第5話:宮廷舞踏会と静寂なる反逆者 ~平凡令嬢、仮面舞踏会で騎士団長に踊らされる~
王宮が華やかな光に包まれる夜。
今日の宮廷舞踏会は、王太子妃候補の顔見世も兼ねている。
(凡庸に過ごすはずだったのに、なんでこんな場に私が……!)
淡いパステルカラーのドレスに身を包みながら、ため息をついた。
「レイリア様、もうすぐお立ち台へお上がりください」
侍女の声に促され、私は緊張を押し殺して大広間の中心へと歩み出る。
* * *
仮面舞踏会では、仮面をつけた貴族たちが次々と踊りの輪を作る。
「……騎士団長殿も仮面姿ですね」
目の前に立つのは、黒い仮面をつけたジークフリート。いつもの無表情は隠せず、まるで氷の彫像だ。
「君と踊るためだ」
そう一言。
(な、なんで!? 私、踊りなんて苦手なのに!)
* * *
不器用な手つきでリードされるまま踊る私。
周囲の視線が集中する。
「……まさか、騎士団長が令嬢に特別扱いを?」
「いや、これも警護の一環かと」
囁かれる噂も、私は気にしないふりをした。
だが、踊りの途中で彼が呟いた。
「なぜ、凡庸を装う?」
「……ばれた?」
「いや、違う。君の努力が伝わってくる」
(努力? 私、ただ疲れているだけなんだけど……)
* * *
舞踏会の裏で、密かに動く黒幕の影。
「彼女が表に出てくると、こちらの計画が狂う」
暗い部屋の中で呟いたのは、影の貴族・セリウス。
「ならば、彼女を“平凡”ではなく“危険”に変えてしまえばよい」
冷酷な笑みが広がる。
* * *
舞踏会の夜、私は知らずに陰謀の渦中に足を踏み入れていた。
けれど、冷静な頭脳と騎士団長の影があれば、きっと乗り越えられる――はず。
「……私を監視するのなら、もう少し優しくしてもいいんじゃないですか?」
「無駄なことは言わない方がいい」
彼の冷たい声に、私は小さく笑った。
(この氷の騎士、案外悪くないかもしれない)