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ジャンガリアンハムスターの寿命は短いので
カグタンもシャアタンももう居ません。
そうーー
セラタンもユイタンもーー。
ですがその時の誤解は今でも語り継がれていて
ララタンは悪者にされたままなのでした…。
(ジャンガリアン達は真実を何も知らない…)
そう思い、アルタンは溜息を吐きました。
アルタンとララタンは歳をとらずにずっとこの世界に居ます。
平凡な毎日です。
ですが一度だけ
「本物の魔女」
と遭遇して話をしたことがありました。
このハムスター村の真実についてーー
アルタンとララタンが一緒にこの世界に現れた場所。
その場所には金粉が発生するのでした。
アルタンとララタンは度々その場所を現場検証していたのです。
その日もいつものように現場検証のやり直しをしていました。
すると金粉が発生して
二人がこの世界に出現した時のように
光の柱が立ち昇りました…。
そしてなんと!
光り輝く魔法陣が浮かび上がり
その魔法陣の中には!
二人をこの世界に送り込んだ
「あの魔女」
が居たのです!
「「お前は!」」
アルタンとララタンは驚愕しました。
「あら?随分と可愛くなってしまったのね?女刑事のお二人さん」
魔女が呑気そうに二人に声をかけました。
「何が可愛くなった、よ!お前が私達をこんな姿にしたんでしょう?!」
ララタンが魔女に文句を言いましたが
魔女は
「貴女達は根本的に勘違いしてるのよ。私のことを殺人者か何かのように貶めて捜査していた事自体が間違いだったってまだ気がつかないの?」
と肩をすくめました。
「私は、ちゃんと契約に則って、あの人達の願いを叶えているのよ?
あの人達は『人間が多過ぎる』『電気は要らない』『文明を退化させてエコロジカルで牧歌的な生活をするべきだ』といった思想を持っていたの。
そして末期癌や不治の病で余命1ヶ月〜3ヶ月の人達ばかりだった。
元々の残りの人生の12倍の時間、つまり1年〜3年の間、あの人達はハムスターとして理想の生活をしてるの」
そう言って、魔女は微笑んで更に言葉を紡ぎました。
「何せ『人間が多過ぎる、人間はこんなに世界に必要ない』と言ってた本人達を人間にさせる訳にはいかないでしょう?
そういう契約なのよ。あの人達自身のエネルギーを使って、理想の【世界】を創造・運営・管理すること。余ったエネルギーを私が労働の対価として頂くことが。
勿論ここでの生を終えた後は生命の循環の輪に返って行ってるわ。
此処はね、生命の循環の輪から少し外れた所謂『あの世』なのよ。
死後そのままだと生命の循環の輪へと自力では還れない人達の魂が、思い残しを晴らし自分の夢を叶えたり、或いは恐怖を解消したり、狂気を解消したりする為の場所なの。
つまり魔術師は死相の出ている人間の残りの生命エネルギーを使って相手の望み通りの異世界を提供し人間の魂が生命の循環の輪へ還れるようにサポートしてあげる役割を果たしているの。
それらを人間社会の偏見的な物の見方で判断する事は間違いなのよ。
貴女達は私達と同様に『魔術師』の素養があるから、此処に持続的に留まっていられるのよ。そもそもが貴女達は死んでないしね」
「「ええっ?!」」
「自動ロボットみたいにちゃんと向こうの世界で貴女達の肉体は生活してるから戻ろうと思えば戻れるわ。
貴女達がちゃんと『契約』という概念を理解して、私を敵視することを止めればね。
『魔術師』の素養があるからには、貴女達は『魔術師』に弟子入りして【世界】の創造・運営・管理に関しても『契約』という概念に関しても、ちゃんと理解しなければならない。
ちゃんとジャンガリアン達を見て、彼らが貴女達が思うような憐れな存在なのか、彼らが不幸なのか幸せなのかどうか、ちゃんと理解しなさい。
『魔術師』という存在が需要があって存在しているのだと、そう理解できた時、貴女達はこの世界から出られるのだから」
魔女は意味あり気にウインクして、金粉に手を翳しました。
するとーー
金粉が魔女の掌に吸い込まれ
魔女の姿も消えてしまいました…。