光闇戦線2
ニ、仲間
―光雅が目を開けると、あの金色の世界が広がっていた。
「ごめんね」
不意にあの金髪の女の人の声が聞こえた。いつのまにか光雅は女の人に抱きしめられていた。
「1人にしてごめんね」
女はまた謝った。
光雅は森でのことか、と思った。光雅はたしかに1人で、初めて人間にあったときは嬉しく思ったが、別にそこまで辛いと思ったことはなかった。
「ごめんね」
女は謝り続けている。
「俺は別に…」
光雅は女の人の謝罪を止めようと声をかけた瞬間、視界がぼやけ、意識が遠くなった。―
トン、トン、とドアを叩く音が聞こえる。その音で光雅は目を覚ました。さっきのは夢だったのか、と光雅が不思議に思ってると、トントン、とまたドアを叩く音が聞こえる。光雅はベッドを降り、ドアを開けた。開けた先には龍福和勝がいた。
「お、準備満タンじゃねぇか」
「準備満タン?」
光雅は、今起きたとこだぞ、と思い、準備満タンといった意味がわからなかった。
「お前、もう制服着てるじゃねぇか」
光雅が昨日手に取った新しい服は制服だったようだ。
「これもしかしてただの服じゃなかった?」
「ただの服だと思ったのか?」
「うん。着替えかと思って昨日これ着て寝たよ」
光雅がそういうと和勝は大笑いした。
「制服で寝るなんて、次の日遅刻しそうな時しかしたことねぇよ。今日そんなに早くねぇだろ」
和勝は笑いながらそういった。
「まあ、顔とか洗って準備できたら出てきてくれ」
和勝はそう言ってドアを閉めた。光雅は和勝が言っていた通り顔を洗った。準備といってもそんなにすることがなかったので、すぐに部屋から出ようとした。部屋を出る前、ふと目に入った時計を見た。時計は五時を指していた。
「十分早いじゃんか」
光雅はそうつぶやいたが、何故初めて時計を見た自分が早いと思ったのかは謎だった。そんなことはどうでもいいか、と思い、ドアを開けた。
「和勝さん、準備できたよ」
「お、終わったか。思ったより早かったな。俺はこれからお前の先生だ。俺のことは先生と呼べ。まあ、あのクソガキは俺のことを先生と呼ぼうとしねぇがな」
和勝はそう言って歩き出した。和勝は「クソガキ」をかなり嫌悪しているようだ。そんな声色でクソガキといった。光雅は昨日の偉零の話を思い出した。
「先生、クソガキって壱樹のこと?」
「ああそうだ。まあ俺もあんなクソガキを生徒だなんて思ったことねぇけどな。俺はあいつが嫌いなんだ」
「そ、そうなんだ」
これは偉零が言っていたように大変になるかもしれない、と光雅は思った。
しばらく歩いたところで、和勝は足を止めた。目の前には大きな扉がある。和勝はそれを開いた。扉の向こうを見ると、部屋の真ん中には大きなテーブルがあり、三つの3人用のソファがテーブルの周りに置いてある。そのソファに座って見える位置に大きなテレビが置いてある。テレビを正面から見えるソファには昨日会った壱樹という少年と狐のような姿をした闇獣を挟んで桃色の髪をした少女が闇獣を撫でながら座っていた。部屋の奥側のソファにはパーカーのフードを被った黒髪の少年と水色の長い髪の少女が座って話している。大きなテーブルとその周りのソファの奥にはまた小さなテーブルがあり、そのテーブルでは白髪の少年と坊主の少年、金髪の少女がトランプをして盛り上がっている。
「偉零はまだきてないのか…まあいいや、お前ら!新人をつれてきた!こいつは昨日…」
「あーっ!!またババ引いたのじゃ!くそー!全然勝てん!」
和勝が言いかけた言葉を金髪の少女が遮った。
「ははっ!弱ぇな真歩乃!」
坊主の少年が金髪の少女を煽っている。だが、坊主の少年の手にもトランプがあるので、まだ上がれていないようだった。
「真歩乃は顔に出るからねー」
白髪の少年が少し真歩乃に呆れたような顔で言った。
「くそー!もう一回なのじゃ!」
トランプの勝負はまだついていなかったが、少女はやり直さなかったのかテーブルの真ん中にあるトランプの山に自分の手にあるトランプを混ぜてしまった。他の2人も勝負をやり直すことに文句がなかったのか、少女の行動を咎めなかった。
「おい、三年!ちょっと黙れ」
和勝は怒鳴ったが、3年は聞く耳を持たず騒いでいる。
(とんでもない先輩だな…)
光雅はそう思った。
「とんでもない先輩でごめんね」
急に白髪の少年が光雅に言った。
「えっ!?」
光雅は気づかず声に出していたのかと思い、驚いて声を上げた。
「あ、やっぱりそう思ってた?そんな気がしたんだよねー」
白髪の少年はニコニコ笑いながら言った。光雅がここにいてから白髪の少年はずっと笑顔だった。
「もしかしてそいつが先生の言ってた新人か!?はやく紹介しろよー先生!」
坊主の男がそう言った。
「お前らがうるさいからだろ」
和勝が低い声で言った。
「まあいいや。こいつが新人の新野光雅だ。一年から順番に自己紹介していけ」
「はーい!私は依采!聖依采!
