A話
趣味と勢いとノリで作りました。
「世界は冷たいものだ。」
そう誰かが言った。モヤのように白くかすんでいる。
「だがしかし、それは生きることに感謝でき、希望を持てる時に限る。生きることが常態化し、当たり前に生きることができるようになった時、人はとことん醜くなるのだよ。」
その言葉を聞いた時彼女は目を覚ました。
「久しぶりに夢を見た気がする…。」
彼女は椅子に座って揺られていた。ゆっくりと腰を上げ大きく伸びをした。
「まさかまだ、このことを夢に見るなんて…。」
彼女はスタスタと歩き出す。足取りはまだ若い。
彼女は西陽の差し込む古びた家、もうこの辺りには最後の一件であるこの家の中で夕食を作り始めた。
「みんな知っている通り、この世界にはマナというものがあります。これはみんなの体の中にもあって、熱などの力に変えることができるものです。でも、この力を自覚して、使うことができるのはほんの少しの人だけです。みなさんにはマナはありませんよね。マナを持っている人は違う学校に行っていますからね。それから……」
と初等普通学校の先生は言う。彼は教育書通りに話を進めていく。この初等学校は欧歴が始まり、世界の国が画定した時にこの 帝国に建てられたものだ。600年もの歴史のあるこの学校は国で一番有名な学校として国外からも生徒がやってくる。
「今日は特別な先生がいらっしゃいます。有名な魔法使いであるクラリス・アイシェンハートです。みなさんも一度は名前を耳にしたことがあるでしょう。」
先生は興奮を抑えるように言っている。
「それでは私は、控え室から呼んできますので静かに待っていてください。」
先生が出ていった途端、教室にいる生徒たちがざわつき出す。
「えー、あの建国の英雄ていうやつー?」
どこからか誰かの声が聞こえる。
「知ってる知ってる。めっちゃ強いっていう噂だよね。」
「でもめっちゃ昔の人でしょー。もうヨボヨボなんじゃないのー?」
「え、ママは魔法使いは歳を取らないって言ってたよ。」
「はいはい静かにして。もういらっしゃいっましたよ。」
先生が顔を覗かせている。生徒たちは声にのトーンを落としたがみんな噂話で持ちきりだ。そこへ、先生を押し退け、ある一人の女性が入ってきた。足取りは軽く、まだ若さが残る顔立ちだ。
「みなさんこんにちは。先ほど、先生に紹介されたであろうクラリス・アイシェンハートだ。みなさん知っての通りそこらでは建国の英雄などと呼ばれているが、実際は大したことはしていない。ただの魔法使いだよ。」
彼女は快活にそして少しもの悲しそうにいう。
「今日は授業をしないといけないみたいだね。それじゃあ質問形式といこう。私に何か質問があるものはいるかい?」
数人の生徒が即座に手を挙げる。
「ではそこの綺麗な金髪をした君。」
指された生徒は嬉しそうに起立した。
「魔法使いが歳を取らないって本当ですか?」
クラリスは少し間を置いて答えた。
「魔法使いも歳をとるよ。ただ、普通の人よりもゆっくりと歳をとっていく。何せ寿命自体が長いのでね。普通の人の30倍は長生きできるよ。ただ、私の場合は魔法で歳をあまりとらないようにしているんだ。魔法使いの中では特段珍しいこともない。」
彼女は少々棒読みで答えた。それでも10歳そこらの生徒たちは目を輝かせ、ひそひそと話をしている。
「クラリスさんは魔眼を持っている魔法使いなんですか?」
少女が質問をする。彼女は目をつぶった。そして目を開けると同時に話し始める。
「ほら、こんなふうに普通の目と魔眼を変えることができるだ。」
そしてすぐに元の青と黒の中間のような色の目に戻った。
「君たちはそもそも魔眼が何か知っているかい?」
今度は彼女が問いかける。
「知ってる知ってる珍しいやつだよねー。」
先ほど指されていた男の子が答える。
「君の言う通り、魔眼を持つものは魔法使いの中でも珍しい。そもそも魔眼はマナを視覚的に感じ取ることができる感覚器官だ。また、皮膚でもマナを感じ取る気とができる。君たちも悪寒がしたことがあるだろう。それは、マナの密度が大きく変わることで起こる。」
そう彼女は生徒たちに話しかける。生徒の大半は話についていくだけで精一杯のようだ。
「君たちには少し難しいかな。」
そう言って彼女は授業を切り上げ、教室を出ていった。
「はぁぁ…」
彼女は大きなため息をした。
「憂鬱だよ。なんだいあのクソガキ共。見せ物になるためにわざわざ来てやったわけじゃあねえんだよ。」
「ま…まあ…彼らもまだ子供なんです。落ち着いててください。」
そこで接待をしている先生はなだめる。彼の声は震え、半ば懇願のような口調だ。額には汗をびっしょりとかいている。そして彼の目にはほんの少しばかりの申し訳なさと、畏怖と恐怖があった。そんな目をしているのをクラリスは見逃さなかった。
「チッ。昨日は夕飯作るのが遅れたんだよ!そんな時に生ぬるい人生送ってるクソガキの相手なんてもっぱらごめんだね。」
そう言って彼女は先生を押し退け、スタスタと帰っていった。先生は呆気に取られ、腰を抜かした。
校舎を出ようとしていた時、ある一人に生徒がやってきた。先ほど魔眼について聞いてきた少女だ。
「なんで600年前にこの国ができたんですか?人はもっと昔からいるって習ったのに、なんでなんですか?」
クラリスは迷うまでもなく即答した。
「いくら建国当時生きていて、長生きだからって知らないこともあるんだよ。」
「そんなはずはないですよね…。だって、この国の建国の英雄だって、言われてるじゃないですか。なんで教えてくれないんですか…。」
彼女は目に涙を浮かべて捲し立てるように言う。クラリスはここで本当に知らないということもできた。ただ、さっきの鬱憤と、彼女のまっすぐすぎる物言いに、そして何より自分に物怖じしないということに出来心が芽生えた。
「そんなに真実が知りたいかい?知る覚悟はあるかい?いつか、時間があるならここにきな。気が向いたら話してあげるよ。ぐずぐずしてたら空になってるよ。」
そう言って彼女は自分の家の場所を紙に書き、渡した。あの少女は嬉しそうに受け取り、即座にしまっていた。クラリスは紙を渡すとすぐに、先ほどのようにさっさと帰っていった。
–あとがき–
趣味と息抜きは大切。
誤字とか改善点があれば教えてください。