光闇戦線15
十五、強敵
壱樹は獣型A級の闇獣を難なく倒していた。ふぅ、と一息つき、光雅たちのところへ向かおうとした瞬間、背後に唯ならぬ気配を感じた。壱樹が振り向くと、一人の男が立っている。
「久しぶりだな」
男が壱樹に言った。
(久しぶり?会ったことあったか?)
「お前をずっと殺したいと思ってたよ。忌々しい闇の力を持たぬ人間との繋がり…」
(何の話だ?)
壱樹は男の言葉の意味を頭の中で考えるが、男から発せられる凄まじい気配に男に問いかけることはできなかった。男が僅かに指を動かした。すると、壱樹の方に斬撃が飛んできた。壱樹は攻撃を完全に捉えることはできなかったが、反射的にそれをかわした。
「うわぁぁぁ!」
「光雅くん!」
後ろで叫び声が聞こえたので、壱樹が後ろを見ると、光雅と依采がいた。光雅は先程の敵の攻撃で足が切れたようで、座り込んで足を押さえている。依采がそれを見て怪我を治そうと光雅に駆け寄っている。男がまた指を動かすと、光雅と依采の方に斬撃が飛んできた。しかし、その斬撃は二人に当たることはなく、亀の姿をした闇獣が防いでいた。
「羅甲、よくやった。新野、聖!和勝はどこにいる?」
「えっ?和勝先生?どこにいるんだろう?」
依采が少し震えた声で言った。依采も敵の強さを感じ、少し怯えているようだ。
「二人は和勝を探して呼んでこい。僕じゃこいつに勝てない。勝てるとしたら和勝ぐらいだ」
「わかった!」
光雅と依采は返事をして和勝を探しに行った。
「壊龍!」
壱樹は龍の姿をした闇獣、壊龍を出した。
「壊龍、力をためてあいつに隙ができた時に一撃入れるぞ」
壱樹は壊龍にそう言った。壊龍は指示を聞き、力をためはじめる。
(壊龍は僕の闇獣の中で一番力がある。壊龍のため攻撃を当てることができたらギリ勝てるかもしれない。他の闇獣たちで隙を作らなければ)
壱樹はそう考え、狐の闇獣紺丹と狼の闇獣浪亜を出した。浪亜が男に切り掛かる。男はまた指を少し動かした。浪亜に向かって斬撃が飛び、浪亜の体が一瞬で消え去った。男はまた指を動かす。壱樹は反射的に斬撃を避けようと体を動かしたが、間に合わず、脇腹が深く切れた。壱樹が痛みでよろけているところを狙い、男がまた斬撃を繰り出した。斬撃は壱樹に当たる直前で黒い穴に吸い込まれた。この穴は紺丹の作る異空間につながっているものだ。男の背後に同じような黒い穴が空き、そこから斬撃が出てくる。それは男にあたったが、男にはあまり効いていないようだった。
(防御力も高いな。壊龍の技が当たっても倒せるかわからなくなってきたな)
「空間を作り出せるのか、便利な能力だな」
男はそう言って、様々な方向に何回も指を動かした。四方八方から斬撃が飛んでくる。壱樹は自分の反射神経と紺丹の能力を使ってそれを避ける。いくつかの斬撃が壱樹の体を掠めたが、致命傷にはならなかった。紺丹の能力で避けた斬撃は男に当たったが、男にはさっきのようにあまり効いていないようだった。
(このままじゃ隙も作れないな。あいつの力に頼るか)
「功流!」
壱樹がそう言うと、リスの姿をした小さな闇獣が出てきた。
「何だその弱そうな闇獣は。俺に勝つ気はないのか?まあ勝つことなんてできないか。俺はまだ10%ぐらいの力しか出していないからな」
「功流!紺丹の空間の中に入れ」
壱樹は功流に指示を出した。功流は言われた通りに動く。
男がまた指を動かし、壱樹に向かって斬撃を飛ばす。斬撃はまた紺丹の作る空間の穴に入った。男の背後に黒い穴が現れ、そこから斬撃が飛び出した。その斬撃に当たった男の背中が斬れた。
「何だこの威力。俺が設定した威力ではない」
男がそう言いながら振り向くと、紺丹の空間に繋がる穴の中に功流がいるのが見えた。
「そうか、さっきのリスか」
「壊龍!今だ!」
壱樹が壊龍に指示を出すと、壊龍は大きく口を開けて、その口から赤黒い光線を発射した。光線は男に当たり、大きな爆発が起こった。壱樹は攻撃を当てることはできたが、男への警戒を解くわけにはいかず、爆発の煙で見えなくなっているが、男がいた方向を見つめる。煙がだんだん晴れて、男の姿が見えた。男はダメージを受けて、多くの傷があったが、それでも余裕で立っていた。
「なかなかいい攻撃だな。だが、俺に勝てることはないだろう」
男がそう言った後、また斬撃が飛んできた。壱樹はそれに反応できず、気がつくと斬撃はすぐ目の前にあった。