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71話 南東の森の魔獣狩り(2)

1回落葉樹のでかい森へ冬場に行ってみたい。

 スペリオール(上級者)の2人組。ハーコンとグリフィスの後について、ギルドの北西拠点を出る。


「まだこの辺はアルミラージに毛の生えたぐらいの魔獣しか出ないから心配ない」

「まあ出てきても、このハーコン様が(たお)すがな。あっははは」

 それは頼もしいことで。


 そう言ったハーコンは剣士(セイバー)か、見たこともない大剣を持っている。拠点を出るときに魔導カバンから出したのだ。刃渡りは120セルメト(≒cm)はある。俺なら持ち上げることはできるだろうが、身体強化魔術を発動しなければ揮うことは無理だ。まあ彼なら、筋肉隆々だし。


 もう1人のグリフィスは、ショートソードを腰に付け、弓を背負っている。どっちが主武器かわからないが、おそらく射手(アーチャー)だろう。

 こちらも、僕よりはごついが、鍛え抜かれた身のこなしで、さすがはスペリオールと呼ばれるだけことはありそうだ。


「こっちだ」

 しばらく南東に歩いていたが、上り勾配に変わる。道らしかった地面が柔らかくなり、徐々に木々に挟まれるようになってきた。


「この辺りは、どんな魔獣が出るんだ?」

「そうだな。灰猪(アーシュ・ボア)がほとんどで、まれに一角山羊(モノケロース)だな」

「そうなのか」

 灰猪は、この前ギルドで彼らが査定に出していたやつだ。一角山羊の方は、エミリアの近くで斃したな。


「灰猪の買取価格が高い部位は? 魔結晶以外で」

「高いのは牙だな」

「あとは、肉だな。高級食肉だ」

「へえ」


「ああ、ひとつ良いか?」

 グリフィスだ。

「なんだ?」

「その口の利き方だ。ああ、勘違いするな。俺たちに敬意を払えとか、そういう意味じゃない」

 ふむ。


「レオン。普段はそんな口調じゃないだろう?」

「むぅ」

「冒険者に()められないように、わざと荒いしゃべり方をしろとか誰かに言われたか?」

 ぎごちなかったか。


「へえ。そうだったのか。気が付かなかった」

 ハーコンは脳天気らしい。


「そんなところだ。改める気はない」

「まあ、レオンがそれでいいなら構わんが」

「俺たち、冒険者の間では普通だからな」

 そのうちこの口調も慣れるだろう。


 あのことも訊いてみるか。

「俺からも訊きたいことがあるんだが」

「なんだ。俺のことならなんでも訊いてくれ」

「ははっ。ハーコンは。そのうちにわかるが、良いヤツなんだ。俺が組んでいるくらいだからな。ただ、少し頭がな」

「うんうん。おい! グリフィス!」

「それで、訊きたいことはなんだ?」


「ギルドのヘルマンさんのことだ。冒険者はほぼ全員が信頼しているようだが?」

 この2人も彼はうそを()かないとか言っていた。


「ヘルマンさんな」

「うん。ギルドの買取係なんて信用の塊みたいな職業だ。信用がなければ、解体作業を冒険者がずっと見てなきゃならない」

 そうだな。

 実は高価な魔結晶がでてきても、冒険者には大したことなかったと言って、その差額をギルドがもうけるとかありうるからな。


「それに。ヘルマンさんは特別だ」

 ハーコンがしたり顔でうなずく。相当信頼しているようだ。


「もともとヘルマンさんは、冒険者でな。王都でも指折りのスペリオール(上級冒険者)だった。7年位前だったか?」

「へえ」

「オークメイジに囲まれた商隊を助けるために、魔術を浴びて」

「えっ!」


「で、見事12人を守り抜いたんだが。治療を受けたが障害が残ってしまったんだ」

「そうは見えないが」

 どこに障害があるんだろう。


「今はだいぶ()えたそうだが、その頃はまだな。だが、それですっぱりと冒険者稼業を引退してな、ギルド職員に成ったんだ」

「ふむ」

「だから、俺たちにはどうでも良いが、ヘルマンさんには逆らうなよ」

「ああ。ヘルマンさんは、笑って済ますかも知れないが、周りが怖いぞ」

「了解だ」

 取り巻きがいるわけだ。

 そもそも、無意味に逆らうことはないけれど。


 むっ!

