表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/274

45話 光表現の革新

兵器よりその運用方法こそが革新と言われますよね。でも(誤)桶狭間(正)長篠の戦いの火縄銃3段撃ちは虚構とか言われるようになったしなあ。

「レオンにいちゃぁぁん」


 王都に来てから、5日ばかり過ぎた日。

 ダンカン叔父さんの家へやって来た。客間に通されて待っていると、かわいい声が聞こえてきた。


「ヨハン君。こんにちは」

 通してくれたメイドさんは、昼寝をしていると言っていたけれど、起きたんだね。


「うん。こんにちは」

 最初に会った時と、反応が違う。明らかに機嫌が良い。


「あのね、あのね。おふねがうかんで、かっこういいんだよ」

 僕が渡したおもちゃのことだ。本当に気に入ったらしい。


「もう! ヨハンたら、走ったら危ないわよ。ああ、レオン君いらっしゃい」


「ロッテさん。こんにちは。そして、おめでとうございます」

「あっ……うん。ありがとう」

 ロッテさんは、サロメア歌劇団養成学校の入学試験に合格したそうだ。

 今日は、その祝賀会に招かれたのだ。


「おねえちゃん。かおあかいよ」

「紅くなぁい」

 本当の姉弟のようだなあ。


「ロッテさん、これを差し上げます。お祝いです」

 カバンから出した、長い紙箱をロッテさんに渡す。

「えっ。私に?」

「はい」


「ありがとう。でも、レオン君だって、もうすぐ入学なのよね」

「いえ。この前、祝ってもらったし」

「そう? すぐに開けて……いや、お祝いの時に開けて良いかな」

「はい」


「10月から養成学校ですか」

「うん。ダンカンさんに学費を出してもらうけれど、お姉ちゃんが研究生になったから、減るから」


 ダンカンさんか。

 アデルさんは、お父さんと呼んでいるけれど。やはりダンカンさん呼びなんだ。わだかまりがあるんだろうなあ。


「研究生は公演に出る……って、以前どこかで聞いたことがありますけど、普通の生徒とは違うんですか?」

 あぶないあぶない。アデルさんから聞いたと言いそうになった。

 危険だ。

 下宿先に来たことは家には告げていないと言っていたからな。下手なことは言えない。女子は勘が良いからね。


「へえ、よく知っているわね。研究生はいわば俳優の卵なの。現在の歌劇団の多くの俳優は研究生を経ているわ。それでね、待遇が変わる。だから、養成学校の生徒になったら、まず研究生になることを目指すの」

「そうなんですね」

「うん。また差を付けられちゃった」


 わかる。

 やはり優秀な兄姉を持つと意識するよなあ。

 けれど、僕は2人の兄を大好きだし、ロッテさんもアデルさんを好きなのは、見て居て分かる。くやしいというより、少し残念というところなのじゃないかな。まあ、少し当たりはキツいけれど。


