を示してね。

 ――かくして統一帝国リリステラのできあがりというわけさ」


 そこで言葉を区切って、お父様は黒板に『始祖女帝』と『守護竜』と書き込む。


「――あら、旦那様。大事な人を忘れてますわ」


 と、ローザ微笑みながらそう言って、『始祖女帝』の左隣に、『ロザリア・フェルノード』と書き加えた。


「……確か我が家の中興の祖――統一帝国の初代宰相を務めた方よね?」


「む、そうなのか?」


 記憶を辿りながら呟くと、その知識はなかったのかリオール殿下がわたくしに訊ねた。


「はい。リリステラ王国時代の初代宰相は彼女の父親だったそうですが、帝国に国号を改めた際に、その位とフェルノード家当主の座を譲ったのだと……」


 わたくしの言葉を補足するように――


「ロザリア様は、リーリア陛下や守護竜とは興国以前からのお付き合いでして。

 まあ、いうなれば親友ですね。

 陛下や守護竜がお隠れになった後も、議会が稼働するまでの混迷期間を首長として切り盛りなさっていたのも彼女です」


 ローザはどこか自慢げに胸を張って、わたくし達に説明した。


「だからこそ……こと霊脈と国の権威に関しては、本当に面倒な事に――我が家は公爵家であるにも関わらず、王族を凌ぐ立場にあるんだ」


 お父様はわたくし達を見回して告げる。


「――現在、この国の霊脈を支える<世界樹の根>……その接続優先位は、僕が第一位なんだよ」


なお、始祖女帝や守護竜の活躍については、

『ファンタジー世界で王子に騙され、追放されたわたしが銀河大戦の最終兵器を拾っちゃいました。 ~廃棄処理された超兵器による、ご主人様救済計画!~』

https://ncode.syosetu.com/n0048jc/

にて(ダイレクトマーケティング(;´∀`)

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