58話 初級魔道具製作(下) 講評
前作含め、本年はお世話になりました。
次回投稿は新年1月7日(日)予定しています。
佳き年をお迎えください。
「おお、2人ともできたか」
「はい」
「ぁぁぁ、はい」
作業部屋を出て、さっき座っていた教室中程の席に戻る。
「うむ、では皆で魔石のできを見よう。彼女も呼んでくれ」
リヒャルトが扉をノックすると、オデットさんが出てきて、席に着いた。
「では、どちらから」
「ああ、どうぞ。あなたの方が少し早くできたようだし」
先を譲る。
微妙な表情がいくつか入れ変わると、ジョルジ君がうなずいた。
「それで、どんな魔術を刻印したのかね?」
「かっ、風魔術です」
ふむ。
「さっそく起動してみてくれ、ジョルジ君。リヒャルト君、説明は任せる」
「はい。じゃあ、皆。付いてきてくれ」
リヒャルト先生が、教室の一角、個室が並んでない方へ歩いていくので後に続く。
なんだ? 床に半径5メト位の円が描かれている。
なんだろう? わからない。
円の中心には、高さ1メトばかりの鉄の三脚が置いてある。その上は小さな浅いカゴだ。そこへ先生が寄っていった。
「ここは、初回起動場だ。魔石の初回の起動は、安全を考慮して5メトは離れる規則になっている。それでは、ジョルジ君。この上に刻印した魔石を置いて」
うなずいて、魔石をカゴの上に置いた。
そういうことか。けっこう安全に気を使っているな。
「では、みんな。この円の外に出て。ああ、ジョルジ君も。よし。そこから起動できるのでれば、起動してみてくれ」
「はっ、はい」
ジョルジ君が三脚に向けて腕を伸ばすと、10秒ばかりかかって魔界強度が高まった。
「おっ」
「えっ、何?」
いつの間にか、隣にオデットさんが居た。
「いや。発動した」
「見ているけど、そうなの?」
「一度魔力供給を止めて」
「はい」
ジョルジ君は、長く息をはいた。魔力供給が余り得意ではないようだ。
「あのう、手で持ってやって良いですか?」
「ああ、かまわない。2回目だからな」
手で持ってやると、効率が上がったらしく、風量が増えて自分の方に向けると彼の髪がなびいた。
「うむ。成功だな」
ジラー先生が手をたたいた。
僕も同じようにしていると、ささやき声が聞こえてきた。
「あれじゃあ、自分で魔術を発動したのと変わらないじゃない」
オデットさんの方を向くと、気が付いたのか自分の口を押さえた。
「よし。次はレオン君。起動してみてくれ」
ジョルジ君が、自分の魔石を持って下がっていった。代わりにさっき作った魔石を置いた。
「いいですか?」
リヒャルト先生がうなずいたので、魔力供給魔術を発動。
「光った!」
魔石は赤く輝いた。
「えっ?」
数秒して消えた。同時に青く輝き、また消え、赤く輝いた。以後は交互点滅が連鎖している。
「ほぉお!」
ジラー先生が眉間にしわを寄せた。
「これは、おもしろい。えっ、魔力供給はやめたのですか?」
リヒャルト先生だ。
あいかわらず、青と赤の交互点滅は続いている。
「はい。魔力充填機能を付けてあります」
そう。充填が終わったので、しばらくはこのままだ。
ジョルジ君が、勢いよくこちらを向いて顔をしかめた。
制御は単純だ。
青と赤のフィラメントに、一定秒数で魔力供給を交互に切り替えているだけだ。点灯時の魔力供給は大きいが、すぐにはフィラメントが冷めないので、短い秒数で点滅させる場合は、さほどでもない。
「ふーん。理工学科に間違って来たわけじゃなさそうね」
オデットさんには、よくない先入観を持たれているようだ。
「術式は、魔灯に使われている光系魔術の組み合わせの範囲なのだろうが。それでも目新しいし、機能には感心する。ただ……レオン君、この魔石の用途はどういう」
「はい。例えば、道路通行の夜間の安全が目的のひとつです」
「夜間?」
「道路には敷石が割れたり、工事が中途となっている場所があります。夜間、魔灯などを置いて表示はしていますが、見にくいところがあります。これを複数置いてもらえば、目立って注意を引けるかなと。もちろん周知が必要ですが」