よろしくね〜」
狐の闇獣を撫でていた少女が言った。
「昨日もあったけど、二条壱樹だ。よろしく」
「2年の鳳右大です…。よろしく…。」
フードを被った少年が言った。
「同じく2年の宗方左紀です」
紺色の長い髪の少女が言った。
「三年の穂墨宝です。さっきは驚かせてごめんねー。3年はみんな馬鹿だからこれから迷惑かけるけどよろしくねー」
白髪の少年が言った。
「何!?だれが馬鹿じゃ!わたしは賢いぞ!」
金髪の少女が言った。
「そうだぞ!俺は強いからな!」
坊主の男も言った。
(坊主の人は話が違う気がする…)
光雅は騒がし過ぎる3年を見て、呆れてしまった。
「はぁ、坊主のやつは早瀬田雷騎、金髪のやつは竜村真歩乃だ」
和勝がため息をつきながらいまだに騒いでいる3年の代わりに紹介した。そして3年に、
「三年!お前らはもう任務に行け!」
と指示を出した。
「「「りょーかい!」」」
3年は返事をして出て行った。
「3年生は…相変わらずだな…」
「ですよね。先輩ですけど、少し呆れます」
右大が呟き、左紀も同意した。
「左紀、右大、お前ら今日は偉零と授業だったよな?偉零はどこ言った?任務か?」
「あの人が1人で任務とか危険だろ」
壱樹がそういった瞬間、部屋の中が静まり返った。
「はぁ?お前あいつを馬鹿にしてるのか?」
「馬鹿にしてるというか事実だろ」
「お前ッ」
和勝と壱樹の喧嘩が始まってしまった。和勝は壱樹に近づき、胸ぐらを掴んだ。2年の2人が喧嘩を止めようと動いたとき、勢いよく扉が開かれた。
「悪い!遅くなった!」
部屋に入ってきたのは偉零だった。和勝は壱樹の胸ぐらを離し、扉のそばにいる偉零の方を見た。
「偉零、どこにいってたんだよ」
和勝は偉零に遅刻の原因を聞いた。
「いや、ちょっと寝坊して」
「お前、たまにあるよな、気をつけろよ」
和勝と壱樹の喧嘩を途中で終わらすことができたので、和勝、壱樹、偉零以外は胸を撫で下ろした。和勝は偉零に遅刻の注意をした後、振り向き、光雅たち生徒の方を見た。
「今日、1年は修行場で3人で修行だ。光雅がどこまで光力を使えるのか知りてぇしな。お前に頼むのは癪だが、光雅のレベルを見ていろいろ教えてやってくれ、壱樹。光力に関する知識はあんまりねぇみてぇだしな」
「俺は基本的なことしか教えられないけどいいのか?」
「今はとりあえずそれでいい」
「…わかった」
そう言い、壱樹は部屋を出て行こうとした。依采もそれに続いたので、光雅も2人についていく。
「あ、忘れるところだった!光雅!」
和勝に呼び止められたので、光雅は振り向いて和勝の方を見る。
「光神高校は学年やクラスで分けられていない。班で分けられている。お前はもう和勝班の仲間だ。これからよろしくな!」
和勝に笑顔でそう言われ、光雅も笑顔を浮かべる。
「おう!」
光雅は元気よく頷いた。