91話 秘密集会
秘密の集会とか聞くと、萌えます。
繰り返し鐘が鳴った。
「それではペンを置いて。回答用紙と問題用紙を回収します」
試験官のリーリン先生の声が響いた。
ふうぅ……4月度の受講免除検定試験が終わった。今回は8科目ほど受験した。
助手の先生が回ってきたので、それぞれの用紙を渡す。
受験した学生たちは、三々五々引き上げ始める。
今回は得意でない歴史があったけど、一般の歴史ではなくて魔術の技術史だったので、さほど苦労しなかった。結構手応えがある。
それから1年生の検定受験生も増えた。いくつかの試験会場で、オデットさんやバルバラさんの姿を見掛けたな。この科目は居なかったようだけど。
ん?
ルイーダ先生が近付いて来た。
「今日は……元気そうね? レオン君」
そういえば、この前の最後の試験の後で、気遣ってもらったんだった。
当日はともかく、あらためてちゃんと礼を言っていなかったしな。
立ち上がる。
「はい。前回の検定試験の時は、ありがとうございました」
「今日はふらついていないし、大丈夫そうね。あの時は心配したのよ」
「すみません。実はあの後に2日間寝込みまして、下宿の方々に迷惑を掛けました」
「まあ! そうでしょう。若いからといって無理はだめよ」
「はい。反省しています」
ん? 頭に浮かんだ四当五落という言葉はなんだろう? 怜央の知識か?
「よろしい。今回はちゃんと改善が見られますね。ただ……」
なんだ?
「何だか、わたしの受け持ち授業ばかり検定を受けているようで、引っかかるけれど」
「えっ? いや。そんなことは」
ルイーダ先生は、言語系と紋章解読の科目を担当されている。古代エルフ語について、前回は入門を、今回は初級を確かに受けたけど。
「ふふふ。冗談よ。まあレオン君のことは、他の先生方から聞くだけだから。前回は満点だったしね。はい。帰って良し」
「はい。失礼します」
足早に試験会場の教室を後にした。なんだか、ルイーダ先生には調子が狂うんだよなあ。
数日後、検定合格発表がされ、幸い僕は受験した全ての科目を合格した。
ディアとベルもいくつかで合格していた。
†
試験休み明けの日、3限後。
「レオン君。行くわよ」
オデットさんに呼ばれたので、重い腰を上げる。
「ああ」
彼女はしばらくは大学祭に注力すると言っていたが、同意見だ。
それを傍目で見てる男子。かわいそうにという視線と、なぜかうらやましいという視線もあるようだ。意味がわからん。
まあ、いずれにしても、君たちも学園祭が近付けば働いてもらうからな。覚えておけ。
動員するのは僕じゃなくて。
「早く!」
この人だが。
「へいへい」
連れて来られたのは、芸術学部の一角。21番建屋。
なんというか不吉な色だ。後で知ったが蔦館と呼ばれる建屋だそうだ。外周という外周が蔦が繁茂して覆われている。春になったのだから、緑の葉があっても良さそうだが、まるで枯れているように一面茶褐色だ。
蔦葛の隙間から、レンガが見えた。存在感はある建物だが、それほど大きくはない。
「レオン様……」
居たか。まあ居るよな。イザベラ先輩が出迎えてくれた。
「ありがとうね、オデットちゃん。ちゃんと連れてきてくれて」
「いえ。崇高な目的ですので」
なんだか少し仲良くなっていないか?
「こっちこっち」
廊下を進んで2部屋ばかり通り過ぎて、小さな本棚ばっかりある部屋に通された。
3人も入ると息苦しい。
「ええと」
「レオン様は、これに着替えてください」
「これって……」
服というか布だ。
「あぁ、古代エルフの衣装ですね」
オデットさんが、いい気味だと微笑しているように見えるのは、被害妄想だろうか?
絹の薄衣───によく似た、安っぽい布地だ。一方はズボン状だが、もう一方はただの長い帯で、やや透け加減だ。こんな物を男に着せて何が楽しいのか?
「着衣という条件でしたよね?」
「ちゃ、ちゃ、ちゃんと乳首は隠れるから。だいじょうぶだから」
「レオン君。男なんだから、観念して」
性別は関係ないだろ。
「上は私が着付けしますから、下だけ穿いたら呼んでください。レオン様」
「問題ない」
「いや、これをどうやって着るかを」
「問題ないから、出てください」
「へーい」
「いや、オデットさんも」
「あっ、ああ、そうね」
扉が閉まった。当然、中から施錠する。
目を瞑ると、脳内システムに画像が出てくる。エルフ族の装束ラーガね。
着ている物は下穿き以外を脱いで、白いズボン状のものを穿く。あとは上だ。帯状の布を右脇に挟んで肩から後に回して、胸上までから3周胴に巻いて、後で結ぶ。端の短い一方を後に垂らし、長い方を左肩から前に回し、端を腹の上から中へ差し込む。
最後に、サンダルに履き替えて、廊下に出た。
「ふわぁぁ……」
居合わせた──なぜか女性しか居ないが。溜息が漏れた。
「かっ、完璧な着こなしだわ、なんで? あの民族衣装を着たことあるのかしら?」
「細いのに意外に筋肉が」
「男って本当なの?」
つぶやきがいくつも聞こえるが無視だ。
「ああぁぁ先輩。描くのはここじゃないですよね?」
「すっ、すみません。こちらです」
廊下を挟んだ教室に入る。
「わぁぁぁ」
変な歓声が上がる。
中央に画架が並び、その前に台に乗った石膏の胸像が鎮座している。
そして、女子学生が7名ほど。やはり男子はいない。まあわかって居たけどね。
それと……
「ルイーダ先生?」
さらに、もう1人知らない女性の教員が居た。どうなっているんだ?
「イザベラさん」
「はっ、はい!」
先輩が、そちらへ歩いて行く。
「あなたが首謀者と訊いていますが?」
「そっ、そうですが。先生方……この会は、授業とは関係ないのですが。なぜここへ?」
「こちらの魔導学部のルイーダ先生から、こちらでいかがわしい会が……」
「いかがわしい?!」
「そのような会が行われるかもしれないと、情報をいただいたので来てみましたが、そうなのですか?」
「とっ、とんでもない。聖神に誓ってそのようなことはありません。こっ、こちらの魔導学部のレオンさ……レオン君をモデルに招いて素描をする会です」
「そうですか。まあ、エルフの装束ですか。モデルの衣装としてはぎりぎりですかね」
「はっ、はい」
「では、私たちの席も用意してもらえるかしら?」
「えっ、同席されるのですか?」
「何か問題でも?」
「いっ、いえ。わかりました」
あわてて、椅子を運び込んでいる
誰かが、ルイーダ先生に密告したのか? まあ、横で全く動じていない。このオデットさんが臭いな。
「では始めてください」
「じゃ、じゃあ、レオン君は、この石膏像の左横に立って」
はいはい。像は、巻毛の男性胸像だ。
「右腕を、像の頭に巻き付けるように。そっそう。そんな感じです」
「「「はぁぁ……」」」
この状況、何が楽しいんだ?
しかし、皆がキャンバスを画架におくと、呆けていたような表情が引き締まった。
誰もしゃべらず。ある者は鉛筆を、またある者は木炭を画面の上で動かし始めた。
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訂正履歴
2024/03/27 少々加筆,誤字脱字訂正
2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)