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82話 研究計画説明会

プレゼンテーションに必要なものは強気な態度です!(汗)

 あっと言う間に木曜日となった。3限目。

 

 カーテンを閉め切って、薄暗くなった教室。

 学科長、ジラー先生、さらにリーリン先生が前列に、後列には講師の先生が何人か並ぶ中、僕は少し緊張している。


 投影魔道具も不快だ。

 紙などの原稿に、強烈な光を当て反射光を投影する魔道具だ。原稿に書いた文字や描いた図形が、壁際の反射幕に拡大されて映し出される。


 光の増幅ができれば良いのだが、現実は減衰する分を前もって光源強化する方向で実現している。よって原稿は幕で覆われた1面を除いて三方を板で箱で覆われている。原稿の交換時は一時的に減光するが目に余り良くはない。


「レオン君。では投影魔道具を使って10分ぐらいで概要を説明してください。そのあと質疑、学科長からの講評をいただきます。準備が良ければ始めてください」

 リヒャルト先生が司会してくれる。


「はい。お時間をいただきまして、ありがとうございます」

 説明しろと命じられたが、そう言うのが礼儀だ。


「お手元にある概要の複写に沿って、説明いたします。まず研究の背景ですが……」

 何だ?

 横の扉がノックされた。


「レオン君、ちょっと待って」

 話の腰を折られたが、佳境に行く前でよかった、そう思おう。近くにいた、リヒャルト先生が寄っていって扉を開ける。


 うわっ!

「学部長」

「もう始まったかね?」


「レオン君の研究計画説明会であれば、たった今始まったところです」

「それそれ。私も聞かせてもらって良いかな? 別に承認については口は出さないからさ」

 拒否されることはないと確信しているのだろう。学部長は、ずかずかと中に入ってきた。


「もちろんです。こちらへどうぞ」

「後ろで良いよ」

 学科長の言葉を受けて、学部長は後列に座った。

 少しニヤけていて、良い見物(みもの)ができたという感じだ。結構偉い人のはずなのに、暇なんだろうか?


 まあいい。入学したての学生の話を聞いてもらうなど、滅多(めった)にないできごとだからな。前向きにとらえよう。


「それでは再開いたします。まず研究の背景です。光魔術の発光原理は、高温物体が放つもの……」

 軽く類例を交えて、原理の種類を説明する。

 先生方のほとんどは知っている事項だ。それでも説明するのは、学生の方もちゃんと分かってやっていますよとの表明だ。


「……最後に荷電粒子に、魔界を印加することにより発光するものがあり、これが刻印魔術に利用される光源となっています」

 順調だ。少し前半が重いか。視界の右端にある時刻表示によると、既に5分ぐらい経過している。


 原稿を交換すべく、幕内に手を突っ込んで……まぶしい。

 薄目を開けて、次の原稿を置いて、位置を定める。


「刻印魔術の課題としては、刻印の面積次元の高密度化が挙げられます。密度が上がれば、有効刻印面積が小さい魔結晶への刻印が可能となる他、大規模術式の刻印を容易とします」

 リヒャルト先生がうなずいている。


「刻印の密度を決定する要素は複数ありますが、魔導光の焦点径が大きな因子となっています。焦点径を別の物にたとえれば、ペン先の太さに相当します。つまりペン先が細いほど、より細密な図案を描くことができます。現状、まだそれ以外の部分の改善が図られて、10年あたり2倍の向上が続いていますが、早晩頭打ちになることが予測されています」

 いったん呼吸を整える。


「したがって、この研究では焦点径を縮小すること、つまり、より集光することを目指します」


 部屋を見渡したが、特に反応はない。

 出席者は、題目などからここまでの流れを予測していたのだろう。問題は……


「焦点径縮小を阻む、要因もいくつかありますが、大きくは収差(集光レンズの屈折率が光の周波数などにより異なり、一点に集束しないこと)に帰着します。魔界印加による発光では、そもそも光周波数域は狭いものの、平行な陽光とは違い光源が点光源であるため、光束の立体角が広いという難点があります。よって、研究の成否はこの収差縮小に掛かっています」


 ふう。予定してた山場は乗り越えた。原稿を交換する。


「つぎに時系列の計画ですが……」


 僕は半年の準備期間を経て、2年次から2ヵ年、つまり紀元492年8月までに研究の遂行を目指すと表明した。


「説明は以上です。ご清聴ありがとうございました」


 リヒャルト先生が前に出る。

「それでは質疑応答に移ります。ご質問のある方は、挙手をお願いします」


 早速手が上がった。

「では、ターレス先生」

「はい。大変刺激的な研究計画で感服しています。研究計画説明会としてふさわしくない質問、つまり具体性に関わる質問なのですが。まず、レオンさんは、本学で8年前まで行われていた収差改善研究に関しては、知っていますか?」


 おっと。先生は、当事者だった。


「存じ上げています。光学的収差改善が図られ、おおむね焦点径の1割から2割縮小の成果が得られたと認識しています」


「成果……最高で1割5分しか縮小できなかった、目標は5割縮小でした。しかも、刻印魔道具の重量は4倍となりました。この先研究(せんけんきゅう)を受けて、計画では、えぇぇ、光学的改善と光源改善でしたか、これによって実現可能と考えていますか? それを回答願います」


 先生方がざわついた。しかし、数秒で落ちついたところを見ると、まずは僕の思うところを聞いておこういうことだ。

 先研究に参加した教員は確か6人、学生は10人だ。それを、指導教員はともかく、僕ひとりでできるのか? そう()いているわけだ。ターレス先生の意向はどこにあるのだろう? 先研究の傷をえぐるな。つまりやめておけということだろうか?


