【4】
「苑子、おめでとう。すごくきれいよ。それに、こんな素敵な洋館でお式なんて羨ましいわ。優しそうな旦那様と末永くお幸せにね」
他の友人たちと時間をずらして一人で訪ねた、挙式前の控室。
もうすっかり苑子の花嫁支度は完成しており、式が始まるのを待つばかりの今はスタッフも付き添ってはいないらしい。
時間になり係が呼びに来るまでは、他の訪問者がない限り二人で話せる。
見え見えの作り笑顔で、めぐみは心にもない祝福の言葉を吐いた。苑子と理久の幸せなど願うはずもない。
めぐみ自身、わざとらしくて辟易するほどだった。
けれど、これくらい許されてもいいのではないか? ここで喚いて暴れないだけ感謝してほしいとさえ感じる。
あくまでも、めぐみのなけなしのプライドを守るためではあるのだが。
「……でも、せっかくのオーダーメイドなのに残念だったわねぇ。もちろんそのドレスとベールも本当に素敵だけど!」
さりげなく、心配する素振りで切り出す。
新しいドレスは無事間に合ったようだ。
本来ならサイズ直しはもっと日数の掛かるところを、理久の母が全力で急がせたのだと察せられた。
前の豪奢なものと比べればかなりシンプルだが、顧客の好みやサイズに合わせて作られたオーダーメイドとは根本的に違うのだから仕方がない。
めぐみからしたら到底手の届かないような高価なドレスでも、苑子や義母になった女にとっては『たかが既製品』に過ぎないのだ。
量産品を身に着けざるを得ない花嫁など、さぞや屈辱に違いなかった。
それだけでも溜飲が下がるというものだ。
気遣うような声音で告げながら、めぐみは嘲笑が漏れそうになるのをどうにか堪える。
なのに。
「ううん、いいのよ。あのドレス、お義母様のお好みでわたしの趣味とは少し違ったから。別にそれくらい合わせても構わなかったし、気にしてはいなかったんだけど」
普段と何も変わらない素直な声で苑子が話し出した。
「いま着てるドレスの方がずっと気に入ってるから嬉しいわ。ありがとう、めぐみちゃん」
表向きのものではない本心からの無邪気な笑顔に突き落とされる。
……知っていたのか!?
気づいていたのに何も口にしなかったのは何故?
その身に纏うドレスを選んだ際、めぐみに何度も意見を求めた彼女。いったいどういう心境だったというのだろう。
まさか理久のことも……?
いや。むしろ苑子の家が結婚相手について何も調べないわけがない。理久への憎悪のあまり目が曇って、そこまで考えが至らなかった。
大したことではないから。『大事なお友達』だから。
──敵にすらならないから?
いちいち目くじらを立てる必要もないということか。
この友人はいつもそうだった。決して振りではなく、鷹揚な気持ちで流してくれる。
どす黒く染まっためぐみの卑小な心のうちなど、眩いほどの白さで覆い隠してしまう。
──あたしの中の『黒』はどれだけ隠そうとしても絶対に消えやしないけど、その前に苑子の無垢な輝きの陰で見つけてさえ貰えない。
~END~