表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/16

第9話:王宮に忍ぶ影と、仮面の令嬢

鉱山街での調査を終え、王都へ戻った数日後。

 私は、以前にも増して“完璧すぎる悪役令嬢”としての仮面をかぶりながら、日々を過ごしていた。


(王宮内に“黒翼の蛇”が潜んでいる。ならば、慎重に動くしかない)


 だが、その一方で問題もあった。


「レイリア様、最近さらにご活躍ですね。騎士団長との視察に同行されたとか」


「ええ、さすがですわ。“王太子妃候補”の筆頭では?」


 貴族令嬢たちの視線が、どこか探るようなものに変わっているのを感じる。


(だから! 平凡に暮らしたいって言ってるのに……!)


 無害な笑みを浮かべながら、私は紅茶をひと口。


(問題は、ここに誰が“潜入者”として紛れているか。焦らず、丁寧に、確実に洗い出す)


* * * 


 その日の夜。

 私は秘密結社の本拠、宮廷地下の隠し書庫で、古い記録をめくっていた。


 調査対象は、過去10年間で不自然に職を得た者、出自の怪しい人物、魔力量の異常上昇を記録された者。


「……見つけた」


 数年前に突然書記官として登用された一人の青年――エリオット・グレイス。

 表向きは無害な文官だが、出身地に関する記録が“修正”されている。


「まさか……彼?」


 だが、私がその記録を手にした瞬間、何かの“魔術的な封印”が発動した。


 バンッ!


 書庫全体に鋭い音が響く。棚が一斉に揺れ、魔術文字が浮かび上がった。


(情報へのアクセスを感知して“自爆”する仕掛け……!?)


「レイリア・ヴェルゼイド。お静かに」


 現れたのは、黒いマントに銀の仮面をつけた――“仮面の令嬢”。


「……誰?」


「あなたと同じ、“国の裏側”を歩く者。ただし私は、あなたほど“中途半端”じゃない」


「……中途半端?」


「平凡を望むなら、関わらなければよかった。あなたはもう“表”にも“裏”にも居場所がない」


 仮面の令嬢は、細身の杖を振るうと、書庫内の魔術障壁をすり抜けて攻撃魔法を発動した。


 ――ゴォッ!


 青白い雷が、私のいる場所へ一直線に飛来する。


「ちょっと! 本を燃やす気ですか!!」


 私は転生特典の超演算能力で反応し、即座に障壁を形成して魔法を中和。


 その一撃を逸らした瞬間、棚の隙間を縫って相手に向かって走る。


(距離があるうちに、“正体”を見抜く!)


「誰に仕えてるの? “黒翼の蛇”? それともアルヴィン?」


「どちらでもない。私はただ、“国の均衡”を保つために動いている」


「なら、なぜ私を狙うの?」


「君の存在が、“すでに特異点”だからだ」


(特異点……?)


 相手は続けた。


「君がこのまま“仮面”をかぶり続ければ、“運命のルート”が歪む。……この国の未来が、“選択肢を持たなくなる”」


「私が……未来を“狭める”? 意味が分からない」


 だが、その瞬間。仮面の令嬢の手が、一瞬だけ震えた。


 私は見逃さなかった。その仕草――痛みに耐えるような、一瞬の人間らしさ。


(……もしかして、彼女も“自分の意思だけで”動いているわけじゃない?)


 しかし、私の分析はそこまでだった。

 仮面の令嬢は再び煙玉を投げ、闇に紛れて姿を消す。


* * * 


「……レイリア、怪我はないか?」


 駆けつけたジークフリートが、無言で傷を確認しようとするが、私は首を振った。


「大丈夫です。ただ――“敵の目的”が少しずつ見えてきました」


「仮面の女……名は?」


「不明です。でも、彼女は言ってました。“私の存在が特異点だ”って」


 ジークフリートはわずかに目を細めた。


「君の“完璧さ”が、運命をねじ曲げている――そう言いたいのだろう」


「……だったら、私はどうすればいいんでしょう?」


 彼は答えなかった。ただ、そっとマントの端を私の肩にかけた。


「考えすぎるな。君は、君のままでいい」


 私はその言葉に、ほんの少しだけ救われた気がした。


(でも私は知っている。“平凡”なんて望むほどに、遠ざかっていくものだ)


 そしてその夜、私は決意した。


「ならいっそ、完璧に“平凡を演じ切る”ことで、この国の裏を、すべて終わらせてやる」


 誰にも気づかれず、誰にも知られずに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