光闇戦線3
三、修行
光雅、壱樹、依采は修行場に向かった。
「昨日は助けてくれてありがとな!」
光雅は修行場に向かう途中、もう一度壱樹にお礼をいった。
「昨日聞いた」
壱樹は光雅の方を振り向きもせず、そう言い、光雅たちの前を歩き続けた。
「壱樹くん、新入生だよ?優しくしなきゃ」
依采は壱樹にそう言ったが、壱樹は返事をしなかった。
「相変わらずそっけない…。あ、光雅くんはどんな能力持ってるの?」
「能力?」
「え、能力ないの?どうやって闇獣倒してたの?」
「いや、普通に光の球作って当ててただけだけど」
「へぇ。基礎的なことはできるんだ」
「これが基礎的なことなのか?」
「そのことも知らないのか。確かに和勝先生、壱樹くんに基礎的なことでいいから教えろって言ってたもんね」
「聖さんたちの能力は何なの?」
「私はね、『再生光』っていう傷を癒す能力。壱樹くんは『闇躁光』っていう闇獣を従わせる力があるの。あ、ていうか依采でいいよー。実は聖っていう苗字の人、この学校の関係者に多いから。まあ、壱樹くんは全然名前で呼んでくれないんだけど」
「何で聖って苗字の人が多いの?」
「五大光家って知らない?神が最初に力を与えた5人の男の家系なんだけど」
「ああ〜、知ってる」
光雅は拾った絵本の内容を思い出しながら言った。
「その五つの家系が、聖家、龍福家、二条家、宗方家、東雲家だから聖って苗字が学校の関係者に多いんだよ」
「同じ苗字が多いなら分かりにくいじゃん。何で名前で呼ばないの?」
光雅は壱樹に問いかけた。
「同じ苗字が多いなら苗字で呼べば覚えるの少なくて済むだろ」
「え!?もしかして私名前覚えられてない?酷っ!ねーさすがに覚えてるよねー、名前で呼んでみてよー!」
依采はそう言ったが、壱樹から反応はなかった。
「もー、壱樹くんって思いやりと歩み寄りが足りないよね。さっきも和勝先生怒らせてたし」
「俺もそれは思った。2人の関係はよく知らないけど、あんまり怒らせること言わない方がいいんじゃね?」
「そうだよ。和勝先生が偉零先生のこと大切にしてるの知ってるでしょ?2人ともすごく仲がいいんだから」
「本当にそうか?」
「え?」
光雅と依采は和勝の言葉に驚いた。
「本当に和勝は偉零のことが大切なのか?」
「大切にしてるでしょ。さっき壱樹くんに和勝先生が怒ったのは偉零先生を馬鹿にしたからだよ?」
「新野はともかく、聖は偉零がどんだけ弱いか知ってるだろ?弱いのに戦ったら死ぬだけだ。死んでほしくないなら戦わせない方がいい」
「じゃあ壱樹も偉零先生のことが大切だからあんなこと言ったってことか?」
「いや、大切というか…死んだら困るってだけだ」
「あ、そういえば和勝先生と偉零先生のことは名前で呼ぶんだねー。何で?」
「うるさかったからだ」
「うるさかったから?」
依采の質問に対する壱樹の返答の意味が分からず、光雅は聞き返した。
「頭の中で、その名前が」
またよく分からない返答に2人は揃って首を傾げた。
「どういうこと?どういう意味なのそれ?」
依采はそう聞いたが、壱樹からの返答はもうなかった。依采はしばらく壱樹に何回か質問をしていたが、壱樹はもう反応を返してくれなくなっていた。
「あ、そういえばちょっと気になったんだけど、5人の男が闇獣を倒すために力を子孫に受け継いでいったって拾った本に書いてあったけど、俺も実はその子孫だから光力が使えるってこと?」
光雅は壱樹にはどうしてもいえないことがあるのだと思い、壱樹から気を逸らすために依采に問いかけた。
「光雅くんはね、突然変異型なの。五つの家系じゃなくても光力を使える人がたまに生まれてきてね、そういう人たちを突然変異型って呼んでるの」
「なるほど」
「着いたぞ」
しばらく話しているうちに修行場に着いたようだ。壱樹と依采が部屋に入って行ったのに続いて光雅も修行場に入った。
「まず新野がどこまでやれるのか知りたい。紺丹、出てこい」
壱樹がそういうと、先程の班のメンバーが集まっていた部屋にいた小狐が出てきた。紺丹と呼ばれた狐が一声鳴くと、光雅と依采の足元に大きな黒い穴が現れた。光雅と依采はその穴に落ちて行った。光雅は驚いて思わず目を瞑った。
「光雅くん、着いたよ」
依采の声に光雅は目を開けた。目の前に広がったのは修行場ではなく薄暗い森の中だった。
「なんだ?ここ。景色が変わってる!」
「壱樹くんの闇獣がつくりだした空間だよ。あ、あそこ、闇獣が出てきた」
依采が言った通り木の影から闇獣が出てきた。その闇獣は昨日会った狼のような闇獣だった。
「あ、こいつ昨日あったやつだ。俺こいつに殺されかけたんだけど」
「その闇獣はもう僕が支配した闇獣、浪亜だ。怪我はするかもしれないけど、殺されることはないから安心して戦ってくれ」
壱樹の姿は見えないが、どこからか壱樹の声が聞こえてきた。
「え、近くに壱樹いるのか?」
「ううん。多分いないよ。壱樹くんはこの空間の外から話してるんだと思う。とりあえず光雅くん、攻撃してみてよ」
「おう」
光雅はいつも闇獣を倒していた時のように小さな光の球体を作って浪亜に放った。球体は浪亜にポンっと当たった。今回は避けられなかったが、全く効いていないようだった。
「弱っ」