「どうした、レオン」

「ハーコン、止まれ」

「ん? おっ! 獲物か」


 グリフィスに続いて、ハーコンも気が付いたか。

 樹木に遮られて見えにくいが、3体居る。


「俺が斃してよいか?」

「はっ?」

「おお。やってくれ」


アイシクル(氷尖) v0.3≫ ×3


     †


 グリフィス視点───


 レオン。生意気な少年だ。

 歳は訊いていないが17、18ぐらいだろう。


 まあ、少し前、初めてギルドで会ったときは俺は男だと言われて、うそつけ! そう思うほど、ええところのお嬢さんにしか見えないのだが。


 今日は奇遇にも南の森のギルド拠点で再会した。ジョーゼフさんによると、レオンは今日初めてこの森に来たそうだ。しかも1人で。

 なかなかむちゃをするやつだと思ったが、同行するように頼まれてしまった。ギルドとしては至極当たり前の対応だな。ハーコンが乗り気だ。以前、彼が尊敬しているヘルマンさんに、気に掛けてやってくれとか言われていたからな。


 まあそんなことを、ヘルマンさんに言わせる段階でレオンが有能であることを示している。それに、(たたず)まいが魔力が高い魔術士共通の匂いがする。

 素直に、彼自身が頼むと言ってきたので、こうして同行することになった。サーベルジャガーが出没しているし、俺としても異存はない。


 道をはずれる。ここら辺りから狩り場だ。無論危険も跳ね上がる。

 それが、この少年に分かるのだろうか。明らかに警戒感が高くなった。


 10分もたった頃。やや離れた気配が2つ。

 その時、彼も止まった。


「どうした、レオン」

 ハーコンは気付いていないのか。


「ハーコン、止まれ」

「ん? おっ! 獲物か」

 小声になった。

 魔獣も、木の向こうで息をひそめている。


「俺が斃してよいか?」

「はっ?」

 ハーコンは驚く。


「おお。やってくれ」

 お手並み拝見だ。いや、見るまでもなかった。

 瞬時に魔圧が高まったが、あっと言う間に消えうせた。


 バサッバダ……不意に枯れ葉が音を立てた。


 むっ!

 音の前に、陽光が反射したように見えたが

 一時、魔術士の素養があると言われた俺だ。


「ハーコン!」

 その音を聞きつけた相方が走っていた。勘は異常に良い。

 

 俺も、さっき光が見えた、右の別の音源へ歩み寄る。20メルばかり行ったところで、灰猪が地に()って───事切れていた。


 魔術でやったのはわかるが、派手な外傷が見つからない。


「頭部へ一撃かよ」

 ハーコンの声

 頭部? うぁ。

 魔獣の頭部をねじると、目の少し上に小指ほどの穴が開いていた。

 あっちもそうなのか。


 いやいや、いつ狙ったんだ。そんなそぶりはなかった。そもそも、そんな時間はありはしなかった。おかしいだろう。


「おい! レオン。どこへ? そっちにも」

 レオンは、ハーコンの脇を抜けて、少し南へ行ったところで立ち止まった。

 周辺には他に魔獣も居なさそうなので、俺もそちらへ行く。


 彼は、倒れた灰猪をひっくり返すと、満足そうにうなずいた。

 ありえん。

 見れば、この1体も眉間に穴が開いていた。


 弓では人後には落ちないと思っている俺だが、この精度。逆に、ここまで狙う必要があるのか? いや、確かに、これら灰猪は俺たちを警戒するため、気配を消そうと静止しては居た。たとえそうだとしても。


「一気に3体かよ。すげーな、レオン」

「いや。すごいのはそこじゃないぞ、ハーコン」


「はぁ?」

「どうやって、狙った? この灰猪は、明らかに俺たちが居た場所から、あそこの木の陰だったろ」


「俺は狙ってはいない」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2024/02/07 微妙に書き換え

2025/03/28 誤字訂正(高須こ~すけさん ありがとうございます)

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美人顔な男の娘ですね ドキドキしそうです
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