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悪役令嬢姉妹は破滅も理不尽もすべて物理でぶっ飛ばす! ~銀河文明が破棄した最終兵器は「大好き」を知りたい~  作者: 前森コウセイ
第1話 フェルノード公爵家のぶっとんだ姉妹

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第1話 17

 ……アンネの話を聞き終えて。


 私は情報を整理する時間が欲しいと娘達を下がらせると、執務机で深々とため息を吐いた。


「……みんな、どう思う?」


 今、この部屋にいるのは、守護竜によってもたらされた、星々の世界の叡智を識る者だけだ。


 私もまた、元服の際に儀式としてその知識を受け継いでいる身だが、それでもアンネの話はあまりに突飛で、俄には信じがたいものだった。


「……まず、乙女ゲームについてだが――」


「――おまえが促成教育を受けてからハマった、ギャルゲーの女子向け作品の事だ」


 ディアスがアゴをしゃくって、私を示しながら応える。


「――う、うるさいな! エルザとのやりとりの参考にしてたんだよ!

 そんな事より、じゃあ、アンネの前世の世界では、すでに霊脈ユニバーサル・スフィア上にSNSソーサリー・ネットワーク・システムを構築できていたという事だろうか?」


「いや、話を聞いた限りじゃ、ワシらの知っとるそれより原始的なモノだったみたいじゃな。

 アンネはスピリット・マジック・ホルダー――スマホと呼んどったが、要するに最近出回り始めた魔術符(デバイス)の発展版だな。そこに登録した魔術のうちのひとつを使って、霊脈上に原始的なネットワークを構築しとったらしい」


 アンネに根掘り葉掘り質問していたマツリが、そう説明してくれた。


「あの子の話じゃ、ずいぶんと切羽詰まった世界だったようだからねぃ。

 その反動なのか、目線を逸らそうとしていたのかは知らんが、娯楽にけっこうな力を注いでいたようで、霊脈ユニバーサル・スフィア上に専用の娯楽<書庫(ライブラリ)>が用意されてて、スマホを使ってそこに接続する事でゲームを楽しめたらしい」


「――魔道技術の一部は、<大航海>時代の人類程度には発展していたという事でしょうね」


 ローザが顎に手を当てて呟けば――


「文明水準自体はオレが北天に居た頃に観た、<母星(ロスト・ホーム)>前期時代を描いたホロムービーのような印象を受けた」


 ディアスもまた腕組みしてうめきながら応える。


「この星より侵災や魔物による被害がひどかったようですので、魔道技術だけが極端に発展したのではないでしょうか?」


 と、モーリスがお茶を淹れて回りながら、私達の疑問に応えた。


「ああ、そうか。この星のように発展の制限を敷いていなかったのだとしたら、そういう事もありえるのか……」


 ――促成教育で得た知識によれば。


 この星はかつて、この星に巣食った三匹の魔物の脅威に晒されていたのだという。


 地中深くで眠りについていたそれら――現代では邪神と呼ばれている存在を起こさぬよう、この星の人類は、上位種たる魔属によってその発展を制限されていたのだ。


「でも、すごいよねぇ。この星は守護竜――<万能機(オーバー・ドールズ)>の到来によって邪神を滅ぼし、その後の侵災にも対応できるようになったというのに、アンネの世界じゃ、人の力だけで魔物や侵災に抗ってたみたいじゃないか」


 私が何気なくそう告げると。


「…………」


 モーリスを除く超越者三名は渋い顔で首を傾げていた。


「ど、どうしたんだい?」


「いや、そこが腑に落ちんのじゃよ」


 ソファに胡座を掻いて、マツリは私に人差し指を立てて見せる。


「甲冑なんちゅーワンオフ特騎の人型兵装を拵えるほどの魔道科学技術があり、挙げ句、それを駆るのは大銀河帝国騎士や北天闘士顔負けの戦闘民族。原始的とはいえ、SNSを構築し、衛星にまで到達していたというのに……」


