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50話 合同魔術技能実習(上) 技能学科のエース 

50話です! ご感想とご評価をお願いします。

 大学が始まって3日目。

 少しずつ秋の気配が濃くなってきた。木々もすこしずつ黄色く色づいている。そんな周囲の景色をぼうと眺めながら屋外に居る。もうすぐ1限目が始まる時刻だが。


 僕だけじゃない。たぶん60人弱は居るだろう。

 理工学科だけでなく技能学科も併せて、魔導学部新入生のおおよそ全員が居るはずだ。

 なぜこんな所。教練場の端にある木製の号令台の前になんてところに居るかというと、合同魔術技能実習だからだ。


 理工学科にも魔術技能系の授業はある。理論だけでは魔術を把握できないし、魔道具を作るにしても魔術が使えないと支障が出るからということだ。だからといって、技能学科と合同授業にする必要があるのかという点には疑問が残る。


 んんん。

 なんだろう。辺りが気になる、違和感というか。

 たくさん学生がいるからか? 違うか。


 おっ、ディアさんとベルさんが居る。

 向こうも僕を見つけたらしく、僕に手を振ったので、僕も振り返す。なんだか視線のような物を感じていたけれど、彼女たちだったか。他に辺りを見回してみても、それらしい人影はないしな。


 1限目開始の鐘が遠くから聞こえてきた。


「全員注目!」

 そう声を発した人が、木でできた号令台に登ってきた。

 技能学科の先生らしい。


「理工学科の者は知らぬだろうから、名乗っておく。本職は、技能学科所属、特任准教授のジェラルドだ」

 立ち姿が、まるで定規で引いた鉛直線のようだ。

 ベルさんが昨日言っていた予備役として軍籍がある先生とは、たぶんこの人だろう。

 なぜか視線が合ったので、目礼しておく。


「これから、諸君には戦闘を模擬する魔術実習をやってもらう」

 どんな実習だろう?


 講師は後を振り返ると手を挙げた。そっちは教練場の外ですが?

 ん?

 その方向から、暗紺色の軍服を着た一群がやって来た。8人か。

 1列に並んで行進し、教練場に入ってくると、号令台の前に整列した。


「彼らは、諸君らの先輩だ。今は陸軍に居るが、今日は試技の手伝いに来てくれた」


     †


「学部長。よろしかったのですか? ジェラルド准教授の好きにさせて」


 教練場の脇にある校舎の一室。

 そこで2人の男が、眼下を眺めていた。


「軍の者を入れたことかね? 6、7、8人だな。本学の卒業生なのだろう」

「はい」

「何をやるかは知らないが、目的は想像が付く。彼らも必死なのだろう」


「新入生に魔術戦闘に優れることを志向させる。それが狙いですか」

「そうしておいて、軍人として望ましい人材育成に誘導する……しかし、うまく行っていたのは5年以上過去だよ、ミディール君」


「そうですね。学部長のおかげです。そんな育成方針は魔導学部の目的とは合致しない」

「だが、今年は優越すら危ういと思うが」


      †


 おおぅ。

 先輩の魔術士は、土系魔術を駆使して、4つの土の玉を空中に浮かべている。


 これはすごい。

 直径30セルメト(おおよそ30cm)の球体は、浮かぶだけではなく縦横無尽に教練場の上空を移動している。

 重力に逆らって3次元的に加減速し、しかも球体を崩さず原形を留める。

 一瞬見えた起動紋は画像記録したから、後で分析しよう。


 ところで。

 今日の実習は、あの4つの玉を撃ち落とすことだそうだ。

 めざすは、いかに短時間で撃墜するか。なお制限時間は1人1分だ。


 今は、その課題に向けて、どういう魔術を使うか検討するために与えられた時間だ。

 魔力効率が良いのは、ひとつずつ有視界で照準して、衝撃魔術で撃ち落とす手順だ。ただ、結構時間が掛かりそうだ。おそらく20秒位。遅すぎるなあ。


 僕が最近課題にしている殲滅(せんめつ)性の観点では、明らかに物足りない。

 それに、この課題では、おおよそ現実では考えられない好条件が設定されている。

 球体がこちらを襲ってくることはないのだ。よって、20秒掛かっても問題はない。

 だが、実戦を想定するなら、もっと迅速に撃ち落とさないと話にならない。撃ち落とす前にこっちがやられる。


 そうなのだが。

 この課題は、撃ち落とすより照準方法の方が厄介だ。

 最近使っていた赤外線を使った(ピットバイパー)照準は、大気と球体の温度差がなさすぎて反応しないから、最初から却下。


 そこでひらめいたのが動画解析を使う方法だ。まずは脳内でシミュレートしてみたが、うまくいかなかった。

 球体の特徴、輪郭が円である物を画像から抽出して、弾道予測して照準というのが骨子だったのだが。


 動画解析も輪郭強調処理も、シムコネにモジュールが用意されている。そこで、脳内で制御ソフトを組み上げたのだが、結果としては照準できなかった。


 いや時々うまく行くのだが、すぐ照準が外れてしまう。

 円から外れる形状認識の許容率を大きくしても駄目だった。


 なぜだ!

 地面に適当に描いた丸ですら抽出できたのに。球はどの角度から見ても円だ。円は円だろう! あれ? 描いた?

 描いた丸は動かない。


 もしかして!