「なるほど。確かに、魔灯がずっと点灯しているよりは、遠くから見てわかりやすいでしょうね」
「注意喚起のための視認性向上ということか」
「はい」
「うむ。立派に成功したと認めよう」
ジラー先生に続き、皆が拍手してくれた。オデットさんは微妙な表情だったが。
†
終業の鐘が響き、3限目が終わった。
オデットさんは会釈して、素早く教室を後にしていった。
「ああ、レオン君。少し良いかな」
「はい」
ジラー先生に呼ばれた。
付いていくと、いったん廊下に出てしばらく歩き、準備室という部屋に入った。
壁は棚で埋め尽くされており、本やら教材であろう木箱がいっぱいに収納されている。あとは机と椅子、それに簡単な面談をするためか、低い机と木の長椅子が中央に配置されていた。
「掛けてくれ」
示された長椅子に座る。
「なにか、ご用でしょうか?」
「うむ」
背もたれに寄りかかったジラー先生は、腕組みして目をつむった。
「正直言って、君の魔石の刻印は綺麗すぎる」
「綺麗ですか」
「うむ。まるで機械刻印で作ったようにな」
おっと、EngraveStudioで刻印すると、そうなるのか。
「むろん、魔結晶はこちらで用意したものだし、どこかで刻印してきた物とすり替えたなどと疑っているわけではない」
「はい」
まずかったか。
「さらに言えば、あの短時間で魔力充填機能を組み込み、魔石を作り上げた手腕は、新入生の範疇にはない。よほど入学前に修行を積んだのだろう」
教授の後に立った、リヒャルト先生もうなずいている。
「近年の工房は機械刻印を重視していて、そういう環境に身を置くと刻印魔術を逆に軽視する傾向がある。あのオデットという彼女がどうかはわからないが」
むう。僕も刻印はエンスタでできるから、不要と思っているが。
「レオン君。君はどうかな? 生家ではなかったにせよ、工房にはよく立ち入っていたと言っていたが」
「はあ」
ふむ。偽りに身を染めると、こう返ってくるか。リオネス商会出入りの工房へ行ったのは、実際には数回だけだ。
「いやぁ、数を作る消耗品の魔結晶が大半の工房でしたので、匠と数人以外の魔導工はほぼ機械刻印に取り組んでいました」
言っていて、滅入るね。
「ふむ、それが世の流れと言えばそうだが、刻印魔術を軽視するのは危険だと考えている」
「危険ですか?」
「刻印魔導器を使えない場面もあるし、今のところ超高集積刻印はまだ人間業の方が上だ。まあ時間の問題だろうがな」
後ろを向いた。
「ああ、そうですね。10年で2倍の分解能を持っていますから。このまま行けば数十年で追い付きますね」
ふむ。このふたり。強い信頼で結ばれていそうだ。もしかしたら師弟なのかもしれない。
「それで何を言いたいかというとだ、レオン君には安易に機械刻印に傾倒しないでほしいということだ。まあ年寄りの繰り言と思ってもらって構わないが」
「ああいえ」
「ふふっ。そう、前置きをしておいて何だが、君に関しては、初級魔道具製作実技講習には出席する必要はない」
「えっ。ですが、春までは検定試験はないと聞いていますが?」
「ああ、あくまで授業に出なくて良いだけだ。課題製作してもらう必要がある。そちらに専念して貰えば良い。念のために言えば、そういう学生の前例は数例ある」
「そうですか」
「無論、何かあれば、われわれが指導もするし、手助けもするから安心してくれ。課題の内容は、リヒャルト君と相談してくれ。私からの話は以上だ」
「わかりました。よろしくお願いします」
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2023/12/30 少々表現変え
2025/04/07 誤字訂正 (シュウゴさん ありがとうございます)
2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)