 あまり気が進まないが、強気の態度を演じるしかないだろう。でなければ、計画の承認は得られまい。


「結論から申し上げますと。実現可能と考えています。具体的には、後者である光源の改善に頼むところが大きいのですが。実績なき計画段階で説明できるのは、ここまでです」

「光源……光源は古代エルフの遺産と知っていますよね」

「もちろんです」

 うわぁ。覚悟はしたけれど。これじゃあ、僕は周りが見えてない自信過剰の若造じゃないか。思い切りたしなめられるに違いない。


「ふふふ。これは良い」

 えっ?

「本研究計画の承認が得られた暁には、本職、ターレスはぜひ協力させていただきたく思います。ジラー先生」

「おお、そうかね」


 えっ。そっち方向? ターレス先生としては再戦したいということか。


 

「はい。ありがとうございました。他に、はい。学科長。どうぞ」

「私も、この段階の質問ではないと考えますが」

 笑いが起こるが、学科長の目は厳しいぞ。


「仮に、この研究がうまく行き、魔導光の焦点径が縮小されたとして……いや、まあそれは、それで大きな成果であろうが」

 うっ、研究の価値論か。


「魔紋の密度が上がったとしたら、困る部分もある。つまり、大魔束を流す部分を高密度にしてしまうと、魔圧耐圧が下がってしまうのは必定、つまり焦点径縮小だけで、レオン君が言った、魔結晶の改善が図れると考えていますか?」


「それは、必要に応じて刻印幅を調整……」


 しまった!!


「ほう。刻印幅を調整かね。私も言おう。それは良い。しかし、そんなことができるのかね。刻印技術に長けた、例えばジラー先生であれば、可能であろうけれども」


 まずい、まずい、まずい。

 つい。安易に言ってしまった。流量によって断面積を調整する。余りにも当たり前だからだ。


 例えば、大電流を流すプリント基板では、電流値合わせて配線幅を変えるなんてことは常識だ。しかし、それは地球における常識だ。


 線幅を調整するということは、魔紋のどこに大魔束が流れるか、分かっているという話になる。

 もちろん、脳内システムのシスラボ_シムコネ、つまりモデルベース上では、何の問題もなく分かる。シミュレーション中ではどの経路にどれだけの魔束が流れているかは、そこにモニターを付ければ見ることができる。


 いや、見なくても刻印魔術モジュールのEngrave(エン) Studio(スタ)が、勝手に最適化して、刻印線幅を的確に決めてくれるのだ。


 まずいのは、なんでそんなことができるのかだ。

 脳内システムを使っていますから、などとは───

 背中をじっとりを汗が伝う。

 なんて答えよう。


「ああ……」

 えっ?

 ジラー先生。


「学科長が仰ったように、私ならば……刻印に慣れた者ならば、大体は分かる。それが、レオン君に果たしてできるか? そういうご質問ですな、学科長」

「ええ、その通りです」


「ならば、話は早い。レオン君、これを」

「これ?」

 声を絞り出す。

 

 よく分からなかったが、ジラー先生に寄っていって、小さな塊を受け取る。


「これは、私が提出した……」

「そう。君が、10月の最初の授業で作った魔石だよ。起動してみたまえ。自分が作った物なら、起動できるだろう」

「はい」

 魔力を充填(じゅうてん)

 魔石が光を放ち始めた。

 薄暗い教室に、光が断続する。


「さて、もう良いだろう。発光を停止して、投影魔道具に乗せてくれ。ああ、魔紋が見えるように原稿の白い部分の上にな」

 言われた通りにして、魔道具を調整して()けて見える魔石に焦点を合わせる。

 表示幕に、魔紋が拡大して映し出された。


「おおう!?」

 先生方が響めいた。


「どうです、綺麗でしょう? でも機械刻印ではない。それは、客員教授、いや、ジラー工房魔導匠の名にかけて、レオン君が手動で刻印した物と申し上げる。それはともかく、ご覧の通り刻印線幅は見事なまで調整されている。つまり彼ならば、できると証明になると考えますが」


「確かに、一目瞭然ですな。私の質問は目的を達しました」


     †


 カーテンを開けて、陽光が教室に戻る。


「ジラー先生。ありがとうございました。なんとか計画の承認が得られました」

 説明会は、なんとか成功()に終了した。エンスタの機能のおかげだけど。


「ははっ、学科長の無用な心配は払拭(ふっしょく)しておくべきだろう」

「それにしても、先生」

「何だね。リヒャルト君」


「よく、あの魔石を持ってらっしゃいましたね」

「ん? うむ。何か言われたら、あの魔石を見せて黙らそうと思っていただけだ」

 げっ!


「ターレス先生ではありませんが。感服しました」

 まったくだ。


「ふむ。リヒャルト君。後の手続きは、よろしくな」

「はい」


「よろしくお願いします」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2024/03/06 わずかに加筆

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― 新着の感想 ―
その昔、フレネルゾーンプレートの実験データ収集やらされてたの思い出しました。 レンズで集光できない波長域において、レンズの代わりになる奴です。 あれ?思い出したら、なんか胃がいたk…(;_;
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