 脳内システムで、発動紋を視点にした動画を再生して見てみる。

 ああっ、やっぱりそういうことか

 球体は動くと輪郭が円じゃなかった。


 動画は静止画の羅列だが、画素によって撮影した時刻には微妙な時間差がある。

 この動画は左から右へ水平に掃引(そういん)して、一段一段下にずれていく。要するに止まっている球体の輪郭は動画でも円だが、動いた球体の輪郭は斜めに引き延ばされるかもしくは縮まる。しかも、動く方向と速度が変わるから、伸縮割合が変わる。つまり、飛んで来る物が同一と認識できなくなって、位置の差分が取れなくなるのか。


 ならばフレームレート(単位時間当たりコマ数)を上げれば!

 そうすれば伸縮は小さくなって円に近付くが、フレームを間引かないと、今度は弾道予測計算が追い付かなくなる。

 弾道予測計算をサロゲートモデル(※)に替えるか。


「検討時間は、残り3分!」


 だめだ!

 機械学習の時間がない。

 他に照準方法はないのか?


     †


───クラウディア目線


「検討時間は終了だ。技能学科25番!」

「はい!」


 隣で驚いたようにベルが返事をした。

 そのまま彼女が号令台の前に立った。


「合図の前に魔術起動は禁止だ。試技の時間はあの経時魔導具で計測する。不正があれば、検知できるからな。そのつもりで」

「了解です!」


「準備は?」

 問うたのは先輩方にだ。


「できております」

 ジェラルド先生の口角が上がった。

「では、初め!」


 遠隔攻撃魔術は、的が動けば難度が跳ね上がる。


 ベルの周りの魔界強度が上がっていく。やがて(つえ)の先端が白く煙った。

 衝撃波魔術だ!


「「「おおお!」」」

 宙に白い筋が走り、ひとつの球体に命中した。粉砕して飛び散った。


 やるぅ。ベル!

 思わず拍手すると、辺りからも聞こえてきた。あと3つ!

 しかし、好調だったのはそこまでだった。


「加速せよ!」

 えっ?

 先生の命令に、球体が飛び交う速さが倍増した。


「あぁぁ」

 ベルの溜息(ためいき)が聞こえてきた。

 その後、ベルが何度も衝撃波魔術を繰り出したが、ことごとく空を切り、そして


「終了だ! 1分が経過した。破壊は1つか。ふむ、新入生としてはこんなものか」

 ああと、ベルがうなだれた。

 彼女が戻ってきたので、私が拍手で迎えたが、今度はパラパラとしか聞こえてこなかった。


「途中で速くするなんて!」

「ディア。慰めは良いわ」

 そう。ベルは見た目以上に誇り高いのだ。


「次は、技能学科12番!」

「はい」

 中尉だ。今度は中尉が指名された。

 彼はどうなんだろう。確かに魔力は強いし、魔術発動は早い。


 ただ、この試技は余り向いているとは思えない。狙いがはずれれば魔力があっても意味がない。

 中尉ことゲオルギーが、号令台の前に立った。


「準備は?」

「できております」

 ジェラルド准教授の口角が上がった。

「最初から、高速でやれ。では初め!」


 4つの的は、宙に浮いて不規則に動いている。

 あれを撃ち落とすのは1つでも大変だ。ベルがやったようにひとつずつ落とすしかないが、彼はどのぐらいの時間で?


 そう思っていると、中尉の周りの魔界強度が、急速に増大した。

「何をするつもりなの、こんなに魔力が」

 ベルも同じことを思ったようだ。


 ただの土玉を壊すのに不釣り合いの魔力量。

 だかもう魔界強度が一段上がった。


 そして、悠然と杖を構えた。

 狙っていない?


 彼は突如走り出して、的の下へ向かった!


衝撃(シーリヌィ)!!≫


 天に突き出した杖の先端に、目映(まばゆ)い発動紋が現れた刹那、宙が白く煙った。


「ダァァン!!」

 うっ!

 思わず耳を押さえる!

 その白い波動は急速に拡大し、上空に広がった。


 見上げてみると、上空に球体は存在していなかった。

 撃ち落とすというよりは、広範囲の衝撃波で木っ端微塵(こっぱみじん)に分解したというのがふさわしいだろう。


「ふん。私に当て付け? 同じ魔術でなんて」

 ベルが、吐き捨てた。


「何秒だ?」

「はい。11秒です」


 11秒!

 呆れるほどの力業。

 しかし、ひとつひとつ撃っていたのでは、けして到達できない時間だ。


「おおぉぉ」

 歓声が上がり拍手している。周りを見回すと、軍籍学生はニヤついている。


「ふむ。なかなか良いぞ。新入生とはいえ、さすがは技能学科。そろそろ、理工学科にもやらせてみようか? 自信のある者は居るか?」


 うわっ。ちょっと、なんで(あお)るの?

 左の方に固まっている理工学科の学生は。皆、うなだれているわ。

 そりゃ、そうだ。中尉のやりようを見せつけられれば、技能学科生ですら萎縮する。

 学科間で対立させるつもりなのかしら。


「では、理工学科7番」

「はい」

 答えたのは、なんとレオンだった。



※サロゲート(代理)モデル:物理シミュレーションを機械学習で代替するモデルのこと。結果を得る時間が短縮できるが、事前に学習時間が掛かる。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/12/10 誤字訂正、微妙に加筆

2025/03/26 誤字訂正 (毛玉スキーさん ありがとうございます)

2025/04/01 誤字訂正 (笑門来福さん ありがとうございます)

2025/04/02 誤字訂正 (弥彦乃詩さん cdさん ありがとうございます)

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ローリングシャッターじゃそら無理よ
そ。うベルは見た目以上に誇り高いのだ。 そう。ベルは見た目以上に誇り高いのだ。
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