「――なぜ、そんな星の痕跡が大霊脈(グローバル・スフィア)に検出されないのか、ですね?」


 マツリの言葉を引き継いで、ローザが静かに告げた。


「そう。この閉ざされていた星でさえ、イオナが母上のトコに辿り着いた段階で星図に登録された。

 <転生>という魔道方式(システム)を考えるなら、少なくともアンネは大霊脈(グローバル・スフィア)に接続できとる星から来とるはずなんだが、ワシが検索する限り、あの子の語るような星は該当するものがないんじゃ」


 その言葉に――この世界でも屈指の頭脳と知識を持つはずの、ローザとディアスも押し黙る。


「――ホッホ!」


 と、その沈黙を打ち破るようにモーリスが笑った。


「あなた方が揃って答えを導き出せないのならば、いまは放置するしかないのではないですかな?

 そんな答えの出ないことより、我々は考えなければいけない事があるでしょう?」


 と、老執事は顎髭を撫でながら、私達を見回す。


「――アンネお嬢様はご自身を悪役令嬢であると……いずれ王太子殿下の婚約者となり、しかし裏切られ、手ひどく捨てられて、処刑されるのだと恐れてらっしゃるのでしょう?」


「そ、そうだ!」


 私はうなずき、我が家の知恵者達を見回す。


「あの子は、前世で遊んだ乙女ゲームの敵役に生まれ変わってしまったと思い込んでる」


「この世界がゲームの世界かもしれないとも言っていたな」


「――多元空想世界イマジナリー・ワールド論は、<大戦>初期に否定されとるんだがなぁ……」


 と、そこでローザが不意に両手を打ち合わせた。


「――未来視……」


「は?」


 首を傾げる私達に、ローザはうなずきを打って続ける。


「――アンネお嬢様は我がフェルノード家の末裔にして最先端!

 不肖、この私、ハナやロミほど頭のネジのぶっ飛んだマネはしておりませんが、中興の祖たるロザリア様のお子様以降、より強い種となるよう尽くしてまいりました!」


「――ちょっ!? おまえ、初耳だぞ!?」


 珍しくディアスが戸惑いの声をあげた。


「いえ、いつか我が主機が再び目覚めた時、その主となるのがロザリア様の子孫だったら素敵だなぁ、とか夢見ちゃったりしたのですよ」


「――そうだった! こいつも結局は守護竜(あのバカ)の眷属――<六銘華(ネームド・シックス)>だった! ロザリアに影響されてる分、他の連中よりさらにタチが悪い!」


 と、ディアスはローテーブルを叩いて、ローザを罵る。


 そんなディアスに勝ち誇った微笑を向け、それからローザは私に言った。


「――旦那様。アンネお嬢様は魔眼を――未来視をお持ちなのかもしれません。

 それによって知り得た未来と、<転生>による記憶が混じり合って混乱しているのではないかと」


「……ふ、む?」


 転生も未来視も、知識としては知っていても常識の埒外――私の理解の外の話だ。


 私は首を捻りながら、残る超越者ふたりを伺う。


「確かに、それはありえるかもしれんな……」


「そういえば船団の戦略占星術士(フォーチュナー)なんかも、定期的にメンタルケアを受けて現実と未来時軸との差異を埋めてたな」


「……あ~、つまりはローザの言葉は正しい、と?」


 私の問いに、三人は顔を見合わせてうなずきあった。


「なるべく早めに、<能力検査(ステータス・チェック)>を受けさせよう」


「その結果によって、ワシらの対処もまた変わってくるからのう」


 揃って告げられた言葉に、私もまたうなずいた。


「元々受けさせようって話だったしね。もし未来視があるなら、それでわかる、か」


 さっそく私は引き出しから便箋を取り出し、王城に<能力検査(ステータス・チェック)>の申請書を(したた)める。


 それが愛するふたりの娘に、さらなる厄介事を運んでくる事になるとも知らず……

 以上で1話終了となります。

 

 ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


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