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悪役令嬢姉妹は破滅も理不尽もすべて物理でぶっ飛ばす! ~銀河文明が破棄した最終兵器は「大好き」を知りたい~  作者: 前森コウセイ
第1話 フェルノード公爵家のぶっとんだ姉妹

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第1話 16

 尊敬していた祖父を、実の父親のクズな行いによって亡くし、家も伝来の甲冑すら失くしたわたくしには、もはや地の底まで墜ちた家名と、祖父から教わった武しか残されていなかった。


 ――ならば、と。


 三洲山に渡り、撫子女学校に進んだわたくしはそのふたつを高める事に固執した。


 ……してしまった。


 他者は自身を踏みつけにするだけの存在であり、信用などできないと斬り捨て。


 ただひたすらに己を練磨する事だけに打ち込む日々。


 そうして半年が過ぎて、夏休みを迎えようとした時――期末試験の実技の部で、わたくしはあの人と出会った。


 三年生だというあの人は、わたくしの近接戦闘試験の仮想敵役(アグレッサー)で。


 ――第一印象は最悪だったわ。


 試験直前でも緊張感もなくへらへらしていて、あろうことか戦装束を忘れてきたとかで制服姿のままで現れて。


 戦闘教官が言うには、彼女もまた西洋魔道――魔術を使えず、古式魔道を主とした、わたくしと似た戦闘型式(スタイル)だから、わたくしの仮想敵役(アグレッサー)に抜擢されたのだという。


 半端者をあてがわれたのだと、当時のわたくしは教官にも先輩にも激昂して――けれど、直後にその考えを改めさせられたわ。


 一瞬だった。


 年上だとか、三年の先輩だからなんて言い訳にもならない、完膚無きまでの敗北だったわ。


 教官はあの人相手に、三合も打ち合えたのだから上出来だと褒めてくれたけれど、刀を使うわたくしに対して、あの人が使っていたのはただの扇で。


 文字通り舞うような武踏に、わたくしは手も足もでなかった。


 ……後から知らされた話だけど。


 あの人は――幼い頃に巻き込まれた特異災害で魔道器官を破損し、それ故に魔術が使えなくなったそうで。


 それでも残った魔道のみでも扱える古式魔法を学び、かつて自分が救われたように今度は自分が救う側になる為に撫子を志していたのだと――そう、聞かされた。


 ……わたくしは自分を恥じたわ。


 大好きだった祖父を死に追いやった父と、祖父を哂った軍人達を見返す為に生きていたわたくしと。


 魔道器官という、武に生きる者ならば必須ともいえる能力を失くしてもなお、人の為に生きたいと――笑顔を浮かべて突き進む、あの人との器の大きさの差を見せつけられた気がして……


 そう。あの人との出会いはきっと、ロクでもなかったわたくしの前世の中でも、数少ない幸運だったのだと思う。


 あの日の出会いを機に、あの人や先輩達と行動を共にするようになって――あの二年半を語り尽くすには、とてもじゃないけど一晩じゃ足りないわね。


「――アンネ?」


 女学校時代を振り返って押し黙ったわたくしに、お父様が不思議そうに声をかけてきたわ。


「辛い思い出なら、無理に話す事はないんだよ?」


 優しい声色でそう言ってくれるお父様は、前世のあのクズとは比べ物にならない、良い父親だと思うわ。


「いいえ。ちょっと思い出を――そう、理想を見つけた日の事を思い出していたのです」


 わたくしはそう応えて、咳払いをひとつ。


 まあ、すべては前世での出来事――終わってしまった、かつての出来事だわ。


「最終的にわたくしは、帝都上空に発生した特級大怪異に突入する英雄達を支援する為、討ち死にしました」


 (みかど)が織りなす<九条>結界内に特級大怪異を押し止める為、わたくし達、近衛華組は<十干>方位に補助陣を形成するという勅命を受けた。


 隊長が陣を喚起するまでの間、役立たずなわたくしはとにかく押し寄せる怪異を引きつける役目を請け負って。


 血のように真っ赤な空。


 そこら中を埋め尽くす、怪異達の鉛色の甲殻の鈍い輝き。


 街並みはすっかり崩れ落ち、あるいは赤々と燃え盛っていて……


 絶望しかない光景の中で、一筋の希望みたいに大怪異目がけて駆け抜けて行く――先輩達の真っ青な船。


 まるでアニメやマンガのワンシーンみたいな幻想的な光景に、わたくしは思わず見とれてしまって……


 ――怪異達に呑み込まれた。


 四肢を食いちぎられ、腹を裂かれて、無様に泣きわめきながら逝ったのを覚えているわ。


 いいえ、そこまでしか覚えていないとも言えるわね。


 あの後、あの世界が――先輩達がどうなったのか、今のわたくしには知る術はない。


 ……だから、あれはもう夢のようなもので。


 前世の死を告げたわたくしに神妙な表情を見せる大人達に、わたくしは微笑を浮かべてみせたわ。


「――そんなワケで、わたくしには前世の記憶があって、あの世界で刻みつけられた魂装――魔道武装が使えるの。

 ……いままで黙っていて、ごめんなさい。

 その……気味が悪いと思われて、捨てられるのが怖かったのよ……」


「――そんな事するわけがないだろう!?」


 お父様が抱き締めてくれたわ。


「君の前世を思えば、父親を――僕を信用できないって言うのはよくわかるよ」


 その声はひどく震えていて、嗚咽混じりなのがわかった。


「だから、僕はこれからの行動で、もっともっと君の信頼を勝ち取って行こうと思う!」


「お父様やみんなの事は、もう信頼してるわ。だから……前世の事を明かしたのだし」


 同時に最悪の事態も覚悟はしていたけれど、どうやらわたくしの周りの大人達は、わたくしが思う以上に、わたくしに甘いようね。


 ――だから。


「あのね、みんな。もうひとつ――知っておいて欲しい事があるの」


 お父様に抱き締められたまま、わたくしは周囲の大人達を見回した。


「――この世界は、わたくしが前世で遊んでいた乙女ゲームにそっくりなのよ!」

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