第4話:平凡を演じるのも命がけ!? 王太子妃候補再審査と、“婚約破棄ざまぁ”の波紋
――「再審査」と聞いた瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。
「お嬢様……王宮より通達です。王太子妃候補の“再選定審査”が行われるとのことです」
「……ちょっと待って。それ、私には関係ないわよね?」
思わず、お上品さゼロの低い声が漏れた。
だってそうでしょう? 私、王太子エドアルド殿下から華麗に婚約破棄されたんですよ?
人前で盛大に破棄されて、本人も「このような冷たい女性との婚約など断固として拒否する」とまで言ったくせに。
「それが……なぜか、“前婚約者の再評価”対象にお嬢様の名前が含まれておりまして……」
「どういうことなのッッ!?」
* * *
再審査会――それは建前上「王族にふさわしい花嫁の品格を再確認する」ための儀式。
でも実際は、王太子が最近ヒロイン(エリス嬢)に振り回されて困っているという宮廷内の噂から始まった“仕切り直し”。
(いやいやいや、私、もう完全に関係ないはずでは!?)
なのに、再び王太子妃候補の筆頭に私の名前があがった。しかも、他の候補が全員ビビって辞退したらしく、実質私一人が再審査対象らしい。
(これってもう、“はい復縁しましょう”の前振りなのでは!? やだやだやだ!!)
* * *
そして当日――
王宮のサロンに並ぶ、見覚えのある面々。
エドアルド殿下、ヒロインのエリス嬢、そしてなぜか第一騎士団長・ジークフリートがその場に同席していた。
(なんであんたもいるのよ!?)
「……護衛任務中だ。君を“警護”するよう命令されている」
(だからって至近距離で無表情なのやめて!? 完全に拷問なんだけど!?)
審査は形式的なもので、礼儀作法、歴史、詩文の朗読、そして“問題行動”の有無などを確認するものだった。
私は完璧にこなした。
というより、「凡庸に」こなした。
「いえ、私は目立つのが苦手ですので」
「特に夢も希望もありませんわ。静かに、家の管理などを……」
そう答えるたびに、審査員たちが唸る。
「まさか……悪役令嬢とは演技だったのでは?」
「いや、これは“本質を隠して生きる真の才女”という可能性が……」
(だから違うってばァァァ!!!)
そして極めつけが、エドアルド殿下の発言。
「私は、レイリア嬢に誤解を抱いていたのかもしれない……」
「!?」
となりでヒロインのエリス嬢が固まる。
「真に王国を支えられる女性とは、真の賢さと、謙虚さ、そして内面の強さを持つ者……そうだ、まさにレイリア嬢のような――」
「やめなさい、過去を美化しないでいただけます!?」
思わず出たツッコミに、場が凍る。
……が、逆効果だった。
「この場でそのように言い切れる強さ……やはり、彼女こそ王妃にふさわしいのでは?」
(えっ!? なんで!?!?)
――結果。
「レイリア=フォン=アルステル嬢。再審査の結果、王妃候補としての再登録を正式に認める」
「えええええええええええええええ!!!?」
* * *
こうして私は、**「婚約破棄ざまぁ系再評価ルート」**に勝手に放り込まれることとなった。
ただ静かに生きたいだけなのに。
ただ凡庸に、ひっそり過ごしたいだけなのに。
気づけば、王太子には未練が生まれ、ヒロインからは敵視され、騎士団長には監視され、なぜか周囲から“次期王妃”として注目を集めることに。
(お願いだから……! 誰も私を評価しないでぇぇぇぇ!!!)