「なんで笑うの? どうせ、お姉ちゃんには勝てないって思っているんでしょう」

 おっと。

 ほほえましいと思ったのだけど、通用しないよな。


「アデルさんに敵わない。そんなことを思っているのは、ロッテさんだけじゃないですか?」

「はっ?」

「兄弟姉妹なんて、お互い競う心を持って当然でしょう。僕には、ご存じの通り兄が居ます。それが、僕が言うのもはばかられるのですが、なかなかの人物でして」


「あっ。うん。そうかもね」

「それで、相手にならないと思って、僕は別の道を目指しています」

 それ以前に、制御がやりたかったんだけれども。


「ですが、ロッテさんは、立派です」

「なっ、何がよ!」

「アデルさんに、真正面から同じ道で挑もうとしている。立派です」


「むぅぅ。ふん」

 何か気に触ったらしく、横を向いてしまった。


「ところで。さっき、船のおもちゃを浮かべるって、ヨハン君が言ってましたけど、どこかの池で遊んでいるんですか?」

「ううん。池は危ないから、でかいタライに浮かべているのよ」

「そう。タライだよ」

 目線はロッテさんの手元。彼は箱が気になるようだ。

 答えてくれたから、完全に嫌われたわけではなさそうだ。


 その時、勢いよく扉が開いた。

「お姉ちゃん」

 振り返ったロッテさんの手が素早く動いて、箱を隠した。

「おねえちゃん、おかえり」


「ただいま」

 アデルさんが、客間に入って来た。この前も見た制服姿だ。


「レオンちゃん、久しぶり」

 いたずらっぽく、ウインクした。


「お久しぶりです。アデルさん」

 やっぱり下宿先へ来たことは内緒らしい。


 そのまま僕のすぐ傍まで来ると、隣のソファーに座った


「お姉ちゃん。着替えてきたら?」

「それどころじゃないのよ」

「えっ?」


 そして、カバンから薄い本を取りだした。表紙も硬くはない本だ。


「レオンちゃん、これを見て」

 演劇評論10月号。ああ、月刊誌ってヤツだ。印刷が結構雑だな。


「演劇の冊子ですか? アデルさんが、載ったとか?」

「そうじゃなくて、ここ!」

 表紙を指した。


「緊急特集、新表現生まれる……」

「そうそう、それでね」

 しおりを挟んであったページを広げる。


「本誌評論家が、地方都市エミリアで見た、新演劇表現!」


 これは!

 ヴァルドス師が拓いた、光表現の革新。

 やっぱり、あれのことか。

 でも、あれからまだ半月ぐらいしか過ぎていないけれど。


「それも具体的でね。7色の照明を駆使して、水を炎を、形なき物を描き、段違いに臨場感を増すことに成功。幸運にもこのエミリア劇場に招待され、目の当たりにした私は、魂を揺さぶられた。神に感謝だって。このコニックって評論家は、いつも嫌みで辛口評論で有名なのに、3ページに渡って、ずっとヴァルドス師を褒め千切っているのよ」


 ああ、あの2人組のどちらかだろう。始まる前は、斜に構えて結構ひどいことを言っていた。


「このエミリアって、レオンちゃんの故郷よね」

「ええ。確かに炎の表現には感心しました」


「んん。何て?」

「いや、炎の……」

「ちょっと! なんでレオンちゃんが知っているのよ!?」

 えっ、何か怒っている?


「なんでって、その舞台を見たからですが」

「うそ! だって、伯爵夫人の誕生日をお祝いした、1回きりの舞台だったって」


「はい。母が伯爵夫人と親交があるので、お祝いとしてヴァルドス師を招いて、企画した舞台ですから」


 義姉さんに聞いたところによると。

 準備やら企画は母様ががんばったそうだけど、費用は夫人の取り巻きたち何人かと出し合ったようだ。1人でやると、やっかみを受けるからね。この辺りも巧妙なんだよなあ。母様は。


「本当……みたいね。うそ。くやしぃぃい、私も見たかったぁ」

「ははは。ちなみにですが、ここ」


「何?」

 演劇評論の一文を指す。

「なめらかな調光をもたらした魔導投光器は、エミリアにある商会が開発した物で……まさか!?」


 うなずく。

「ウチの商会だったの!? そうかあ。あっ!

お父さぁん!」

「お姉ちゃん、落ちついてよ。ダンカンさんは、まだ帰ってきていないわよ」

「そっ、そうよね。ねえねえ、レオンちゃん」


 アデルさんは、僕の手をとって両手で挟み、自分の胸元に持っていった。

「えっ?」

 柔らかい手だな。すべすべしているし。

「そのすごかった、炎の表現ってどういう感じなの?」

「お姉ちゃん」


「そうですね」

 隠す程のことじゃないだろう。


「薄衣に風を当てると、ひらひらとなびくじゃないですか」

「うんうん」

 大きい瞳で、僕を見上げてくる。


「薄衣を細い三角に裂いてなびかせたうえに、そこに赤やら黄色の光を当てていたんですが。本当に炎が燃え上がっているように見えました」


 アデルさんの瞳が、不規則に動いている。想像を巡らしているらしい。

「あぁ、なるほど。すごいかも!」

 手を引っ張られた。


「ですよねえ。その仕掛けは、ヴァルドス師と劇団の人が考えたそうです」

「へえ。そうなんだ」

「ちょっと、レオン君とお姉ちゃん。引っ付きすぎ!」

「ひつきすき」

 ヨハン君が舌足らずに、反復した。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/11/29 誤字訂正

2023/12/22 前書き 桶狭間→長篠(kurokenさん ありがとうございます)

2025/03/26 誤字訂正 (うきしんさん 毛玉スキーさん ありがとうございます)

2025/04/09 誤字訂正 (kokeさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
モテるって良いです
[一言] 三段撃ちは桶狭間じゃなくて、長篠の戦いですな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