51話 合同魔術技能実習(下) レオンの出番
盲目の方が同じ方法で、定位できるそうで。
───引き続きクラウディア目線
「レオンなの?」
ベルも彼が指名されたことに気が付いた。
「理工学科7番は、実技試験1位だな。自信はあるかね?」
うわっ! ジェラルド先生。なんで言うのよ!
中尉の方を見たら、あからさまに敵意をレオンに向けている。
「いやあ。宙に浮く的は撃ったことがないので、自信はありません」
「では、的の動きをゆっくりにするかね?」
「ああ、いえ。それは結構です」
「ふん。いいだろう。準備は良いか?」
さっき中尉に撃ち落とされたが、すでに4つの土玉が宙を飛んでいる。さっきより高速じゃないだろうか?
「はっ!」
「では、開始!」
レオンはどうするつもりなのだろう。
彼は杖も構えず、口を開いた。うっすらと何か紋様が被さる。
タッタッタッ!
はっ、何? 舌打ち?
そう思った刹那、空中で破裂音が連なった。
「なっ!」
見上げると、信じられないことが目に映った。
宙が一瞬白く煙ると、高速に移動する的の4つの球体が全て割れ、崩れながら地面に落ちてきた。
「「「おおお……」」」
響めきが上がる。
「何秒だ!」
「さ、3秒です」
「くっ、ありえん! 開始の合図の前に、起動していなかったか?」
ジェラルド先生は顔を紅くして、魔導具を持った軍人に向きなおった。
「いえ。起動は、開始の合図の1秒後でした」
「むっ、むう。そうかね。わかった」
†
「ほう。今の学生には見覚えがありませんが、理工学科生ですな」
「ふふふ。そうだ、明らかに、あの軍籍学生より早かったな」
「笑い事ではありません。学部長。あっ、もしかして、面接の時に学部長が転科を……」
「圧力はかけていない。だが、事務長に止められたのは事実だ」
「いずれにしても彼なのですね。見たことがない照準方法でしたが」
「そうかね? 音波を使った魔術と見たが」
「たしかに、顔の前に現れた発動紋は、そのようにも見えましたが。確かに理工学科生にしておくには惜しい学生ですな」
「ふむ。とはいえ、すこし刺激が強かったか。彼らはどう出るか?」
†
───レオン目線
1限目が終わり、学食に来た。
今日は、肉料理の列に並ぶ。
「レオン!」
「ディアさん、ベルさん」
ディアさんは元気そうだが、ベルさんは元気がない。
「ああ、彼女は1限目から、こんな感じだ」
「ふぅむ。いやあ、レオンはすごそうだとは思っていたけれど、あそこまで完膚なきまで負かされると。複雑だわ」
「いえ。ああいうのは、後からやる方が有利ですから」
「そうかも知れないけどさ」
「うぅぅぅ」
「あぁ。ディア、かわいそう。レオンにけなされたね」
「けなしてません」
僕が試技をやったあと、7、8人が続いた。その中の1人がディアさんで、1分間では2つの的を撃ち落とした。
「でもさあ。中尉は、いい気味だったね」
「ああ、確かにね。だけど、思いっ切りレオンのことにらんでいたわよ」
うわぁ。
「高々と誇っていた鼻をポッキリ折られたから、恨んでいるかもね。ああ、私は恨むとこまで行ってないから、大丈夫よ」
「凹んでいても仕方ないし、いっぱい食べて忘れるしかないね」
2人とも、トレイにいっぱい皿を取っていた。
席について食べ始める。
「それにしてもレオンは、4つ同時にあの土の玉を撃ったわけでしょ。どうやって照準したの」
「ちょっと、術式のことを訊くのは礼儀に反するって」
「いいじゃない。同級のよしみでさ」
ふふ。ベルさんは物怖じしないな。
「別に隠す程のことでは。音で照準しました」
「音?」
「ええ、音の反響で定位できるんですよ」
「ああ、そうやって獲物を狩る鳥が居るって聞いたことがあるわ」
そう。地球でもコウモリはそうやっていると、どうやるべきか考えた時に浮かんだ。
それから、あわてて術式を組んだ。潜水艦の例題と怜央がロボットで障害物検知に超音波を使ったことがあったので、結構簡単にシムコネで制御システムを組めたけどね。
「音と言えば、試技開始の時に舌打ちしてたわよね」
「さすが、ディアさん。そうです、あの音波を使いました」
複数のピン、つまりアクティブソナーで、的の現在位置と速度と加速度を3次元で取って、運動方程式を解くことで、数瞬後の位置を予測する照準だ。
「でも、試技の前、宙に浮いた的は初めてとか言ってなかったっけ?」
「ええ。術式は知っていたんですけれど。うまく行ってほっとしました」
球体の重量は適当な推定だし、空気抵抗とか無視したからね。ほっとしたのは正直なところだ。
「ふぅん」
「それにしても、あの卒業生の方々ですが、土玉の操作はすごいですね。感心しました」
エミリアの別荘地でやりたかったのは、あれなんだよなあ。
もっと試技をやらしてほしかったなあ。
あれ? 何か呆れられている。
まあ、自分自身でも反省している。やっぱり実戦を念頭に置いても、学校行事として安易にぶっつけ本番でやってしまった。シムコネでシミュレートはしたけれど。制御技術者としてはなぁ。
おなかがすいた。話が途切れたし、いいかな
ナイフで切った肉を口へ運ぶ。旨い。
ここの学食は程度がいい。やすいし。
「はぁぁぁん」
なんだ? ベルさんが盛大に溜息を吐いた。
「レオンに引き換え、私は……」
「ベルぅ」
「いやあ、何の工夫もなくやったのはねえ。反省だわ。そうだ!」
そう言って、僕の顔をじっと見た。
「なっ、なんでしょうか?」
「レオンは博識みたいだし、私に魔術を教えてよ!」
「ちょっと、ベル!」
「でも。そういうことは、技能学科の先生に教わるべきでは」
うんうんとディアさんがうなずく。
「もちろん教わるわよ。でもね。先生は中尉にも同じことを教えるでしょ。だから出し抜くには、レオンにも教えてもらうのが良いと思うのよね」
「ああぁ! いやいや。ベル」
「何、ディア。ははん」
ベルさんは、微妙な笑いを浮かべた
「なによ」
笑いながら、何度かうなずいた。
「ディアも一緒に教わればいいんじゃない? レオンに。休みに、下宿に遊びに行くってのはどう?」
「あっ。それは良いかも」
†
あっ。
理工学科の教室がある建屋へ戻ってくると、入り口に軍籍学生が立っていた。
例の中尉だ。
ふむ。別にこちらが遠慮することはない。
彼の前を通り過ぎる。
「7番!」
僕のことらしい。
「何ですか、12番。失礼。レオンと申します」
「ふん。あんなことで勝ったと思うなよ」
「試技の時間ですか。あれは後からやる方が有利ですから」
ベルさんにも言ったことを、繰り返す。
「ふん。小賢しい」
壁を蹴って、中尉はその場を離れていった。
ふぅむ。陰にこもらないと良い方向に捉えるべきかな。
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2023/12/13 少々表現変え
2025/04/02 誤字訂正 (cdさん ありがとうございます)
2025/04/09 誤字訂正 (anri6666さん ありがとうございます)