12
魔女ーー
いえ自称魔術師の容疑者が言っていたことの真偽は分かりません。
ですが信憑性はあります。
確かに被害者達には通院履歴があり、皆、余命残り僅かな人達ばかりだったのです。
だからこそ容疑者が
「自殺教唆を行って儀式殺人を行った」
ものと判断していたのです。
容疑者の言っていた「魔術師」というものがどんなものかは…
まだアルタンにもララタンにも分かりません。
ただ長くハムスター村を見続けていると
確かにジャンガリアン達は幸せそうです。
決して憐れな存在ではありません。
彼らが人間であった時に
「エコロジカルな牧歌的暮らしを理想としていた」
のだと言われれば…
確かにそうなのかも知れません。
彼らは愛すべき存在です。
ララタンに厭がらせしたり
すぐに怖れに囚われて
積極的に相手を誤解する傾向がありますが
根っからの悪者はいません。
アルタンとララタンはいつの間にか
「もしかしてあの魔女が言ってたように、あの魔女は彼らの望みを契約に則って叶えてあげてるのかも知れないわね」
と思うようになっていきました…。
そしてある満月の夜ーー
「なんだか寝付けないわね…」
ララタンはそう呟いて
月の光に照らされた夜の森を眺めていました。
すると何処からか金粉が舞ってきて…
ララタンの体に纏わりつきました。
そうしてーー
ララタンの魂がララタンの体から抜け出し
空中に浮いてしまいました。
ララタンが体を見下ろすと、自動ロボットのように普通に歩いているゴールデンハムスターがそこに居ました。
(魂が無くても自動で動くの?)
と、ララタンは驚愕しました…。
驚愕しながらもララタンの魂は
風に吹かれて
風に流されていきます。
どんどん流されて…
ララタンとアルタンの二人が初めてこの世界に来た時の場所に辿り着いていました。
ふと見るとアルタンもまた
フワフワと風に乗せられて飛ばされて来ていました。
「「もしかして人間に戻れるの?」」
二人は顔を見合わせました…。
二人の声に反応するかのように魔法陣が輝きました。
そうーー
二人は「魔術師」としてやり直すことになるのです。
他人の幸せなど
他人の主観など
実は判らない。
尊厳死を幇助する医師が殺人罪に問われることもある世の中では
「個人の主観」
が余りにも軽視されています。
魔術師はそんな世の中で
「個人の主観」による
「個人の幸せ」を叶える為に
「あの世」に「理想郷」を創り出し
それを望む者達に提供しているのです…。
魔術師ではない人達が創り出す理想郷は
人の意識を俗世にしがみつかせ
更に深く多情多恨さへ向かわせてしまう。
だから魔術師が
「人の意識を俗世から解放して、輪廻の輪へ還れるように」
と誘導するべく理想郷を創造して死者に提供しているのです。
ララタンとアルタンもまた
そうしたことわりを理解して
人々に理想郷を提供してあげられる魔術師になることでしょう…。
二人が偉大な魔術師になることを祈るかのように
月が一際美しく金色に輝いていました…。