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B話

この、今ある国々では、600年前よりも昔は国などと言うものは影も形もなかった、と教えられる。しかしこれは間違いであり、この大陸には大帝国が聳えていた。今ある国々はそのことを必死で隠蔽していた。600年も経つと国々のいうことが正しいとされ、事実は湾曲されていた。

「昔、この、今の国があるよりももっと昔、この大陸は一つの大きな国が治めていた。当時は魔法使いは迫害されていて、その国は軍隊を向かわせて片っ端から魔法使い狩りを始めた。そうして起こったのが、私が英雄と呼ばれるようになった、あの大戦争だ。その戦で大帝国は崩壊し、新たにいくつもの国ができた。そのうちの一つがこの国だ。」



結果から言うと、少女は来た。クラリスが学校に訪れてから数日後、学校が休みだと言う日に来た。

本当にあの少女が来ると思っていなかった彼女は目を丸くし、そしてため息をついた。

「ようこそいらっしゃい。とりあえずお入り。」

そう言って彼女は黒に近い銀色の髪をした少女を迎え入れた。家の中はものが少なく、何やら荷造りでもしているかのように、荷物がまとめられていた。

少女は促されるままに椅子に座り、辺りを観察する。埃っぽいがものは少なく、綺麗に整頓された家は、どこか寂しく人気をあまり感じさせなかった。

「あの…お久しぶりです。名前はリネート・カジミーリと言います。」

彼女はお茶を入れているクラリスに話しかける。クラリスはお茶を持ってきながら答える。

「知っていると思うが、私はクラリス・アイシェンハートだ。」

聞き終えると単刀直入に、食いつくようにリネートが尋ねる。

「あの、なんで荷物がこんなに少ないんですか。いや…少ないっていうより荷造りしている感じですね。どうしてなんですか。…もしかしてお引越しするの?」

彼女はクラリスに尋ねる。

「少し違うね。言うなれば魔法使いの宿命だね。魔法使いは長く生きすぎる。だから、退屈になってしまう。そうしたら荷物を全部まとめて放浪の旅に出るんだよ。この家もいつ、誰が使っていたかわからない家だよ。ただ、同族の家ということは確かだ。」

「へぇ〜。」

彼女は感嘆の声をあげた。そしてさらに尋ねる。

「どうして他の魔法使いの家だってわかるんですか。」

「それは、マナが残っているからだ。自然にあるものでない、自分のものでもないマナがたくさん残っている。こんなにはっきり残るのは魔法使いが住んでた家くらいだよ。」

「でも、私は何も感じないですよ。」

「それはお前が魔法使いではないからだ。魔法使いは普通の人よりもマナを感じる器官が敏感に働くんだよ。それからお前はとことんまながないみたいだからな。」

そういう問答を小一時間くりかえしていた。朝に来たはずの少女はこの家で昼食を食べ、もう日の傾きがはっきりと分かるよう時間になっていた。


「今から話すことを他人に言っちゃあ親子共々、下手したらお前の住んでいる街ごと殺されてしまうよ。」

そう言って彼女は話しだした。隠蔽され湾曲される前の事実を話した。時折少女は感嘆の声を漏らし、目を丸くして、聞き入った。その目には恐怖のような、だが似て非なる色があった。そして話が終わるころには、日が暮れかけ、夕方も少ししたら終わってしまいそうになっていた。彼女は聞き疲れて眠そうだったが、帰らなければならない。少女は、ちょっとした軽食をもらった後、クラリスの家を出た。


彼女は帰路についた。彼女は言われたことを噛みしめていた。『言ったら殺される』彼女は頭の中で繰り返す。誰にも言わないように……誰にも言わなように……誰にも言わないように……誰にも…

もうあたりは暗くなり、街とポツンと立つ家の道など誰も通らない。ただ、暗闇を一人で進むのは気が滅入る。それも10歳過ぎの子供だ。月が出ており、少し明るいとはいえすさまじい恐怖がある。少女は途中から走りだしていた。そして、走っている少女は向かいから来た誰かにぶつかった。彼女は尻餅をついた。

「おっと、大丈夫かい。ここらに人がいるのは珍しいね。」

そう言いながら彼は手を差し伸べた。リネートは恐る恐る手を取り立ち上がった。

「あなたはどなたですか?私の街の人でもないし、ここいらじゃ見かけたこともないですよ。」

彼はフフと笑い答えた。

「そうだね。自分は流れものだよ。名前はマリウス・イエルロというんだ。」

「あの…なんでこんなとこにいるんですか。」

彼女は人に会えたことに安心して、また、この男の親切さに心を許したがために尋ねた。

「ちょっとこの先の村に用事があってね。最後に来たのは相当昔だけど、また来てみたくなっただけだよ。」

彼は朗らかに答える。そして彼女は困惑する。

「村?あそこには一軒しか家がないですよ?場所を間違えたんじゃないですか。」

「そうかい?でも道は合ってるはずなんだよ。でも、まだ一件残っているならそこに泊めてもらおう。」

彼女は複雑な感じがした。確かに一件ある。しかし、そこはもう空き家で、今は魔法使いが住んでいる。そんなことを考えている間に、男は

「ありがとう、あなたに神のご加護を。」

そう言って再び歩きだしてしまった。

また、彼女に一人であるという恐怖がのしかかる。もう彼についていってクラリスの家に戻ったほうがいいのではないか、そういう考えが頭をよぎる。しかし、そうしたら街のみんなが心配してしまう。そして一人で立ち止まっているというなんともいえない不気味な恐怖が彼女を動かした。

「きっと大丈夫。」

彼女はそう言い聞かせて、自宅の方へ走りだした。先ほどよりも体が軽くなっているような気がした。


リネートが帰った後、クラリスはある異変を察知していた。マナ探知に何かが反応したのだ。生物であるのは間違いない。彼女は魔物が嫌がるような周波でマナ探知のマナを振動させた。しかし依然として効果はない。そして、相手も探知に気がついているかのように同じ周波でクラリスのマナ探知を振動させてきた。これでおそらくは魔法使いだということが確定した。相当な芸当だ。高騰魔法に分類されるはずの探知を、それも相手のものに干渉するなど、クラリスには到底できないような凄技だ。いくらクラリスが魔法使いの中では若い方だからと言ってもここまでの力量差は珍しい。そして彼はクラリスが今住んでいる家の前に来た。ドアがノックされ、人が入ってくる。


あとがき


事実とは時に人を傷つける。

いつか入れる予定の言葉です。たぶん


2025/02/10 修正

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