依采は思わずそう言った。
「仕方ないだろ!あんなにでかい闇獣会ったことないし!」
「え、ただのC級闇獣だよ」
「C級ってなんだよ。俺が倒してきたのは虫みたいな姿のやつだけだよ」
「それD級。すっごく弱いやつだよ」
「闇獣って何級とかあんのかよ」
「まあそれは後で説明するね。とりあえずあの闇獣を倒さなきゃ。私はあんまり攻撃に向いてる能力じゃないから、光雅くんに頑張ってもらわないと困るんだけど」
「えーどーすりゃいいんだよ」
「新野、光力を腕に纏わせることはできるか?」
壱樹の声が聞こえた。
「纏わせる?」
「纏わせたいところに意識を集中したら割と簡単にできるよ」
依采にそう言われたので、光雅は拳に意識を集中した。光雅の拳が金色に光った。
「お、できてるじゃん!それで浪亜を殴ってみて」
依采に言われた通り、光雅は浪亜を思いっきり殴った。甲賀の拳が当たった浪亜の体の一部に大きな穴が空いた。
「すごっ!さっきは光粒が少なすぎるかもって心配になったけど、今の攻撃すごいよ!光粒めっちゃあるんじゃない!?」
依采は見たことがないほどすごい威力だったのか、すごいすごいと騒いでいる。
「光粒?ってなに?」
「それも後で説明する」
光雅はまた知らない言葉が出てきたので聞いたが、これも後回しにされてしまった。
(さっきの球体に比べてこっちはこの威力…予想通り身体が光でできてるみたいだな)
空間の外から中の様子を見ていた壱樹はそう思った。
「とりあえず今のはすごかったんだよな!この調子で殴りまくってあの狼倒すぜ!」
うまくいったことで自信が湧いてきた光雅は闇獣を殴りまくった。後一発で倒せる、と光雅が思ったとき、闇獣が姿を消した。
「あれ?消えた」
「倒されたら二度と使えなくなるからそうなる前に戻した」
倒そうと思った闇獣が消えたことに驚いている光雅に壱樹が説明した。
「これが壱樹の能力の『闇躁光』ってやつか。闇獣を従わせる能力だっけ?」
光雅は修行場に着くまでに依采が話してくれたことを思い出しながら言った。
「まあ従わせる以外にも色々できるけど、説明は面倒だからしない」
「えーちょっと気になるんだけど」
光雅はそう言ったが、壱樹に話す気はなさそうだった。
「紺丹、能力を解除しろ」
壱樹がそういうと、紺丹が「コン」となき、森だった景色が修行場に戻った。
「さっき光雅くんが聞いてたことについて説明するね。えーっとねーまず闇獣は獣型と人型がいて、人間の姿をしていないやつは全部獣型なんだけど、獣型の闇獣は意思があんまりなくて、誰も見たことないんだけどいることは確かな魔王ってやつに従ってるらしいよ。獣型の中で階級が分けられててAが1番強くてDが1番弱い。意思があって会話もできる人間の姿をしたのが人型の闇獣なんだけどその中でも階級が分けられててAが1番強くてCが1番弱い。基本的に獣型より人型が強いんだけど、獣型のAと人型のCは同じぐらいかな。闇獣のことは大体わかった?」
「おう」
「じゃ次は光粒のことなんだけど、光力を生み出してる核みたいなものが能力者の魂にはあるの。その核の中にあるのが光粒っていうやつでその光粒の量で光力の強さが決まるんだよ」
「へぇ、じゃあ俺の魂にも光力の核があるのか」
「いや、それなんだけどお前の場合は…」
「え?俺は違うのか?」
「いや、えっと説明めんどくさいし話していいのかもわからないから和勝に聞いてくれ」
「壱樹ってめんどくさがりだよな。あ、そういえば聞きたかったんだけど、俺、球体放つやつは上手くなれないのか?遠距離攻撃もできるようになりたいんだけど」
「普通は何回もやってたら核にある光粒の量にもよるけど、より多くの光粒を核から送り出されるようになって威力も上がっていくだ、普通は」
「え、俺、普通じゃないの?」
「ずっと闇獣を倒して生きてきたんだろ?それであの威力はおかしい」
「…まあ確かに」
「とりあえず3日間球体を作りまくってそれでも強くならなかったら和勝のところに行ってくれ」
「え?また和勝先生頼り?」
「和勝の方が俺より発想力があるから俺よりいいアドバイスくれると思う」
「あー確かに!和勝先生は天才だからねー。和勝先生のとこ行くのいいと思う!」
依采にも勧められたので、光雅は壱樹の言った通りにしようと思った。
「あ、私、今日お父さんに『再生光』の修行つけてもらうんだった!私、もう家に帰るねー」
「え、学校ってそんなに自由きくもんなの?」
「この学校は特別だからねー。じゃーねー」
そう言って依采は修行場を出て行った。
「俺らはこれからどうすんの?」
「僕は一回部屋に帰る。昼前に任務があるからそれまで休憩したい」
「え?任務あんの?俺も行ってみたい。どんなのか見てみたい」
「まあ見るだけならいいけど」
「よっしゃ。お前の部屋どこ?時間になったらいくよ」
「新野の部屋の階段を挟んで隣だった気がする。11時になったら来てくれ。インターホン鳴らせば出るから」
「おっけー」
2人は修行場から出て寮の方へ向かった。それぞれの部屋が近づいてきたところで、
「部屋ここだから」
と、壱樹が自分の部屋を指差して言った。
「了解!11時になったらいくな!」
光雅はそう言って壱樹と一旦別れ、自分の部屋に入った。